知られざるブルーインパルスの内部事情、実はスゴイ!1番機パイロットの役割とは?【ブルー密着 後編】

3rd訓練を終えた1番機“BENGAL”川島良介3佐(前席)

航空自衛隊のアクロバット飛行チーム「ブルーインパルス」の訓練を取材すべく、ブルーインパルスの本拠地・松島基地に訪れました。

本記事【前編】はこちら
ブルーインパルス“司令塔”1番機パイロットの使命、基地上空訓練でわかったこと【ブルー密着 前編】

前編に続き、ブルーインパルスの“司令塔”である1番機のパイロットに密着。今回は、1番機パイロットが展示飛行にかける思いのほか、ブルーインパルスパイロットの内部事情まで明かしてもらいました。さらに、同基地所属の第21飛行隊F-2戦闘機の訓練も紹介します。

F-2B戦闘機、飛ぶか!?

航空自衛隊松島基地には、「ブルーインパルス」こと第11飛行隊のほかに、F-2戦闘機の戦闘機操縦課程教育を行う第21飛行隊が所属しています。航空自衛隊でウィングマークを取得してF-2の配属になったパイロットは、ここ松島基地で一人前のF-2パイロットになるんですね。

この日はブルーインパルスの2nd(2回目)訓練が終了したタイミングで、F-2の訓練飛行を開始するとのこと。急いで移動し、訓練を見学させてもらいました。

第21飛行隊の格納庫の前に到着すると、すでに複座型のF-2Bにパイロットが搭乗し、離陸に向かう直前でした。

ところが、この日は朝から天気は良かったものの風が強く、訓練の実施が危ぶまれているとのこと。一見学者という立場でありながらハラハラしつつ、滑走路に移動していくF-2Bを追います。

© FlyTeam ニュース訓練開始直前の第4航空団第21飛行隊所属F-2B戦闘機

© FlyTeam ニュース強風で訓練実施が危ぶまれる中滑走路に向けて移動していきます

しばらく待っていると、「訓練中止!」の連絡が入ってきてしまいました。残念ですが、時おり立っていられないほどの強風だったので仕方ありません。飛行する姿は見えなかったものの、滑走路から戻ってくるF-2を正面から捕らえられました。

© FlyTeam ニュース滑走路から戻る途中。戦闘機の正面画はカッコいいですね © FlyTeam ニュース次々と戻ってきます © FlyTeam ニュース後ろから見てもやっぱりカッコいい

「低っっ!!」OR隊員による基地上空訓練

ブルーインパルスの訓練に戻ります。前編でも紹介しましたが、ブルーインパルスの訓練は通常1日3回(8時/10時30分/13時30分)行います。今回の3rd (3回目)訓練は、2nd(2回目)に続いて第3、4区分の展示飛行課目を実施します(区分については前編で簡単に説明しています)。

ブルーインパルス“司令塔”1番機パイロットの使命、基地上空訓練でわかったこと【ブルー密着 前編】

2ndでは4機(1番機、3番機、5番機、6番機)でしたが、3rdは3機(1番機、4番機、5番機)で行うとのこと。訓練は毎回6機で行っているわけではないのですね。

訓練前のブリーフィングも3回の訓練ごとにしっかり行います。3rd訓練は、1番機前席が“BENGAL”川島良介3佐、後席が“EDGE”江尻卓2佐、4番機が“IKKI”手島孝1尉、5番機が“ZEEK”藤井正和3佐です。

ブルーインパルスのパイロットは、配属1年目はTR(TRAINNING READINESS)として先輩パイロットから演技を修得しつつ、航空祭などの展示飛行でナレーションを担当したり、後席に搭乗したりします。2年目になるとOR(OPERATION READINESS)として展示飛行デビューします。そしてラストイヤーの3年目では、展示飛行を行いつつ、担当ポジションの教官としてTRメンバーを指導する立場となります。

© FlyTeam ニュース左から飛行班長の1番機"BENGAL"川島3佐、飛行隊長の1番機(後席)"EDGE"江尻2佐。右から5番機"ZEEK"藤井3佐、4番機"IKKI"手島1尉 © FlyTeam ニュース今回も「ナウ」のハンドサインでブリーフィングを締めます © FlyTeam ニュースちなみに航空祭などのイベントで着用するブルーのパイロットスーツは訓練時は着用せず。航空祭など特別な日のみの使用

今回の訓練で前席に座るパイロットは全員OR隊員です。前編で取材した2nd訓練は、TR隊員のための訓練だったため、通常よりも地上高く1000ft(約300m)で飛行していました。

TR訓練は、訓練の段階によって地上から1000ft(約300m)、700ft(約200m)、500ft(約150m)と飛行制限があり、訓練の最終段階になって初めてミニマムの距離300ft(約100m)で飛行できるようになります。

3rd訓練は全員OR隊員のため、300ft(約100m)で飛行可能です。前回よりも迫力ある姿が見られるかもしれません!

