【解説】イスラエルが方針変える兆しなく 国際司法裁がラファ攻撃停止命令するも

ポール・アダムス BBC外交担当編集委員

イスラエルはこの結果を避けようとしていた。それでも、ハマス打倒と人質奪還のため不可欠だとイスラエル政府が位置づける軍事作戦を、ただちに停止するよう命じられてしまった。

しかし、国際司法裁判所(ICJ)が24日にこう命じたからといって、イスラエルが方針を変える兆しは見えてこない。

イスラエルの戦車は、ガザ地区最南部ラファの中心に迫っている。まさにICJで決定が読み上げられていた最中に、イスラエルはラファを繰り返し空爆した。巨大な黒煙が、ラファの上空に立ち上った。

ベンヤミン・ネタニヤフ首相を支える強硬派の一部は、ICJの命令に激怒した。ICJが反ユダヤ主義で、ハマスをひいきしたと非難した。

イスラエル政府の報道官だったエイロン・レヴィ氏は、ナワフ・サラム裁判長がレバノン人だと指摘。「もしも『間違った形』の判決を下せば、安全に帰国できなかったはずだ」と述べた。

しかし、ネタニヤフ首相の対抗勢力にとって、イスラエルがいかに国際的に孤立を深めているか、今回のICJ判決があらためて示したことになる。

今回の判決が出る前から、直近だけでも数々の兆候はあった。

・国際刑事裁判所(ICC)の検察官が、ネタニヤフ首相と国防大臣に対する逮捕状を請求

・欧州で複数の国が、パレスチナ国家の承認を準備

・中身のある戦後計画を構築しようとしないイスラエルに対し、バイデン政権が不満を募らせている

自分たちの主張がICJの判事たちを動かさなかったことに、イスラエルは落胆しているだろう。

ラファへ部隊を進める前に、民間人が危害を受けないように最大限の配慮をしたというのが、イスラエルの主張だ。

そして、食料など必須の物資がガザ地区に確実に届くようにしているとも、イスラエルは言う。

確かにその言い分に、真実の要素はある。80万人以上の民間人がラファを離れた。

そして、3週間近く前にラファ侵攻が始まってからというもの、ガザ地区南部に入った援助物資はごくわずかだが、トラック数百台分の販売用物資がガザ各地に入ることをイスラエルが認めたというのも事実だ。つまり、ガザの一部では食べ物はあるにはある(買えるような値段とは限らないが)。

そして、特に北部を中心に、飢饉(ききん)が起きると繰り返し警告されているにもかかわらず、大規模な飢餓はまだ起きていない。

むしろ、境界通過のための検問所が増設されたことで、北部の状況はいくらか改善されたかもしれない。

それでも、ICJは特に感心しなかった様子だ。パレスチナの民間人がまたしても大勢、一度に移動を余儀なくされたことはつまり、パレスチナの住民の生命と安寧が新たに深刻に脅かされたことを意味すると、ICJは主張した。それだけに、新たな行動が必要だというのが、ICJの言い分だ。

南アフリカ政府は、ガザ地区にとってラファが「最後の防衛線」だと主張した。ガザ地区内の他の都市と同じ運命をラファがたどるなら、パレスチナの人口全体にとってさらに修復不能な損害につながり得ると。

それこそが、ICJが阻止しようとしていることだ。

対するイスラエルは、ガザ地区南部での作戦は、そのような事態を目的としていないと主張する。そして今後も、作戦を続ける見通しだ。

(英語記事 No sign Israel will change course after Gaza ruling

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