作者自らトリック考案!? 何作続いた?ファミコン名作「山村美沙サスペンス」の大きすぎる存在感

ファミリーコンピュータ(編集部撮影)

200冊以上の作品を書き、“ミステリーの女王”と呼ばれた小説家の山村美紗さん。その小説の多くはテレビドラマ化され、『赤い霊柩車』シリーズ、『京都女優』シリーズ、『狩矢父娘』シリーズ、『名探偵キャサリン』など、各局で2時間ドラマの名作が生まれた。

1990年付近の2時間ドラマブームの時期には、家庭用テレビゲームでもサスペンスをテーマにした名作がいくつも生まれた。そんな中で山村さんが自ら手がけたゲームシリーズがあったのを覚えているゲームファンも多いのではないだろうか。

そんなファミコン時代から始まったアドベンチャーゲーム『山村美紗サスペンス』シリーズは推理小説さながらの精巧な殺人トリックの数々が盛り込まれた作品で、ドラマの世界に入り込んだかのような没入感を味わえるものばかり。本記事では、そんな『山村美紗サスペンス』シリーズの魅力に迫っていく。

■サスペンスドラマを疑体験!サスペンスアドベンチャー『山村美沙サスペンス』シリーズとは

1987年12月にタイトーから発売されたファミコンソフト『京都龍の寺殺人事件』を皮切りにスタートしたゲーム『山村美紗サスペンス』シリーズ。プレイヤーが登場人物の一人となって物語の中に入り、聞き込みや捜索を重ねて“物証と動機”を集めながら、次々起こる殺人事件を解決するサスペンスアドベンチャーだ。

山村さんは『山村美紗サスペンス』シリーズのリリースに際し、「ファミコンに興じていた頃に話が舞い込んだ。ゲームソフトの持つ不思議な魅力と奥深さを感じていたので、ペンにも力が入った」とコメントを寄せている。

リリースされているのは、ファミコン3本、PCエンジン1本、3DO1本、ニンテンドーDS1本の6作品。スーパーファミコンやプレイステーションといったハードでは発売されていないのも意外なところで、このあたりもゲーム通の好奇心を刺激するポイントかもしれない。

ゲームは「移動・聞く・調べる・取る」といったコマンドで次の行動を決めるのだが、操作方法が基本的にシンプルなのでコマンドをある程度覚えてしまえばプレイ自体は簡単である。

いずれの作品も舞台は山村作品の定番である京都で、主人公や難易度は作品によって変わる。トリックは難解なものばかりだが、セーブも可能なため、攻略を見ずにクリアを目指したいところだ。

■シリーズ全6作品の魅力に迫る

1987年の『京都龍の寺殺人事件』と1989年の『京都花の密室殺人事件』は、タイトーから発売されたファミコンソフト。『龍の寺』は、1988年に改変を加えてMSX2にも移植された。

プレイヤーの役はゲームデザイナーで、凝ったシナリオと登場人物の複雑な人間模様が特徴。『名探偵キャサリン』のタイトルでドラマ化もされている小説『キャサリン』シリーズが作品のベースで、キャサリンが推理をサポートしてくれる。

日付が変わることで得られる情報が変わったり、はたまた密室トリックがあったりと手が込んでおり、没入感はたっぷり。ちなみに、『花の密室』のほうはシステムが改良されている。

1990年には『京都財テク殺人事件』が発売された。ファミコンソフトでゲーム性は変わらないが、発売元がヘクトになりアイコン型コマンドから文字型コマンドになっている。

プレイヤーは友人が殺されたことで犯人探しを始め、財務テクノロジーに絡む大きな闇に巻き込まれていく。キャサリンが降板して女優の夏子がサポート役になる他、ゲーム内で簡単な株の売買も体験できる。

4作目は1992年にナグザットから発売されたPCエンジン用ソフト『金盞花京絵皿殺人事件』。山村さんの娘である女優・山村紅葉さんも声優として出演する初のフルボイス作品で、ゲーム性やグラフィックが格段に上がっている。料理や風景の描写もリアルで、京都らしさは過去イチだ。

プレイヤーは殺人事件に巻き込まれる雑誌記者・小早川優子役。可動域が広くなっているため動き回らないと情報が集まらないが、その分やり込み要素は高い。

5作目はパック・イン・ビデオから1994年に発売された『 京都鞍馬山荘殺人事件』。特徴は、ハードが3DOという点と初の実写ドラマ仕立てという点だ。

紅葉さんや西岡徳馬さんが出演していて、プレイヤーは小川範子さん演じるライター・園山千晶を操作し、事件を解決していく。2009年にPSPからリメイク版が発売されたが、こちらは実写ではなく、シルエットに変更されている。

最後は、2008年発売のニンテンドーDS用ソフト『舞妓小菊・記者キャサリン・葬儀屋石原明子 古都に舞う花三輪 京都殺人事件ファイル』。山村さんが亡くなった後のリリースとなった同ゲームは、監修が山村美紗オフィスになっていて、小菊・キャサリン・明子を軸に置いた3つの殺人事件から好きな話を選択可能。DSのためグラフィックも綺麗になっていて、操作もわかりやすい。

山村愛とも言うべきか、ミニキャラの紅葉さんが登場したり、「紅葉ちゃんの京都スタンプラリークイズ」があったりと、遊び心が感じられる作品である。

■小ネタを知っていたら楽しさ2倍

市場に出回っている推理作家を冠したアドベンチャーゲームの多くは、原作小説をベースにしたストーリー展開になっている。だが、『山村美沙サスペンス』シリーズはひと味違い、DS版を除く全ての作品が山村美沙さんの「書き下ろし」である。同名の小説は存在しないという、オリジナル性は何よりも魅力的な点だろう。

トリックは多少小説から取り入れているものもあるが、ドラマ・小説と同水準の物語を新たにゲームで楽しめるのは、ファンにとってもかなり嬉しいことだ。

また、『龍の寺』『花の密室殺人』のセーブポイントでもある「カフェ・ド・ミサ」のマダムは、ど派手な衣装とパーマからもわかるように、山村さん本人をモデルにしたキャラになっている。娘の紅葉さんもだが、ちょこちょこと御本人が登場しているのが面白い。

“本人”といえば、同ゲームにはしばしば芸能人をモデルにしたキャラが登場している。たとえば、『龍の寺』の狩矢警部は松方弘樹さん、橋口警部補は草野仁さん、キャサリンの恋人である浜口一郎は田村正和さんにそっくり。登場キャラを当てながらプレイするのも楽しいかもしれない。

ちなみに、狩矢警部は同シリーズで唯一全作に登場するキャラで、ドラマ「狩矢父娘」シリーズでお馴染みのあの狩矢警部だ。

アドベンチャーゲーム『山村美紗サスペンス』シリーズは、どれも山村作品らしいサスペンスになっていて、2時間ドラマを見ているかのような気持ちになれる。ハードや時代の関係でバグも多々あったが、良作ゲームには変わりない。チャンスがあれば一度プレイしてみてはいかがだろうか。

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