今回も晴れ間は広がっているものの、風が強いため強風専用の滑走路から離陸します。使用するのは2番機(ポジションは1番機)、3番機(ポジションは4番機)、4番機(ポジションは5番機)です。スモークを出すと、テイクオフしていきました。

© FlyTeam ニュース出発!1番機前席“BENGAL”川島3佐と後席“EDGE”江尻2佐がお手振り © FlyTeam ニュース今回も強風時専用の滑走路にてテイクオフ

第3、4区分の訓練のため垂直系の課目は実施しない予定だったのですが、訓練中に天候が変化したからか、後半の方で少しだけ垂直系の課目…デルタループ…を実施するというレアな構成を見ることができました。

また、前回の訓練と比べて200m近く低く飛んでいただけあって、隊舎の屋上から見学していた筆者らの眼前すぐ近くをローパスしていく姿は圧巻でした。

© FlyTeam ニュースチェンジオーバーターン! © FlyTeam ニュースレベルオープナー(かな) © FlyTeam ニュースサプライズ(?)で実施したデルタループは圧巻でした © FlyTeam ニュース低っ!!! © FlyTeam ニュースみんなが大好きな課目「ロリコン」ことローリングコンバットピッチ © FlyTeam ニュースちなみにブルーインパルスのパイロットも「ロリコン」と呼んでいましたよ © FlyTeam ニュース無事着陸 © FlyTeam ニュース機体を誘導する整備員 © FlyTeam ニュース基地の外柵近くから訓練を見学していたファンの方にお手振り © FlyTeam ニュース4番機の“IKKI”手島孝1尉はこの撮影から数日後の2024年4月22日、ブルーインパルスとしてのラストフライトを終えました © FlyTeam ニュース救命装備室にて、訓練後にマスクについた汚れを几帳面に拭きます

実はとっても損なポジション? 1番機飛行班長に求められる超大変な能力と業務量

訓練を終えた1番機の飛行班長“BENGAL”川島3佐にお話を伺いました。
筆者も含め知らない人も多いと思うので、ブルーインパルス1番機の飛行隊長(“EDGE”江尻2佐)と飛行班長(“BENGAL”川島3佐)の役割の違いについて聞いてみます。

© FlyTeam ニュース訓練前のブリーフィング後に笑顔を見せる飛行班長“BENGAL”川島3佐(右)

「1番機は編隊長というリーダーの役割ですが、ブルーインパルスの中で唯一2人体制です。隊長は整備員も含めて飛行隊を全部束ねる立場で、人事的な業務も担当しています。班長は、飛行隊員(パイロット)を束ねる立場でありつつ、展示飛行の計画を立てるような業務も担当しています」

パイロットは飛行することが任務だと思っていたので、事務的な作業を行っているというのは意外でした。

「ほぼ毎日1日3回の飛行訓練があって、訓練が終わる15時以降が勝負!という感じで事務作業をこなしています。航空祭で展示飛行を行う前に“こういった展示を行いますよ”という内部資料は班長が作成しますし、地方のイベントなどで飛ぶ場合は、1か月、2か月前から該当地域の管制機関と電話やメールで展示飛行内容の調整を行っています。正直、毎日結構忙しいです(笑)」

では、航空祭や訓練で飛行する際の1番機の役割とはどんなことなのでしょうか?

「1番機はリーダーとして編隊を統率するのはもちろんのこと、一番大変なのは“状況を判断すること”です。航空祭ではもちろん第1区分を狙って準備していますが、第2、3区分になった場合のブリーフィングも行います。そして当日、実際に上空に上がってから雲の様子を見て、瞬時にどの課目をどんな構成で実施するのか決めるのが1番機です。天気が悪いといまだにドキドキしますよ」

© FlyTeam ニュース3rd訓練を終えて帰投した“BENGAL”川島3佐と“EDGE”江尻2佐

まさにブルーインパルスの司令塔であり、チームの柱である1番機。航空自衛隊でも1番機に憧れてブルーインパルスになりたい人は多いのではないでしょうか。川島3佐が1番機の飛行班長として大切にしていることはどんなことでしょうか。

「1番機って実はめちゃくちゃ損…というか大変なポジションなんです。隊員はそれがわかっているので、ブルーインパルスで1番機を希望する人は少ないかもしれません。威厳のあるリーダーのイメージがあるかもしれませんが、訓練後のブリーフィングなどで、ほかの機からボコボコに指摘されます(笑)。『この課目のこの動きが急でキツイ』と言われれば次の訓練ではそこを修正します。そういったまわりの意見に耳を傾けなくてはいけないですし、ほかのメンバーから出た意見を展示に取り入れることもあります。何でも言いやすい雰囲気であることが大事だと思っています」

せっかくなので、1番機にかかわらずブルーインパルスのパイロットはどんな人が向いていると思うか伺ってみました。

「あくまで私個人的な意見なのですが、機体を操縦する技量があることはもちろんのこと、一番大事なのは協調性があることかな、と思っています。ブルーインパルスの機体はT-4という練習機なので戦闘機パイロットなら誰でも飛ばせます。ブルーに入ってからは通常の部隊では絶対にしない(してはいけない)ような操縦かんの動かし方をするので、慣れるまでは大変ですが、だいたい練習すればできるようになります」

