スーツ姿、異様な長蛇の列…記者が見た「傍聴妨害」 身内の恥を数の力で隠し通そうとした横浜市教委

横浜地裁(資料写真)

 勤務する横浜市立小学校の校長室で女子児童に複数回キスするなどしたとして、強制わいせつ罪に問われた元小学校校長の男の判決公判で、横浜地裁は24日、懲役1年6月、執行猶予3年(求刑懲役2年)を言い渡した。この被告の裁判はこれまで、市教育委員会が職員を動員して第三者の傍聴を妨害する対象となっており、過去の公判では開廷まで1時間近くあるにもかかわらず、法廷前の廊下にはスーツ姿の傍聴希望者がずらりと並んでいた。

 記者はこの被告の公判で3~4月に長蛇の列を確認。異様に感じ、約1時間並んで被告人質問を傍聴した。

 横浜市教育委員会が会見し、職員を大量動員して第三者の傍聴を妨げていたと明かしたのは判決言い渡し3日前の21日。関係者への取材で、元校長の裁判も動員をかけられていた四つの裁判のうちの一つだと分かった。市教委が組織的に「傍聴妨害」を図った裁判。公判廷では、犯行に至った経緯や謝罪が語られた。

 「子どもたちが大好きで一番大切に思い、喜ぶ顔が見たかった。なのに不安を抱かせ、本当に申し訳ありません」─。声を震わせ、謝罪した被告。当時は子どもが足を運びやすい「開かれた校長室」を目指していたという。

 女児にもらった折り紙に被告の似顔絵やメッセージが書かれており「とてもいじらしく、かわいらしくて、恋愛感情を抱いてしまった」。小児性愛については「特定の年代を好むことはない」と否定。「無理やりということはなかったと申し上げさせてください」などと釈明した。女児には「言わないで」とも伝えていたという。

 二度と子どもと関わる仕事に就かないと明言した被告。「被害者を大切に思っていたが、好きな気持ちを抑えきれなかった。許される行為ではない。浅はかで申し訳なかった」と涙ながらに語った。

 公判で被告や被害者の名前は秘匿され、元勤務先の学校の所在地なども伏せられた。審理では、被告が懲戒免職処分とされていたことも明らかになり、被害者の母親も厳しい処罰感情を示した。

 4月に行われた論告求刑公判でも48席の傍聴定員を上回る行列ができ、記者も再び列に並んだが、法廷には入れなかった。

 横浜市教委による傍聴妨害問題について、ジャーナリストの大谷昭宏氏は「加害者の教職員をかばう、世間に事実を知られたくないという思惑しか感じない」との見解を示し、「身内の恥は数の力で隠し通せると考えている」と非難した。

 性犯罪事件における裁判所の対応を巡っては「被害者保護の観点は重要」とした上で、情報の公開により埋もれていた被害を掘り起こせる可能性にも触れ、「運用の在り方については議論されるべきだ」と話した。

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