XIIX、境界線が触れ合ったからこそ描けるもの 2&5編成『Border=Border』で再確認したバンドの在り方

XIIXの東名阪ツアー『XIIX LIVE TOUR「Border=Border ~2&5~」』が終了した。昨年8月に行われたツアー『2&5』と同様、斎藤宏介と須藤優の2人編成でのステージと、サポートメンバー込みの5人編成でのステージを一つのライブ内で披露する趣旨のツアー。固定メンバーは2名のみというフレキシブルなバンド編成や、斎藤と須藤の演奏・編曲力の高さを活かしたXIIXならではの公演だけに、個人的には前回の『2&5』が3公演のみだったことを惜しく思っていたため、シリーズ続行の判断がまず嬉しい。今後もぜひ続けてほしい。

XIIXといえば、昨年7月にセルフタイトルの3rdアルバム『XIIX』をリリースし、その後全国ツアー『XIIX』を開催。アルバムもツアーも一つの到達点と言っていいクオリティの高さで、ツアーに関しては、1st~2ndアルバムのリード曲でライブ定番曲だった「Stay Mellow」「Halloween Knight」なしで名刺代わりのライブを実現させた意義も大きかった(観た側の感覚としてもしばらく経ってから「そういえばなかったな」と気づいたくらいで、違和感や物足りなさはゼロだった)。

この記事でレポートする『Border=Border』初日の5月13日・Zepp Haneda(TOKYO)公演は、3月に2日間にわたって開催された自主企画『XIIX presents Eleven Back vol.2』に続く2024年3本目のライブ。斎藤も須藤も複数のプロジェクトを走らせる多忙なミュージシャンで、斎藤は山中湖、須藤は台湾でのライブを前々日に終えてから羽田に来た。「ライブするといつも久しぶりだよね」(斎藤)、「そうなんだよ」(須藤)、「もっとやりたいよ。もう公園とかでやる? 時間が合うのいつだろう」(斎藤)、「朝6時とか?」(須藤)、「さすがに声出ないかな(笑)」(斎藤)というやりとりは、このツアーをまわるためにお互いのスケジュールをどうにかパズルしたのだろうと想像させるものだったが、ひとたび2人が揃い、音を鳴らせばバンドになる。常に一定とはいかない生演奏において、どこかに力がかかれば撓む、一瞬弛みそうになれば繋ぎ止めるなどの臨機応変な対応、何気ない心配り、音でのコミュニケーションで保たれるバランスに、バンドらしさを感じた。これこそが結成からセルフタイトル作完成までに彼らが育んだものだろう。

『Border=Border』を観て感じたのは、バンドの地盤が盤石になりつつあること。同時に安寧の地に根を張るのではなく、“帰る場所があるからどこまでも飛べる”といった具合に、新しいこともどんどんやっていくのがXIIXのスタイルだということ。 それは、「XIIXはやっぱりこういうところが最高だよね」という鉄板のポイント(バンドと観客がそれを共有できるほど歴史が生まれつつあるということ)を押さえつつも、さらに上を狙うバンドの刺激的なアプローチに表れていた。

サポートメンバー不在時の「やっと2人きりになれたね」(斎藤)、「怖っ……」(須藤)という聞き覚えのあるMCが鉄板かどうかはさておき。 2人編成のステージでは、『2&5』でも印象的だった「アカシ」や「タイニーダンサー」、その場でサンプリングしたお客さんの手拍子の音と一緒に演奏する“合奏”パフォーマンスを披露しつつ、「Endless Summer」「おもちゃの街」といった楽曲も披露。『2&5』では須藤がキーボードやギターも演奏することで、必ずしも“ギター&ボーカルとベーシストの2人組”に囚われない柔軟性を強調したが、今回は「斎藤宏介のギター&ボーカルはやはりすごい」「須藤優のベースはやはりすごい」という原点に立ち還るようにシンプルなアレンジが増えた。それにより際立つのは出音の多彩さ。メロディもハーモニーもリズムもお手のものといった須藤の演奏には、「ベースってなんて奥深いんだ」とうっとりさせられる。メロディや歌詞の元来の形に対して適切なニュアンス付けを行う斎藤のボーカルに触れると、言葉の美しさや面白さを再確認できる。