© FlyTeam ニュース訓練後に機体から降りた“BENGAL”川島3佐。笑顔での挨拶に人の良さがにじみ出ます

「協調性というのは、展示飛行では通常ありえないくらい近い距離で飛行するので、隊員同士の信頼関係が最も重要になってきます。技量があってもワンマンだったり、人の意見を聞けないような人はほかの隊員から信頼を得られないのではないかと思います」

「好きなのは低くて速いローパス」テンポのよい展示を見せます

© FlyTeam ニュース“BENGAL”川島3佐が操縦する機体

ファンの知らない1番機の苦労や重要性を語ってくれた“BENGAL”川島3佐は、今年の2024年ツアーがいよいよブルーインパルスとしてのラストイヤーとなります。どんなブルーインパルスをファンに見せたいか聞いてみました。

「展示飛行の際、皆さんの上空に“飛行機がない”時間をなるべく少なく、退屈にならないようテンポのよい展示にしたいですね。進路や進入、次の課目に入るタイミングなどを工夫すれば燃料が減らないので、課目がもうひとつできたりもするんです。私個人的には、低くて速いローパスが好きなので、なるべく取り入れたいなと思っています」

ていねいでわかりやすい口調でインタビューに答えてくれた“BENGAL”川島3佐。やさしそうな笑顔やほかの隊員に接する様子をみて温和な人柄が感じられ、飛行班長として信頼を得ていることが見て取れました。“BENGAL”川島3佐の展示飛行ラストイヤーをぜひお楽しみください。

© FlyTeam ニュースブルーインパルスのパイロットは全員サインを持っています。航空祭などのイベントではサイン会が毎回第行列ですね

ブルーインパルスのフライトが見られるかも?松島基地見学でできること

松島基地では、展示機や航空機などの見学、売店で買い物ができる基地見学の案内を同基地ホームページで行っています。7月分の見学予定と予約開始日を5月下旬に公開するようなので、興味がある人はチェックしてみてください。

■基地見学について
https://www.mod.go.jp/asdf/matsushima/kengaku/index.html

基地見学では具体的にどんなことができるのでしょうか?松島基地渉外室長の玉川英樹3佐に伺いました。

© FlyTeam ニュース松島基地渉外室長の玉川英樹3佐は元F-4戦闘機のパイロット(同基地第21飛行隊F-2戦闘機の教官経験もあり)だそう。TACネームは「GOTCH」(ゴッチ)。

「基地見学は、実は毎回同じ内容(ツアー)になっているとは限りません。ブルーインパルスの基地上空展示飛行がある日は、隊舎屋上などでのフライト見学がメインとなりますし、フライトがない(または中止)の場合は、松島基地救難隊や消防小隊、基地内の「ブルーインパルスミュージアム」、売店など、その時見学できる場所を見ていただいています。あくまで“基地見学”ですので、その時次第となります」

なるほど、行ってみてのお楽しみなのですね!

今回の取材では、基地見学で運が良ければ入れるかもしれない、基地内にある「ブルーインパルスミュージアム」という展示室にお邪魔しました。中には代々使われていた機体の模型やワッペン、ヘルメットなどが展示されています。また、ブルーインパルスのキャップや飛行服などを着て写真を撮ることもできるようです。小規模ですがブルーインパルスファンには嬉しい展示室でした。

© FlyTeam ニュースブルーインパルスのキャップをかぶって記念写真も撮影できます。どさくさでモデルになってくれた“BENGAL”川島3佐です © FlyTeam ニュース小規模ながらブルーインパルスの歴代機模型や記念品などが展示されています © FlyTeam ニュース6番機パイロット人形の手に注目してください!ちゃんと「6番機」のハンドサインしています!

売店にも立ち寄ることができました。隊員の方の日用品や食品が売っているほか、ブルーインパルスにちなんだグッズがたくさん販売されていてワクワクします。

© FlyTeam ニュース基地内の売店には隊員の方向けの食品や生活用品のほかブルーインパルスグッズがたくさんあります © FlyTeam ニュース宮城名物の地元産「ホヤ」とブルーインパルスがコラボ

このほか、基地上空訓練のスケジュールをホームページのほか基地公式X(旧Twitter)などで公開しています。

■ブルーインパルス基地上空訓練
https://www.mod.go.jp/asdf/matsushima/hiko/acro/index.html

最後に、2024年8月25日(日)に「松島基地航空祭 2024」が開催されます。前日24日(土)は東松島市の「東松島夏まつり」が開催され、2日間に渡ってブルーインパルスが飛行します。地元ならではのブルーインパルスの勇姿を見に、足を運んで見てはいかがでしょうか。

© FlyTeam swamp foxさん昨年2023年の松島基地航空祭の様子 2023年8月27日撮影 26-5690 川崎 T-4 航空自衛隊

本記事【前編】はこちら
ブルーインパルス“司令塔”1番機パイロットの使命、基地上空訓練でわかったこと【ブルー密着 前編】

※ブルーインパルスの隊員は2024年4月19日取材時点となります

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