子どもながらに胸キュン!当時は珍しかった? 『りぼん』名作少女漫画「衝撃のキスシーン」

「特別展 りぼん」公式ビジュアル

少女漫画の中で女子のハートを高ぶらせるもの、それは胸キュンなキスシーンである。いやらしすぎてはいけない。あくまでも爽やかで、さらに「えっ、ここでそんな風に!」という意外性があるシチュエーションが読者のハートをつかむ。

今では少女漫画にキスシーンが描かれることも増えたが、昭和から平成初期にかけての作品はまだそういったシーンが少なく、描かれるたびにドキドキしたもの。そこで今回は、『りぼん』(集英社)の名作少女漫画のキスシーンを振り返ってみよう。

■マーブルチョコを見ると思い出す…『天使なんかじゃない』

1991年から『りぼん』に連載された矢沢あい氏の漫画『天使なんかじゃない』は、私立聖学園の第一期生となった主人公の冴島翠を中心に繰り広げられる青春物語。根は優しいけど見た目が怖い須藤晃と翠の恋は甘く切なく、当時キッズだった筆者は「高校生はこんな恋をするのか……」とドキドキしながら読んでいた。

名シーンの一つが、“観覧車でのマーブルチョコ味のキス”だ。描かれたのはコミック2巻。翠は晃と両想いになり幸せの絶頂を迎えていたが、彼と学校の教師・牧博子の繋がりを知り、疑念を抱く。関係性を聞けない翠のもやもやは次第に募り、態度にも出始めてしまう。

異変を察した晃は「話がある」と翠を連れ出し、「おまえの一番行きたいとこいこうぜ」と提案した。遊園地に行った二人は楽しい時間を過ごし、最後に乗ったのが観覧車だった。

不安でいっぱいの翠はマーブルチョコで落ち着こうとするが、動揺してチョコをこぼし、感情があふれてしまう。晃はそんな翠を受け止め、マキちゃんこと牧博子先生と、先生の恋人で晃の異母兄でもある坂本将志との関係を語るのだった。

晃の気持ちを知り安心した翠は喜び、明るい笑顔を見せる。そして二人は、2周目の観覧車の中でこぼしたマーブルチョコを拾いながらキスをする。二人の心が一つになったこの瞬間、晃が言った「マーブルチョコの味」は読者にとっても忘れられない一言だ。

■未遂は最多? 壁ドンにも憧れた『ときめきトゥナイト』

昭和の少女漫画でも人気が高かった池野恋氏の『ときめきトゥナイト』。1982年に『りぼん』での連載をスタートした同作は、魔界と人間界を軸に展開するラブストーリーだ。魔界人の江藤蘭世と魔界の王子でありながら人間として暮らしていた真壁俊の恋は、胸キュンシーンのオンパレードである。

俊は、一途ながら寡黙でツンデレな性格だった。突き放したかと思いきや不器用な愛情を見せたりと、彼の行動は読者の心を大いに刺激したものである。

名キスシーンといえば、“口封じキスからの壁ドン”だろう。これまでに幾多の未遂があり、俊の夢で一度キスもしているが、現実世界ではこのシーンが初である。描かれたのはコミック10巻で、俊が転生した後のこと。

復活した冥王ゾーンは、魔界を征服するために冥界の扉を開き、冥界の魂を流入させた。ゾーンを止めるべく魔界人たちは魔界に向かうが、俊は一緒に行こうとする蘭世を「おまえはここにいろ」と突き放す。

「わたしはどんなときだって真壁くんのそばにいたいのよ!」と駄々をこねた蘭世に対し俊が取った行動が、腕をグイッと引き寄せてからのキス、そして壁ドンである。

過酷な運命に巻き込まれ王子としての責任を担うことになった俊を心配していた蘭世と、愛する蘭世を危険から遠ざけるために人間界に残ってほしかった俊。愛し合う気持ちがぶつかった名シーンだった。

■大人びた小学生のキスにドキドキ『こどものおもちゃ』

『こどものおもちゃ』は、1994年に『りぼん』での連載をスタートした小花美穂氏の漫画である。小学生を主軸に、学級崩壊、芸能界、いじめ、恋愛といったテーマを、絶妙なギャグと絡めながら描いた名作だ。

主人公の倉田紗南と羽山秋人は小学生のため、当たり前といえば当たり前なのだが、そこまでキスシーンが多くない。そんな中で印象的だったのが、“社会科見学での不意打ちキス”だ。

描かれたのはコミック2巻。この頃は秋人がクラスメイトの子役タレント・紗南に片思いをしており、紗南は恋人(ヒモ)兼世話役として雇っていたマネージャーの相模玲を本気で恋人だと思いこんでいた。

あるとき玲の元彼女が現れ、紗南は動揺する。玲は「紗南ちゃんが一番大事」と言うが、大人びていた秋人は、玲に「相手が子供だからそのうち冷めると思ってんだ。あんまり子供をナメてんじゃねーぞ」と告げる。一方で、その心の中は嫉妬で燃えていた。

後日行われた都庁の社会科見学で、紗南は悶々としていた秋人にジュースをあげようとするが、つまづいて頭からかけてしまう。名シーンが描かれたのはそのときだった。頭を拭こうと近づいた紗南に、秋人が不意打ちのキスをしたのである。

これは秋人なりの好意のアピールだが紗南は全く気づかず、ファーストキスだったうえに人前ということもあり大騒ぎしてしまう。「なんでキスしたの?」と聞かれ、「…キライじゃないから」と答える秋人の不器用さにもニヤニヤしてしまうエピソードだ。

■華やかな芸能界にも憧れた『ハンサムな彼女』

最後は、1988年から『りぼん』で連載されていた吉住渉氏の漫画『ハンサムな彼女』を振り返りたい。同作は芸能界を軸に繰り広げられる恋愛物語で、主人公は女優として活躍する萩原未央。映画監督を目指す熊谷一哉に恋をした彼女は、三角関係になったり芸能界の問題が起こったりと一筋縄ではいかない恋に翻弄されながらも、一哉への想いを貫いていく。

名キスシーンは、コミック7巻で描かれた“ロスの一夜でのキス”。このとき一哉は、映画監督のアーサー・クライトンのもとで撮影技術を学ぶためアメリカに渡っていて、二人の間には距離があった。

アーサーの息子のキースからアメリカで一緒に組もうと誘われた一哉は、キャリアと恋の間で揺れる。一方、何も知らない未央は撮影でロスに行き、一哉をサプライズ訪問するが、ホテルにもスタジオにもおらず会えなかった。携帯電話が普及していない時代のもどかしさを感じる一コマである。

何とか会えた二人はロスデートを満喫し、キース宅に泊まることに。未央は、同室の一哉に緊張するが、そんな未央を見た一哉がキースの部屋に行こうとすると覚悟を決め、「いっしょに…いて…」と抱きつく。そして、見つめ合った二人は無言でキスを交わすのだった。

このシーンは1ページ3コマの中に2回のキスが描かれている。セリフがないので、より未央のドキドキや二人の想いが伝わる名シーンだった。結局部屋は別になるが、ついに大人の階段を登るのかと読者をドギマギさせたエピソードでもある。

これらの作品をリアルタイムで読んでいた読者は、主人公たちの身に起こる恋のトラブルや王道のラブ展開に夢中になったものだ。様々な恋愛経験を経て大人になった今、改めて振り返ってみてはいかがだろうか。

© 株式会社双葉社