斎藤がバンドメンバーの粂絢哉(Gt)、岡本啓佑(Dr)、山本健太(Key)のことを「サポートメンバーだけどステージに立ってる時はガチメンバー」と言っていたように、5人編成のXIIXはサポート云々関係なくどんどん前線に立っていこうというスタンスだ。「あれ」で粂がお立ち台でソロを炸裂させたあと、斎藤と須藤もお立ち台に乗り、3人でぎゅうぎゅうになりながら楽器を掻き鳴らす、「うらら」で自由に動く斎藤が岡本のスティック置き場からマレットを拝借し、歌いながらリズミカルにシンバルを叩く、山本のソロに聴き惚れた斎藤が「もうちょっと聴かせて~♪」と歌いながらリクエストしたためソロがもうひと回し延長されるなど、楽しい場面を交えながらバンドはスパークしていく。

また、須藤がここぞという時に踏むヤバい音が出るエフェクター(この日は「Vivid Noise」のソロで使用)があるのだが、今回のツアーでは斎藤も足元にヤバいエフェクターを搭載。「XXXXX」導入のギターソロで鳴らされた凶悪な音はジェット機のエンジン音かというくらい強烈で、最高すぎて笑ってしまった。「何より自分たちが楽しい時間を過ごしたいという気持ちでみなさんとの時間を過ごしている」(斎藤)という言葉もあったように、斎藤&須藤の「次はどんな音遊びをしようか」という少年のような心が、道を極めるストイックなミュージシャン像にも、「リスナーをもっと驚かせたい」「この楽しさを共有したい」というエンターテイナー精神にも繋がっている。それがXIIXというバンドのメカニズムだろう。

そして彼らはこのツアーにおいて、「セルフタイトル以降」という次の行き先が定まっていない(=どこにでも行ける)自分たちから出る音楽を限りなく素直に鳴らし、エンターテインメントとして見せようとしたのではないだろうか。それを踏まえてライブの構成にも触れたい。遡ると1曲目は、5人編成での「月と蝶」。『2&5』は前半が2人編成、後半が5人編成だったため、観客のうち『2&5』にも来ていた人は開演の時点で「なるほど、今回はその逆か」と理解したことだろう。しかしこれは洒落たミスリード。7曲目「Endless Summer」で2人編成になったあと、なんと再び5人編成に戻ったのだ。しかも「ハンドレッド・グラビティ」の曲中に2人から5人になるという離れ業。確かに「誰が前後半で分けるなんて言った?」という話であり、「一本取られた!」というほかないが、これは単なる天邪鬼の所業ではない。〈未完成なんだ僕らはまだ/死ぬまできっと僕らはまだ/帰り道忘れて無邪気に笑う〉と歌うこのバンドのひとところに留まれない性格、成長や体の作り変えを絶えず行っているような生き物として健全な在り方をライブ構成でも表現するとしたら、こうなるということだろう。

アンコールでは、斎藤が現在そして今後のXIIXの在り方について語り、新曲「Border=Border」を披露した。斎藤は「セルフタイトルのアルバムを出して、次はどうしようか考え中」だというこの期間に、XIIXがこれまでもこれからも歌っていきたいテーマは「自分は自分で、人は人」だと改めて思ったのだそう。「人それぞれ心の形があるとして、その形を無理に変えてまで誰かと一緒に居続ける必要はない」という持論に基づき、「それぞれの形のまま触れ合った境界線がライブであり、音楽であればいい」という表明として『Border=Border』というツアータイトルをつけたとのことだが、確かにそんなライブだったと反芻しながら思う。分かりやすい例が「ハンドレッド・グラビティ」。2人での前半と5人での後半でもちろん音像は大きく違っていたものの、曲の形自体が変わった印象はなく、“増幅”や“拡大”という言葉がしっくりくる演奏だった。演奏の手癖も美学も方法も、何なら鳴らしている楽器すら違う5人だが、バンドとして同じ方向を見ている。境界線が触れ合ったからこそ描けるビジョンがある。

目まぐるしく変化していく多展開構造の新曲「Border=Border」は一度聴いただけでは噛み砕けないほど混沌としていたが、先のMCと共通のメッセージを持つ歌詞には芯が通っていて、揺らぎ変化し続けるバンドをポジティブに楽しもうという現在のムードが表れていた。なお、10月には、全国7都市をまわるツアーが新たに開催される。この頃にはバンドの状態もライブでやりたいこともまた変わっていそうな予感だ。

(文=蜂須賀ちなみ)

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