「抗凝固薬」は二次血栓をできにくくするために使われる【高齢者の正しいクスリとの付き合い方】

長時間同じ姿勢でいると静脈血栓症のリスクが高くなる

【高齢者の正しいクスリとの付き合い方】

血をサラサラにするクスリには「抗凝固薬」もあります。「抗血小板薬となにが違うの?」と思われる方もいらっしゃるでしょうが、これらはまったく別のクスリです。

血の塊のことを血栓と呼び、血栓は一次血栓(白色血栓)と二次血栓(赤色血栓)に大別されます。一次血栓は血小板が主体となってできる血栓で、白っぽい色をしています。一方、二次血栓は血液凝固因子が関与してできる血栓で、最終的にフィブリンという糊(のり)のようなものが赤血球を巻き込みながら固まってできます。この赤血球の影響で二次血栓は赤黒い色をしています。みなさんもケガをして出血した経験があると思いますが、赤黒いかさぶたの色は二次血栓によるものなのです。

止血という重要な役割がある二次血栓は、それ以外では血液の流れが滞ってしまうところで生成されます。その血液の代表的な場所が静脈です。静脈には逆流を防ぐための弁があり、この弁がうまく機能しなくなると血流が滞ってしまい、そこで血栓=二次血栓ができるリスクがあるのです。

静脈内で二次血栓ができる病気としては深部静脈血栓症があります。エコノミークラス症候群といったほうがなじみ深いかもしれません。これはエコノミークラスに搭乗したから起こるというわけではなく、長時間同じ姿勢でいることで太ももの静脈内の血流が滞って起こる病気です。今年の能登半島地震のような大規模災害時には車中泊をする方もいらっしゃいますが、十分に体を動かすことができないため深部静脈血栓症のリスクが高くなります。

他にも女性に多い下肢静脈瘤という病気があります。いずれの病気もそこでできた二次血栓がそのまま同じ場所に居続けてくれれば問題ないのですが、何かをきっかけに他の場所に移動してしまうと大問題になります。移動先のほとんどは肺で、肺の血管が詰まる肺塞栓という、場合によっては命に関わる病気につながります。そのため、肺塞栓のリスクとなるような二次血栓ができやすい人に対して、予防のために抗凝固薬が用いられているのです。

また、二次血栓は心臓の中でもできることがあります。心筋梗塞などの心疾患の影響で心臓の動きがスムーズでなくなると心臓の中の血液がうまく押し出せなくなり、滞ってしまうことでやはり二次血栓のリスクが高まります。そういったときに不整脈(主に心房細動)が起こると、心臓内にあった二次血栓が他の場所に移動してしまうのです。この場合の移動先は脳で、脳塞栓の原因になります。

(東敬一朗/石川県・金沢市「浅ノ川総合病院」薬剤部主任。薬剤師)

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