ゴジラ70周年!テーマ曲を生み出した伊福部昭と放射能によって誕生した大怪獣の関係  2024年はゴジラ誕生70周年!オリジナル・サウンドトラック「ゴジラ大全集」が発売!

『ゴジラ大全集』リマスターシリーズCD発売

記念すべきゴジラ誕生70周年にあたる2024年。国内外で大ヒットを記録している『ゴジラ −1.0』が、米アカデミー賞の視覚効果賞を受賞するという快挙に続き、ハリウッド版の新作『ゴジラ × コング 新たなる帝国』も大ヒット中。まさに今、ゴジラには追い風が吹きまくっているが、ファンにとってはさらに追い風の朗報が飛び込んできた。

今から30年前、ゴジラ40周年にあたる年に発売されたオリジナル・サウンドトラック盤CDが、『ゴジラ大全集』リマスターシリーズCDとして再発売されるのだ。しかも今回は、当時発売された20作に『ゴジラ vs スペースゴジラ』『ゴジラ vs デストロイア』を加えた全22作をリリース。リマスター技術も進化を遂げていることから音質の向上が期待できる上、1タイトル2,149円(税込)というリーズナブルな価格も魅力。この機会にゴジラ音楽を改めて心ゆくまで堪能したい。

さて、今回ラインナップされている第1作『ゴジラ』から第22作『ゴジラ vs デストロイア』のうち、実に12作の音楽をゴジラフリークが神とも崇める作曲家・伊福部昭先生が担当されている。

第1作目から音楽を担当した伊福部昭とはどんな人物?

すべてのはじまりとなった第1作目の『ゴジラ』(1954年)。その誕生には、今考えると天の配剤としか思えない数々の奇跡が重なっているが、音楽担当として伊福部に白羽の矢が立てられたこともそのひとつに数えられる。

戦前からクラシック音楽の作曲家として活躍していた伊福部は、戦後になり映画音楽も手がけていたが、『ゴジラ』の音楽を担当するにあたって周囲からは “そんなキワモノ映画は引き受けないほうがいい” という声もあったという。しかし伊福部は意に介さなかった。

水爆実験の影響で太古からの眠りを妨げられた大怪獣が蘇り、都市を蹂躙する。そんなストーリーを聞いても、当時の人々にとっては “何やら得体の知れない映画” としか思えなかったことだろう。しかもその大怪獣にどんな音楽をつけろというのか。普通に考えたら見当もつかない筈だ。しかし依頼を受けた伊福部は、その当時を回想して次のように語っている。

「台本を読みました。〈あっ〉と思いました。私と妙に境遇が似ているな、と。同時にアンチ・テクノロジーの思想も読み取ったんです」cite: 東宝ミュージック株式会社「ゴジラ・サウンドトラック・パーフェクトコレクションBOX1」  DISC1『ゴジラ』ブックレット所収のインタビューより

これぞ天の配剤。世界広しといえども、大怪獣と自分の境遇が似ていると感じる作曲家が他にいようか!伊福部は太平洋戦争中、戦時科学研究員として木材製戦闘機の開発にあたり、強化木の研究に携わっていたが、敗戦の2週間後に吐血して倒れたという。それは、鉄砲の弾にするため軍に供出されていた鉛の防護服を着用できぬまま、圧縮木材のレントゲン撮影を繰り返し、放射能を浴び続けた結果であった。

生命に別状がなかったことは不幸中の幸いだったが、伊福部が自分とゴジラの “境遇が似ている” と感じた理由がここにある。巨大で、強靭で、人類の攻撃などものともせぬ大怪獣ゴジラを伊福部はこけおどしの化け物扱いせず、戦争を引き起こす人間の愚かな所業に対する静かな怒りと平和への祈りを込め、真摯な創作姿勢で音楽をつけた。

当初は防衛隊側のテーマ曲だった「ゴジラ」のメインテーマ

「♪ドシラ、ドシラ…」というメロディーでお馴染みのゴジラのメインテーマ曲は、この第1作目の『ゴジラ』で誕生した。当初はゴジラに立ち向かう防衛隊側のテーマ曲として書かれたが、いつしかゴジラのテーマとして定着した。

