ブラジルで活躍する日系企業の今(29)=日本のアサイーブームに火をつけたフルッタフルッタ社

フルッタフルッタ社のロゴマーク

 日伯両国でアマゾンのスーパーフードとして知られるようになったアサイー。日本でこのブームに火を付けたのが株式会社フルッタフルッタだ。連載第29回目は、東京都心の豊かな杜の真横に本社を構え、ブラジル最大手アマゾンフルーツサプライヤーCAMTA(トメアス総合農業協同組合)産フルーツ原料の独占輸入販売代理店として、またアグロフォレストリーマーケティングのパイオニアとして、アマゾンと日本を直接結ぶ同社の長澤誠代表取締役(62、兵庫県)に話を聞いた。

はじまりは〝アマゾンの海賊〟

長澤誠社長

 通称「アサイーおじさん」の長澤氏は、日本でいち早くアサイーの輸入を開始し、アマゾンフルーツを通じてアグロフォレストリーを先進国市場に結び付けるビジネスモデルを展開している。
 アグロフォレストリーとは農業(アグリカルチャー)と林業(フォレストリー)が合成された造語で、複数の農産物や樹木を混植することにより、生態系が多様な農場で多種の農産物を収穫できる。同社は「自然と共に生きる」を企業理念に、アグロフォレストリーの恵みを革新的な商品にかえて、経済と環境が共存共栄する持続可能な社会を目指している。
 長澤氏のブラジルとの縁は、神戸のチョコレートメーカーである食品会社に勤務していた1990年、カカオではないチョコレート原料となるクプアスを求めて来伯した時だった。
 試作でおいしいクプアスのチョコが完成し、正式にその商標や特許を申請して商品化に取り組んでいたところ、アマゾンの森林保護運動をするNGOが長澤氏を「日本人がアマゾンの宝物を盗んだ!」と、ブラジルのテレビや新聞で「生物資源の海賊」として大体的にバッシングした。
 事実無根の報道は過熱し、関係者にも迷惑が及びかけたためクプアス事業からは撤退。しかし、皮肉にも、この事件がブラジル国内でも産地アマゾンでしか知られていなかったクプアスを全国に有名にしたきっかけにもなった。

ベレン―神戸から出発

事務所のあるアグロフォレストリービルの正面

 意気消沈していたところ、クプアスを求めてアマゾンを奔走していた時に出会ったCAMTAのメンバーに「アグロフォレストリーこそ価値がある」と励まされ、多くの農林作物が生育する中でクプアスだけに拘ることはないと考えた。
 長澤氏が神戸から来たことを知ると、「両親も神戸から船に乗ってやって来た。アマゾンの仕事は命懸けだが本気で取り組むのなら協力できる」と声をかけられ、過酷な環境の中、試行錯誤しながらアグロフォレストリーに取り組むトメアスの日本人移住者らの熱心さと勤勉さに惹かれ、一緒にアグロフォレストリーの発展を応援しようと、2002年に神戸で世界初のアグロフォレストリーマーケティング企業を立ち上げた。

CAMTA(トメアス総合農業協同組合)のロゴ

 ポルトガル語でフルーツを意味するFRUTAを2回繰り返す社名は、フルーツがたくさんある様子や自然の多様性を示す。きずなを大切にしたいという想いから、ロゴマークには「BELEM―KOBE」と約90年前に神戸を発った日本人移住者がアマゾンでアグロフォレストリーを始めたことを刻み、同地で「きずな」の象徴とされているオウムの「アラーラ」を中心に据えた。
 ブラジルで「アサイーの日」は9月5日だが、日本ではベレンに最初の日本移民が到着した9月16日に登録し、ファンイベントなどを実施している。

アマゾンのCO2削減量を商品に表示

CO2削減量マークが表示された「アサイーエナジー®」 フルッタフルッタ社の主力商品

 アグロフォレストリーは持続可能な農業として世界中に事例はあるが、特にCAMTAが実践するトメアス式(SAFTA=Sistema Agroflorestal de Tomé-Açu )は、アマゾンの荒廃地に多様な果樹や材木の苗や作物を植えて1年目から継続的に収穫でき、森も再生できることで世界から注目を浴びる。そのフルーツ原料を日本に直接輸入して、ジュースバーから事業を開始した。
 短期間にメディアでも話題となり、1年半後には東京へ進出、飲食店や食品メーカー、スポーツ施設等にも原料販売を開始し、2006年には自社商品「アサイーエナジー®」、「アサイーエナジー®ダイエッタ」を発売した。
 「アサイーエナジー®」には間伐材を使用したカートカン(円筒状の小型紙製飲料容器でリサイクル可能)を使用し、容器にはCAMTAが アグロフォレストリーで生産するアサイーなどの農産物原料を使用した製品に日本の飲料業界初でCO2削減量が表示された。

「アサイーおじさん」から目が離せない

 5月3日にブラジルを公式訪問した岸田文雄総理大臣は、ルーラ大統領との首脳会談で、二国間の環境・気候・持続可能な開発・経済関係強化に係る共同声明「日・ブラジル・グリーン・パートナーシップ・イニシアティブ(GPI)」を立ち上げた。この声明にはアマゾン地域におけるアグロフォレストリー分野での「アマゾン地域の生物多様性の持続可能な利用に関するトメアス協力覚書」があり、持続可能な生物多様性に基づく製品や活動の促進に関連する優良事例の交換を促進することが決定された。来年にパラー州ベレンで開催予定のCOP30に向けて、「アサイーおじさん」に熱い視線が注がれるのは間違いない。(取材/大浦智子)

フルッタフルッタ社の商品

フルッタフルッタ社の概要正式名称:フルッタフルッタ株式会社所在地:東京設立年月:2002年11月従業員数:35人事業内容:アマゾンフルーツの輸入販売サイト:https://www.frutafruta.com/

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