『9ボーダー』齋藤潤&高橋克実の登場で大庭家が団結 ラスト10秒は“転落”の前兆?

金曜ドラマ『9ボーダー』(TBS系)では、これまで3姉妹のそれぞれの仕事や恋愛模様が丁寧に描かれてきた。彼女たちの喜びや悲しみ、怒りや悩みに寄り添い、その成長を見守りながら辿り着いた第6話。もはや、まるで遠くで見守る親戚のような温かな気持ちで彼女たちを応援している自分がいる。今回は誰の人生が一歩進むのだろうと心踊らせる中、意外にも描かれたのは、複雑に絡み合った大庭家の関係性だった。

失踪していた父・五郎(高橋克実)が、“品川九吾”と名乗る17歳の謎の少年(齋藤潤)と共に突如帰ってきた。その姿を見た七苗(川口春奈)、六月(木南晴夏)、八海(畑芽育)は、驚きと戸惑いを隠せずにいた。経営難に陥っているおおば湯をなんとかするために、全国の銭湯を巡ってヒントを探していた五郎は、旅先で出会った銭湯に興味があるという少年をおおば湯で働かせたいと思い、連れて帰ってきたのだという。

五郎のマイペースさと無責任さに苛立ちを隠せない七苗たちだったが、聞けば苦労人らしいという少年を無下にできず、彼を家に迎えることに。しかし、彼は何か訳ありの様子で、頑なに心を閉ざしていた。笑顔を見せることもなく、他人との接触を避けるように振る舞う品川に、声をかけたのがコウタロウ(松下洸平)だ。コウタロウの分け隔てない優しさには、今までおおば湯のメンバーも救われてきたはずだが、「俺のことより自分のことを心配したら?」と生意気な態度をとられてしまう。その態度に七苗は苛立つも、コウタロウは少年の心の奥底に不思議な寂しさが漂っていることに気づいていた。

3姉妹のもとに突然帰還した五郎は、第5話のラストで初めてその顔を見せた登場人物であり、俳優の高橋克実であることに驚く声が相次いだ。さらに第6話からは、前回衝撃の登場を果たした高橋だけでなく、齋藤潤が演じる謎の少年も加わることで、おおば湯の日常に新しい風が吹くことを楽しみにしていた視聴者も多かっただろう。

第1話の冒頭で「心配するな。あとのことは頼む」という置き手紙を残して忽然と消えて以来、家族の心配をよそに連絡もよこさず行方をくらましていた五郎。ガハハと豪快に笑うさっぱりした様子はいかにも気持ちのいいおじさんだが、頑固な一面もあり問題も多い様子。昭和の価値観を色濃く感じさせる五郎は、七苗たちが進める「おおば湯リニューアル計画」に難色を示していた。「俺はこのおおば湯を変えるつもりはない」と頑なな姿勢を崩さない五郎に、3姉妹は頭を悩ませる。

さらに、コウタロウが渡した少年の免許証から、衝撃の事実が判明する。少年の名前につく数字から会話が徐々に広がっていく中で、彼が3姉妹の弟であることが明らかになった。“品川”は母親の旧姓だったのだ。しかし、打ち解けようとする五郎に対しても、彼は「今さら家族ヅラすんな」と冷たく言い放ち、部屋を飛び出してしまう。3姉妹にとっても、弟の存在はまさに青天の霹靂だった。五郎は、どう話せばいいのかわからず、連絡もできなかったと弁明するが、あまりにも身勝手な父親の態度に、家族の心は徐々に離れていく。

ここまで一貫して、恋愛や仕事についてそれぞれの悩みがありつつも、家族はいつも仲が良く、居場所として存在していたからこそ、この展開はなかなかに心にくるものがある。

三姉妹にはそれぞれの思いがあった。19歳、29歳、39歳だからこそ、家族に対する視点も違う。幼い自分を置いて出て行った母親に対する八海の複雑な感情、仲が悪い両親を嫌悪して距離を置いていた六月。七苗も、母親から「おばあちゃんのところに行くけど一緒に来るか」と誘われた時、母親を引き留めなかったことを後悔していた。

そんな中、八海が20歳の誕生日を迎える。あつ子(YOU)もケーキを作るなど、みんな気合い十分で準備を進めていたが、家族の間には絶妙な距離感とわだかまりが残っていた。その重苦しい雰囲気を察した五郎が、重い口を開く。

「お母さんが出て行ったのは、俺のせいだ。俺がどうしようもなかったからだ。この通り、すまなかった」

五郎の真摯な謝罪に、3姉妹は言葉を失う。普段は頑固で自分の意見を押し通すことが多い父親が、頭を下げる姿に、五郎なりに家族のことを思い、悩んでいたのだと気づかされる。さらに「みんな元気でありますように」という母親の口癖が、彼女が離れた場所からも自分たちのことを思っていてくれたことに気づき、涙を流す3姉妹。弟も含めて、母親との思い出を共有した大庭家は、それぞれの思いを胸に、団欒のひとときを過ごすのだった。

大成功のうちに幕を閉じたように見えた八海の誕生日パーティー。しかしラスト10秒、その印象は少し変わる。八海が撮影したコウタロウの動画が、なぜかSNSで次々に拡散されていったからだ。八海が通知に気づいていないことから、その真意は誰にもわからないまま、動画は多くの人々の目に触れることになるだろう。今は平穏な大庭家だが、この出来事が暗い影を落とす前兆だったとしたら……。幸せの絶頂にある今、八海の動画が大庭家の運命を変えてしまわないよう、ただただ祈るばかりだ。
(文=すなくじら)

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