消費者庁も注意喚起!子どもが持ち歩く水筒で事故が発生。水筒を首や肩からさげるのはやめて【小児科医監修】

引用元:GOLFX/gettyimages

暑い日が続いています。日中の水分補給のために、登園、登校時に家庭から水筒を持ってくるように指示されるケースが増えているようです。また外遊びやお出かけ時にも水筒を持っていくことも多いでしょう。
しかし子どもが首や肩から水筒をさげていると、思わぬ事故が起きることも。消費者庁は「子ども安全メールfrom消費者庁 vol.635 水筒を持ち歩くときの転倒事故に注意!」の中で、転倒した際、おなかに水筒が当たった衝撃で小腸が破裂した事故事例などを紹介し、注意喚起しています。
同じような事故は、日本小児科学会の傷害速報(Injury Alert)でも報告されています。
子どもの事故に詳しい、小児科医 山中龍宏先生に、水筒を首や肩からさげて持ち歩く危険性と事故を防ぐ方法を聞きました。

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7歳の子は、転んだ拍子に水筒がおなかにぶつかり、膵臓の半分と脾臓を摘出

消費者庁の「子ども安全メールfrom消費者庁 vol.635 水筒を持ち歩くときの転倒事故に注意!」によると、次のような事故事例が報告されています。

【事例1 脾臓(ひぞう)損傷】
水筒(1リットルの容器)を斜めがけにして歩いていたところ坂道で転倒し、地面と水筒にはさまれる形で腹部を強打した。脾臓損傷のため集中治療室に入院。10日後に退院した。(9歳)※1

【事例2 小腸破裂、汎発性腹膜炎】
通学中に友だちと追いかけっこをしていたところ転倒し、斜めがけしていた水筒が腹部の右側に当たった。痛みと嘔吐があり救急搬送され、小腸破裂、汎発性腹膜炎のため緊急手術をして、集中治療室に入院した(10歳)※1

※1は、医療機関からの報告より。 消費者庁は国民生活センターと共同で、2010年12月より、医療機関(2023年8月現在で32機関が参画)から事故情報の提供を受けています(医療機関ネットワーク事業)。

また日本小児科学会の傷害速報でも、次のような事故事例が報告されています。

【事例3 膵臓(すいぞう)約50%、脾臓摘出】
7歳の男の子が、走って小学校に登校したところ、かたい土の地面でつまずいて転倒した。走っていたため、かなり勢いがついたまま転んだ。その際、地面と首からさげていた水筒にはさまれるような状態で腹部を強打した。水筒は転倒した拍子に底の部分が上を向き、おなかに当たった。男の子は、ぐったりして嘔吐が続いたため、近くの医療機関を受診したが、内臓損傷の可能性が疑われて、別の病院を紹介される。
紹介された病院に到着したとき、男の子は顔色が悪く、腹痛と血性嘔吐があった。後日、開腹術をして膵臓50%程度と脾臓を摘出。40日以上入院したが、退院後も糖尿病の発症や肺炎球菌などの感染症に注意が必要と考えられる(傷害速報より引用、一部改変)。

――報告されている事故事例は、全員小学生ですが、幼児でも起こる危険性はありますか。

山中先生(以下敬称略) 小学生は水分補給の目的などで水筒を持たせて登校させる小学校が多いため、このような事故が起きやすいのでしょう。
しかし幼児でも、水筒を首や肩からさげて歩いたり、走ったりしていて、転んだ場合は、同じような大きな事故につながります。幼児だから大丈夫というわけではありません。

おなかは骨で守られていないために、大きな事故につながりやすい

心臓や肺は胸郭(肋骨や胸骨)で守られていますが、おなかは骨で守られていないために、水筒などが当たって衝撃を受けると大きな事故につながりやすいです。

――報告された事故事例は、膵臓50%程度と脾臓を摘出するなど、どれも大変な事故です。

山中 子ども同士でふざけておなかをたたいたりすると、ママやパパが「危ないからダメ!」と注意しますが、それは本当です。
子どもは大人に比べて体格が小さいので、狭い範囲に臓器が集中しています。
また、胸の部分と違って、おなかは薄い腹筋だけで覆われているため、外部から強い衝撃が加わると、肝臓や膵臓、脾臓、小腸などの臓器に直接、大きなダメージを与えてしまいます。
これらの臓器は、やわらかいので外から大きな力が加わると、破裂したり、裂けたりしやすいです。「どのぐらいやわらかいの?」と思うママ・パパもいるかもしれませんが、肉の生レバーと同じぐらいのやわらかさだと思ってください。