1986年、東宝特撮映画の未使用フィルムを集めたVHSソフトが発売された際、そのBGMとして伊福部の音楽も数曲が新録音された。その音源はCDとして発売され、タイトルは『OSTINATO オスティナート 』とされた。この時に私たちは、“オスティナート” とは音楽用語で “何度も反復すること” を意味すると知った。『ゴジラ』のメインテーマがオスティナートの典型例で、その執拗なまでの反復は、人類にはどうすることもできない、絶望的なゴジラの強さ、大きさ、恐ろしさを表現して余りある。

他にも『キングコング対ゴジラ』(1962年)で、ゴジラとキングコングの戦いが富士山麓から熱海城付近へと移動しながら繰り広げられる場面の重量感と躍動感あふれる音楽、あるいは『怪獣大戦争』(1965年)で、オープニングやクライマックスの地球怪獣連合軍対キングギドラの戦いにおいて高らかに奏でられるマーチなど、その “大オスティナート” を無限ループで聴き続けていたいと思わせる魅力がある。伊福部の音楽にはいくら繰り返されても、聴く者を飽きさせるどころか徐々に高揚させるという、中毒性を帯びた底知れぬ魅力があるのだ。

伊福部音楽の底知れぬ魅力を物語るエピソード

『メカゴジラの逆襲』(1975年)から16年の歳月を経て、伊福部が久々に『ゴジラ vs キングギドラ』(1991年)の音楽を担当した際、次のような興味深い発言をしている。

「ゴジラとキングギドラは、今回は主題を替えてみようかと最初は考えていたんです。(中略)それでいろいろな人の意見を聞いてみたんですよ。そうしたら “伊福部さんに音楽を頼んでくるのは先方が似たようなものを求めているからだろう。全面的に替えてしまうのは、作曲家としてはそうすべきかもしれないが、映画の音楽なのだから前のモティーフを使ったほうがいいのでは” と。中には “あの主題を使わないと昔のファンに殴られますよ” などという人もいまして…。確かにファンの方のそのような声はわたしの耳にもいくつかは入っていました。むろん〈殴るぞ〉なんていうのはありませんでしたが」cite: 東宝ミュージック株式会社「ゴジラ・サウンドトラック・パーフェクトコレクションBOX4」 DISC18『ゴジラvsキングギドラ』ブックレット所収のインタビューより

もちろんゴジラファンにそんな凶暴な人はいない(と信じたい)が、伊福部音楽の底知れぬ魅力を物語るエピソードではある。ともあれ、結果的に伊福部が音楽家としての創意を抑えてまで “前のモティーフ” を使い、ファンの気持ちに応えてくれたこの『ゴジラ vs キングギドラ』は、娯楽に徹した内容の面白さ共々、久々の伊福部昭登板により、観る者の心に深く残る作品となった。

そして “ゴジラの死” が描かれたシリーズ第22作にして平成vsシリーズの最終作となった『ゴジラ vs デストロイア』(1995年)。そのクライマックス、伊福部は本作の音楽についてこう語っている。

「とにかくわたしが思っているよりも支持してくださる方が多いので、何ていうのかな、喜びみたいな深謝みたいなものを感じています。(中略)ゴジラが生まれるところから死ぬところまでやったんですから、ちょっと責任を果たしたような気がします。」cite: 東宝ミュージック株式会社「ゴジラ・サウンドトラック・パーフェクトコレクションBOX5」DISC22『ゴジラvsデストロイア』ブックレット所収のインタビューより

伊福部が音楽を担当したゴジラ映画は本作が最後となり、そののち2006年に惜しまれながら帰らぬ人となった。しかしゴジラ同様、伊福部昭の音楽も不滅である。その後のゴジラ映画でも、ここぞという場面では伊福部の音楽がスクリーンを彩り続けている。

「ゴジラ−1.0」でも効果的に使われた伊福部音楽

話題の『ゴジラ−1.0』でも、銀座に上陸したゴジラが建物の向こうからその巨大な全貌を現わす場面、あるいはクライマックスで、号令一下 “海神作戦” が開始される場面で、心憎いほど効果的に伊福部音楽が使用されている。

共に大ヒットを記録した『シン・ゴジラ』と『ゴジラ −1.0』。このいずれかの作品で初めてゴジラに接した方も多いことと思う。そんな方は是非、その原点である第1作目の『ゴジラ』にも触れていただきたい。終戦からわずかに9年しか経っていなかった時期に、作り手はどんな心境で本作に携わったか。その当時に思いを馳せつつ、「♪ドシラ、ドシラ…」の旋律に身を任せようではないか。

カタリベ: 使徒メルヘン

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