動物の保護活動のため電撃引退のトップ選手 一般家庭以外の譲渡先を模索する理由と課題とは

トップ選手を電撃引退し保護活動への道に進んだ高木真備さん【写真提供:高木真備】

猫を家族の一員としてお迎えする方法として、保護猫の譲渡を選択する人が増えています。そうした保護猫をお世話し、行き場を失っている猫の命を守るため、積極的に行動している人たちは少なくありません。コラムニスト・峯田淳さんが、保護猫活動について連載する企画。前回に引き続き、犬や猫の保護のため、トップ選手を電撃引退した元女性アスリートの活動に迫ります。

◇ ◇ ◇

「保護された犬猫たちが新しく輝ける場所」を作るために

元ガールズケイリン(競輪)の選手で、頂点を極めた高木真備さんが保護猫&保護犬活動を始めたのは2022年からです。保護活動をやりたいけど、どういう形で関わるか。譲渡会や保護活動を行っている施設なども見て回って、さまざまな方の話を聞いたそうです。

そのなかで、全国に動物を保護し、お世話をして譲渡する活動をしている団体さんがたくさんあって、活動に携わる人のおかげで守られている命がたくさんあり、それでもまだ行く先がなくて殺処分になる命があることを知りました。そこで、犬猫それぞれが生きていける場所を今以上に増やしたい、そのために通常の保護施設とは異なる形で犬猫のためにやれることがないか考えました。

もともと、動物と人の関係には大きな可能性があると感じていたことから、たとえば高齢者の施設や、障害者福祉の施設、児童養護施設や保育園、学童といった場所で保護猫、保護犬と過ごすことができたら――と考えたそうです。

「高齢の方は猫を飼うことが難しいことがありますが、施設で職員さんの力を借りながらであれば保護猫と一緒に生活することができるのではないか。養護施設や学童でもみんなで保護猫を飼うことができたら子どもたちも楽しい時間を過ごせるのではないか。そしてなにより、保護された犬猫たちが新しく輝ける場所が増えるのではないか。人が大好きな性格の猫や犬にとっては幸せな居場所になるかもしれない……。そういう新しいシステム作りをすれば、一般家庭への譲渡に加えて、さらに幅が広がると考えました」

しかし、福祉施設が人手不足で、動物の世話を一緒にやる負担やアレルギーの方がいた場合の対応など、まだ課題もあります。今すぐにではなく、5~10年かけて実現できるように動いているそうです。

「わんにゃんフェスティバル」で保護活動について話す高木さん【写真提供:高木真備】

イベントを通じて先入観を払拭 「イメージが変わりました!」の声も

そのほかに高木さんが行っているのは、競輪場やオートレース場など人が集まる場所での、保護動物の譲渡会活動です。高木さんは「わんにゃんフェスティバル」というイベントを、これまで20回以上やってきました。まず必要なのは場所の使用許可をお願いするほか、どこの団体さんに声をかけるかリサーチすること。そしてなにより犬猫たちが逃げ出さないよう、サークルやケージを使って細心の注意を払うことです。

「競輪場側とつながりのある団体さんがいた場合は、そこから広げていくこともありますが、ない場合は私から地域で保護活動を行っている団体に声をかけ、一緒に譲渡会などを行う形を取っています。

団体さんに話を伺うと、譲渡会を行うスペースがなくて困っている場合があることがわかり、競輪場などの広い敷地を活かすことができたらと考えました。逆に、競輪場などの施設としても、ファミリー層や、まだ敷地内に入ったことのない方に来ていただけるチャンスになればいいなと……。双方にとって、いい効果があればと思っています」

昨年5月に平塚競輪場にて、動物愛護運動を行っている放送作家の山田美保子さんと【写真:峯田淳】

競輪場としては、高木さんはガールズケイリンで活躍した有名選手だけに、知名度があり、なにより信頼できます。レース目的で来場する人に、保護活動を知ってもらうことができるほか、譲渡会に行ったことがない人にも、里親募集の声かけをすることができます。そして動物が好きで来場する人に、レースを楽しんでもらうこともできます。会場が広くて来場者も多く、いわばwin-win。一石二鳥です。ただし、こんなケースもあります。

「声をかけられそうな団体さんが、その地域にない場合はNPO法人みなしご救援隊犬猫譲渡センターの東京支部(自由が丘)と、広島本部(広島市と湯来町に施設あり)が協力してくださっています。同センターの場合は、ふれあい会&啓発イベントとして実施するので、気になる子がいた場合にはセンターまで来ていただくようにご案内しています。

譲渡会でなくても、実際に会っていただくことで、『保護されている子は懐かないのでは? 飼いにくいのでは?』という先入観をお持ちの方が、『イメージが変わりました!』と言ってくださることも多くて、とてもうれしいです。

人が苦手な子もいれば、大好きな子もいる……。私たち人間と同じように、いろんな性格の子がいることを知ってもらいたいです。ふれあい会の場合、猫はそういった環境に弱く、負担が大きくなるのでパンフレットなどでの案内になります。犬猫の体調管理を第一にすることは、絶対条件ですよね」

譲渡会などのイベントには周囲の協力が必要と語る高木さん【写真提供:高木真備】

「とても勉強になっています」 イベント企画が人生経験にも

これまで20か所で行った「わんにゃんフェスティバル」ではこんなケースもあったそうです。

「昨年末は岡山の玉野競輪場、年始には大阪の岸和田競輪場で実施しました。このときは『初めまして。元競輪選手の高木真備です。保護犬、保護猫の啓発活動をしています。もし良かったら譲渡会を競輪場で実施しませんか』とメッセージを送るところから始まりました。思いが伝わってつながることができたときは、仲間が増えたような心強い気持ちになって、とてもうれしかったです。このときは犬も猫も里親さんが決まりました」

5月の佐賀・武雄競輪場は残念ながら雨で中止となりましたが、北海道・函館競輪場では「わんにゃんフェスティバル」を初開催しました。

「競輪場で犬猫のイベントを開催するのはあまり前例がなかったので、『そんなことをやって意味があるのか。動物と競輪はまったく関係ないじゃないか』とか、『動物は逃げるから施設内には入れられない』といった、ファンの方や関係者からの声もありました。でも、これまで20回近く実施するなかで、理解してくださる方が増えてきたことを実感しています。

快く協力してくださるみなさんに本当に感謝ですね。やってみて初めて気がついたのですが、どんなイベントもたくさんの方が関わっているということ。今まで競輪場などにゲストとして呼んでいただくことが多かったのですが、企画するという経験は私の人生においてとても勉強になっています」

どこかの公営ギャンブル場で犬猫と一緒の高木さんを見かけたら、声をかけてみてください。

© 株式会社Creative2