禁錮8年&むち打ちの刑が確定したイラン人監督の新作、一気にパルムドール最有力に【第77回カンヌ国際映画祭】

イランを出られなかった俳優たちの写真を手にしたモハマド・ラスロフ監督 - 第77回カンヌ国際映画祭にて - Mustafa Yalcin / Anadolu via Getty Images

授賞式を翌日に控えた現地時間24日、第77回カンヌ国際映画祭でモハマド・ラスロフ監督の映画『ザ・シード・オブ・ザ・セイクリッド・フィグ(英題)/ The Seed of the Sacred Fig』の上映が行われ、最高賞パルムドール有力候補に一気に躍り出た。反体制的だとして母国イランで禁錮8年とむち打ちの刑が確定したラスロフ監督は密かに国を脱出し、カンヌでの上映に参加。キャストのソヘイラ・ゴレスターニミシャク・ザラはイランを出ることができず、ラスロフ監督は二人の写真を手にレッドカーペットを歩いた。

イランにおける死刑制度の是非を問い、第70回ベルリン国際映画祭で金熊賞に輝いた『悪は存在せず』などで知られるラスロフ監督は、何度逮捕されようと映画を作り続けてきた。新作の背景にあるのは、ヘジャブの着け方を理由に道徳警察に拘束・暴行されたマフサ・アミニさんの死に端を発した、女性の自由を求めて起こった大規模な抗議デモだ。首都テヘランがデモで揺れるなか、監視官に昇進したものの、求められているのは反体制派の死刑判決に証拠も見ずに判を押すことだけだと知り愕然とするイマン(ミシャク)と、その“良き妻”ナジメ(ソヘイラ)、そして彼らの現代的な2人の娘たちの姿を描くスリラーとなっている。

映画『ザ・シード・オブ・ザ・セイクリッド・フィグ(英題)』より

市民に嫌われる監視官になったことで護身用の拳銃を支給されたイマンだが、その銃がある日無くなってしまったことで家族を偏執的に疑うように……。イランの国としての家父長制と女性蔑視のシステムを、緊迫感あふれる家族のドラマに落とし込んだところが見事で、立ち上がる女性たちの描写を含め、イラン政府がラスロフ監督を恐れるのも納得のパワフルな傑作となっている。

上映後には、ラスロフ監督と娘役のキャスト陣らに12分以上も続く熱烈なスタンディングオベーションが贈られた。会場全体が今目にしたものに興奮気味で、マイクを取ったラスロフ監督が話し始めなければ、スタンディングオベーションはもっと続きそうだった。(編集部・市川遥)

第77回カンヌ国際映画祭は現地時間5月25日まで開催

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