――水筒を持って転倒した場合、どのような転び方だと大きな事故につながるのでしょうか。

山中 転んだ拍子に水筒が立った状態で腹部を直撃すると、内臓損傷の大きな事故につながりやすいです。
水筒が横になった状態で、腹部に当たったほうが軽症で済むと思います。
小学生が持つ水筒は、直径約10センチ弱です。腹部の1カ所に大きな力が加わるため、大きな事故につながりやすいのです。
また勢いよく走ってきて転ぶなど、衝撃の強さも事故の重症度と関係します。

おなかに強い衝撃が加わると、激しい腹痛や嘔吐などの症状が

水筒を持ち歩くことが多くなった昨今、上記で紹介した事故をひとごととは思わないで!「転んだとき、水筒がおなかに直撃したらどうしたらいいか」など、子どもに教えておきましょう。

――転倒時、水筒が腹部を直撃した場合、どのような症状があらわれますか。

山中 内臓が損傷している場合は、がまんできないような激しい腹痛を伴ったり、顔色が悪くなったり、嘔吐したりします。また、内臓から出血しているときは立っていられませんし、歩けません。
そうした状態なので、小学校や園などで事故が起きたら、すぐに誰かが駆けつけてくれて対応してくれるでしょう。
子ども自身にも、おなかを強くぶつけて、とても痛いときには、すぐに先生に言うか、保健室に行くように教えておいたほうがいいでしょう。

――軽症で、後から子どもに「転んで水筒がおなかに当たった」と言われたときはどうしたらいいでしょうか。

山中 子どもにどのあたりに水筒が当たったか聞いてください。そのあたりを触ってもとくに痛がる様子がないときにはあわてなくて大丈夫です。軽い転倒だったのでしょう。
でも、おなかを触って痛がるときは、診察時間外でもすぐに小児科を受診してください。内臓が損傷を受けていることが考えられます。
あざができているけれど痛みがないときは、念のため診察時間内に受診しましょう。
もちろん、急に痛がるようになったり、元気がなくなったりしたら、診察時間外でも至急、受診してください。おなかをぶつけたときは、子どもの様子をよく見ることが大切です。
そして、おなかをぶつけたときは、痛くなくてもママ・パパに教えるように、日ごろから子どもに言い聞かせておきましょう。

――水筒による転倒事故を防ぐには、どうしたらいいでしょうか。

山中 子どもに「水筒をさげているときは、危ないから走ってはダメ!」「友だちとふざけてはダメ!」などと言い聞かせても、こうした事故は防げません。
まずは幼児も小学生も、首や肩から水筒をさげないことが第一です。幼児は、ママ・パパが水筒を持ってあげたほうが安全です。子どもに持たせるときは、リュックの中などに入れてください。
小学校や幼稚園などに水筒を持っていくときは、首や肩からさげずに、手提げバッグの中に水筒を入れて持たせましょう。ランドセルならば専用の補助バッグを取り付けて、水筒を入れてもいいでしょう。
ランドセルに付いているつりさげホルダーにいろいろ荷物をさげるのは、歩いているときに引かかって転んだりすることがあるので危険です。

――水筒以外でも、こうした事故は起きているのでしょうか。

山中 過去には、小学生が自転車に乗っていて転倒した際、ハンドルが腹部に当たって救急搬送された事故も起きています。その子は肝臓を損傷していて、19日間入院しています。

ママ・パパには、ぶつかったり、転んだりしておなかに強い衝撃が加わると、大きな事故につながる危険があるということを改めて知ってほしいと思います。

お話・監修/山中龍宏先生

協力/公益社団法人日本小児科学会 取材・文/麻生珠恵 たまひよONLINE編集部

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いくら子どもに「水筒をさげているときは危ないから走らない!」「水筒をさげているときは、友だちと押し合ったりしない! ふざけない!」と言い聞かせても、子どもは走ったり、友だちとふざけたりしてしまうものです。いたましい事故を防ぐためには、水筒の持たせ方を見直すことが第一です。

●記事の内容は2024年5月の情報であり、現在と異なる場合があります。

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