50〜60代で次々に抜け始める歯…面倒な 「部分入れ歯」の手入れ、サボることによって招く「恐ろしい事態」【歯科医師が警鐘】

(※写真はイメージです/PIXTA)

50代、60代になると、歯周病の悪化によって歯が抜け始める人が増えていきます。歯が抜けてしまうことによる身体への影響は、思っている以上に甚大なものです。本記事では医療法人社団アスクラピア統括院長の永田浩司氏が、歯が抜けることによる影響と、部分入れ歯の適切な手入れ方法について解説します。

歯が減ったことによる健康な歯への影響

50代、そして60代になると、歯周病の悪化などによって歯が抜け始めます。自分では支障がないと感じていても、歯が1本でも少ない状態でいることは、歯の3つの機能「咀嚼」「発音」「見た目」に影響をおよぼします。

特に影響が大きいのが咀嚼です。歯が減る前と変わらない力で食べ続けていると、支える側の歯へのダメージが大きくなり、歯茎が弱ってしまう可能性があります。特に奥歯は横揺れに弱く、隣の歯がなくなったことによるダメージは大きなものです。

また、歯には「自浄作用」があります。歯ブラシで磨かなくても、咀嚼や唾液、舌の力によって歯の表面や歯間に付着した食べカスやプラーク(歯垢)をある程度、洗い流してくれるのです。しかし、歯が抜けたことによって歯並びがガタガタに変わってしまうと、自浄作用も低下して虫歯や歯周病のリスクも高くなります。

歯はずっと「動き続けている」

そして、歯は生涯にわたって「動き続けている」ことをご存じでしょうか。歯が抜けた状態でいると、まわりの健康な歯は、なくなった歯のボリュームや噛み合わせをフォローしようとします。たとえば隣の歯が抜けた歯のほうに倒れてきたり、その歯と噛み合っていた歯が伸びてきたりすることもあるのです。

このように歯が抜けた状態を放置することは、残っていた健康な歯にもダメージを引き起こし、さらなる欠損を招きかねません。噛み合わせの異常によって、口が開けにくくなる開口異常や関節雑音といった諸症状につながる可能性もあり、それが頭痛などを引き起こすこともあります。

歯周病や虫歯、口臭のリスクが高まる理由

歯がなくなったとき、多くの方が選択するのが、保険診療も可能な「部分入れ歯」をつくることでしょう。ただし、入れ歯というのは歯の機能を回復させるものではなく、あくまでも失った歯を補うためのものです。1本の歯が部分入れ歯になったことによって、お口の環境が変化し、残った歯、さらには健康にも影響がおよぶ可能性があることを知ってください。

そもそも50代、60代になると歯茎が下がり、歯ブラシで手入れしなければいけない面積が増えます。つまり若いときより念入りに手入れしなければいけないわけです。そこに部分入れ歯をつけることで、汚れが溜まりやすくなり、隙間にも入りやすくなります。歯並びに問題がなかったときに働いていた自浄作用も低下しているわけですから、歯周病や虫歯のリスクはいっそう高まるだけでなく、口臭の原因にもなります。つまり、それまで以上にふだんのお手入れが重要になるのです。

入れ歯の手入れに歯ブラシを使ってはいけない

入れ歯のお手入れについては、機械的な清掃(ブラシ等を使う方法)、化学的な清掃 (薬品を使う方法) の2段階のアプローチが必要になります。どちらかだけで汚れを落とすことはできません。これは部分入れ歯、総入れ歯どちらも同じです。

まず、機械的な清掃というのはブラシを使って行います。歯や入れ歯に付着するプラークのうち、有機プラークは水で洗浄するだけで取れますが、付着プラークはブラシで磨かなければ取れません。

ブラシは歯磨きに使っている歯ブラシではなく、必ず義歯用ブラシを使いましょう。歯ブラシは歯茎を傷つけないように柔らかく作られているので、硬めに作られている義歯用ブラシのほうがしっかり汚れを落とせるからです。義歯用ブラシはドラッグストアなどで300円程度で購入できます。

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患者さんに入れ歯を見せていただくと、ブラシの傷が残っていることがよくあります。これは多くの歯磨き粉に含まれている研磨剤によるものです。入れ歯は歯よりも柔らかいため、歯磨き粉は使わないほうがよいでしょう。プラークを抑制するクロルヘキシジン配合の専用薬剤(洗浄剤)も歯医者さんで購入できますが、中性洗剤でも代用できます。

化学的な清掃は専用の洗浄剤を使って行うもので、「ポリデント」「パーシャルデント」などの商品が有名です。費用は1回5円程度なので、頻度としては3日に1回、可能なら毎日やっていただきたいと思います。金属を使った入れ歯の場合、薬剤によっては金属部分が腐食してしまうものもありますので、説明書をよく読んで購入しましょう。

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外出時、就寝時であっても外して手入れするべき理由

清掃を行うタイミングですが、部分入れ歯であっても、機械的な清掃は「食事をするたび」「外して洗う」が正解です。50、60代ではまだ通勤をしている方も多いと思いますが、外して手入れする以外の代替案はありません。口をゆすいで済ませている方もいるかもしれませんが、残念ながら爽快感以外の効果はないに等しいです。

部分入れ歯のベストな手入れ方法

そもそも高齢になると嚥下機能が低下し、誤嚥しやすくなります。誤嚥性肺炎は食べカス、唾液などが誤って気管に入ってしまった際に、口腔内の細菌が肺に入ってしまうことで起こります。入れ歯に汚れが付着したままでは、当然、そのリスクも上がってしまうのです。

次に化学的な清掃のタイミングは、就寝時がおすすめです。患者さんには「部分入れ歯であっても、夜は必ず外して就寝してください」とお伝えしています。部分入れ歯の装着時は歯茎を覆ったり、バネを引っ掛けたりして、まわりの歯にも負担をかけている状態です。口腔内の粘膜を圧迫している状態でもあるので、解放する時間がないと粘膜にダメージを与えてしまいます。

また、入れ歯に関係なく、就寝中は唾液の分泌量が半分程度に減ってしまうため、日中に唾液の自浄作用によって一定数に保たれていた細菌が増殖しやすくなります。それに加えて自浄作用を阻害する入れ歯をしたままでは、歯周病や虫歯などのリスクが高まることは明らかです。

つまり、部分入れ歯は、食事のたびに外して機械的な清掃を行い、夜寝るときは外して化学的な清掃を行う、というのがベストな手入れ方法となります。毎日の入れ歯の手入れは残っている歯や歯茎、そして健康を守ることにつながるのです。

50代、60代で部分入れ歯が必要になったということは、残っている歯も今後、弱っていく可能性があるということです。入れ歯のお手入れに加えて、隣接する歯についても今まで以上にお手入れや適合、噛み合わせなどの定期的なチェックを行ってください。

永田 浩司
医療法人社団アスクラピア 統括院長

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