矢継ぎ早やり取り「まるで洗脳」 著名人かたる投資詐欺 虎の子出させる巧妙手口とは 被害男性語る

投資の専門家を名乗る人物とのLINEのやり取りを見ながら、男性は「洗脳」された手口を語った=大阪市内(画像の一部を加工しています)

 「おかしい、と考えるのをやめてしまった」。著名人をかたる交流サイト(SNS)の偽広告で投資に誘い、現金をだまし取るSNS型投資詐欺が後を絶たない。被害に遭い、フェイスブックを運営する米IT大手メタの日本法人を提訴した神戸市の40代男性が「洗脳」と感じた巧妙な詐欺の手口を語った。

 昨年10月、フェイスブックの画面に表示された実業家前沢友作氏の投資の広告が目に留まった。「よりお金持ちになるために、投資の専門家を雇って情報提供します」とうたっていた。

 発信力のある前沢氏なら、やっていてもおかしくないと思い、クリック。すると、LINE(ライン)に誘導され、英ケンブリッジ大卒の専門家が現れた。

 「先週と昨日の取引で、私がした指導の勝率は100%でした」。成果をアピールしつつ、金融市場の動向を丁寧に教えてくれる。外国為替証拠金取引(FX)の投資用の口座を作るよう勧められた。

 別のグループチャットにも招待された。参加者が80~90人いるようだった。FXに成功した人が画像付きで「高級車を買いました」という投稿もあった。

 グループ内で「友人」もできた。投資の結果も教えてくれる。50万円で始めて、1日に数万円の利益があると打ち明けてくれた。今から思えば、こうした投稿も真偽は定かではない。

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 FX投資に消極的だった男性は、次第に引き込まれていった。既婚で家族がいる。子育ての出費はこれから必要で、老後の不安もあった。ちょうど為替が大きく変動していた時期で、投資用口座の開設を決めた。

 3回に分けて25万円を振り込んだ。買い時や売り時のタイミングは、全て専門家の指示に従った。すると少しして、「おめでとう。60ドルもうかりました」とメッセージが届いた。専用のアプリでも利益が出ていた。気分が高ぶった。

 おかしいと感じる時もあった。振込先は3回とも個人名義の口座で、銀行も毎回変わった。だが、FX取引前など矢継ぎ早に連絡が入るため、いつの間にかスマートフォンが手放せなくなっていた。

 昨年末、家庭の事情で資金が必要となり、証券会社の担当者に返金を求めた。「72時間以内に送る」と連絡があったが、返ってこない。ラインで交渉を続けたが、しばらくして返事が途絶えた。

 そこで詐欺だと気付いた。「普段なら証券会社がおかしいとか思うはずなのに…。考える余裕がなく、洗脳されていたんだと思う」

 先月、偽広告への対応が遅かったとして、他の被害者らと米IT大手メタの日本法人に損害賠償を求める訴訟を起こした。「被害者を増やさないよう、企業の責任として詐欺広告に真剣に取り組んでほしい」。そう願っている。

     

 警察庁などによると、SNS型投資詐欺について、1~3月に全国の警察が認知した被害は1700件(前年同期比1429件増)で、被害総額が計約219億3千万円(同190億2千万円増)。このうち兵庫県内の被害は122件、総額約16億7400万円に上った。(長沢伸一)

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