五月晴れの空に

 季節の言葉を集めた辞典に「五月(さつき)晴れ」にまつわる説明がある。戦前の辞書には〈梅雨晴れと同じ〉とだけ書かれているが、1960年代には〈(1)さみだれの晴れ間(2)五月の空の晴れわたること〉と二つの意味が記されたという▲もともとは旧暦の5月、つまり梅雨の頃の晴れ間を指したが、やがて新暦5月の爽やかな晴天の意味も加わったらしい。〈5月を「さつき」と読む場合は陰暦と考えるべし〉と明言する歳時記もあるが、多くの人が思い描く五月晴れとは、新暦5月の好天だろう▲初夏に吹き渡る風は〈青嵐(あおあらし)〉。新緑に降り注ぐ雨を〈翠雨(すいう)〉。わずかな暑さは〈薄暑(はくしょ)〉…。初夏にちなんだ言葉には心地よい響きがあるが、近頃の天候にまつわる話題の多くは「爽快」には程遠い▲5月としてはまれな暑さを記録する所が多い。高温で野菜は育ちすぎて硬くなり、あるいはひび割れて、出荷できないこともあるらしい。スーパーのキャベツは税込み一つ400円超で、目を丸くする▲本県もそうだが、20を超える府県でカメムシ類が大量発生し、注意報が出されている。これもまた温暖化の影響が大きく、うまいこと暖冬をしのいだ成虫が果実を狙っているという▲浮かない話題が多いなか、心に青嵐を、初夏らしい薄暑を。五月晴れの空に願い事をしてみる。(徹)

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