【5月25日付編集日記】初夏の風物詩

 よほど危機感があったのだろう。江戸時代に相馬地方を治めていた相馬中村藩が、ある年の5月、握り飯や水などを度を越した高い値段で売ってはならない旨のお触れを出した。監視役が見張っており、間違った考えを起こさないようにと、くぎを刺している

 ▼当時から相馬野馬追を楽しみにしている人は多かった。各地から訪れた見物客でにぎわうなか、年に一度の稼ぎ時とばかりに、こうした商売が横行していたようだ

 ▼今回も強い危機感からの決断だった。これまでの7月から5月開催に変更になった野馬追がきょう、開幕する。猛暑で熱中症になる人が相次ぎ、馬も死んでしまう事態に、日程が前倒しされた

 ▼最大の見どころ、神旗争奪戦も快適に見られるようになるだろう。騎馬武者の色鮮やかな指旗が乱舞する光景は、まさに時代絵巻そのもの。そのデザインがよほど印象的だったらしい。草野心平は短いエッセーの中で、行進する騎馬武者の48もの指旗の特徴を一つ一つ書き連ねている

 ▼見どころが詰まり長年愛されてきた炎天下の行事が、初夏を彩る風物詩として定着するのに時間はかかるまい。時代を映して変えるところは変え、伝統をつないでいく懐の深さがあるから。

© 福島民友新聞株式会社