日本ダービーの日に振り返る…騎手と馬のドラマが織りなす「感動の競馬漫画」3選

『ダービージョッキー』第1巻(電書バト)

春のGIシリーズも佳境を迎えている競馬だが、本日5月26日には第91回東京優駿(日本ダービー)が開催される。競馬ファンであれば、毎年ワクワクする時期だ。

近年では、育成シミュレーションゲーム『ウマ娘 プリティーダービー』の影響で競馬をはじめた人も多いと聞くが、ゲームだけではなく競馬を題材にした漫画も多く存在する。今回は騎手と馬のドラマが織りなす感動の競馬漫画を紹介していこう。

■天才ジョッキー武豊が原案! 競馬学校からジョッキー目線で描かれるリアルな競馬ドラマ『ダービージョッキー』

まずは、今年の3月に55歳を迎えた名ジョッキー・武豊さん原案の『ダービージョッキー』(作画・一色登希彦さん、構成・工藤晋さん)だ。1999年から2004年まで『週刊ヤングサンデー』(小学館)で連載されていた作品だ。

主人公の上杉圭は競馬学校の3年生。競馬学校のことなんて一般人にはまったく分からないため、作中で描かれている厳しい指導にはとにかくビックリしたものである。

常に危険と隣り合わせで命懸けな“騎手”という仕事を目指すだけあって、通常の学生よりも一段と指導が厳しいのかもしれない。早朝からはじまる馬の世話、食べ盛りの学生には厳しい体重制限など過酷な3年を経て卒業すれば、いきなりプロの世界へ放り込まれてしまうのだ。

そんな普段知る機会がなかなかない競馬学校のことを、漫画でわかりやすく教えてくれる本作。競馬ファンなら、思わず唸ってしまうほど楽しめるだろう。

そして、切ないシーンも印象的だ。上杉が競馬学校で出会ったフラワーカンパニーは、中山競馬場の模擬レースで軽快な逃げで観衆の度肝を抜くのだが、ゴール前で骨折……予後不良となってしまう。

馬の細い脚は大きな体重を支える重要なものであり、1本でも欠けてしまうとバランスを維持することが難しくなる。フラワーカンパニーは上杉と意気投合し、最後は大事故を防ぐために自らラチ沿いに身体を預けるような仕草を見せていた。最終的に安楽死処分となってしまうのだが、なんとも悲しすぎたものだった。

■中央馬へ果敢に挑む地方馬と天才ジョッキーが主役『優駿の門』

次は、1995年から2000年まで『週刊少年チャンピオン』(秋田書店)で連載された『優駿の門』(原作:やまさき拓味さん)だ。

主人公の天才ジョッキー・光優馬が、地方所属のまま愛馬のアルフィーやボムクレイジーとともに中央競馬へ挑戦するというストーリーで、地方競馬を舞台とした珍しい作品だった。

1995年といえば、ちょうど地方交流元年だ。今では当たり前となっているが、地方所属馬が中央競馬に出走することが可能となり、逆に中央所属馬が地方競馬のレースへ出走できるようになった年だ。それまでは招待レースでもない限り基本的には出走は不可能で、名馬・オグリキャップも笠松競馬から移籍することで、中央競馬のレースに出走することができた。

本作では序盤の主役といえる臆病なアルフィーが優馬と出会って闘争心を取り戻し、地方所属のまま皐月賞を制している。しかし、ダービーで故障を発症、こちらも予後不良となってしまうのだ。これは悲しかった。

ライバル陣営のドラマも熱かった。ゴマすりの名人・岡田鮫の必死さに心打たれるシーンがあるし、優馬の親友でもある月山左京とバトルハートを取り巻く関係者の絆の強さにも感動させられた。

そして、傍若無人な優馬が唯一敬語を使うのが、先輩ジョッキーの田辺俊輔だ。優馬にとって憧れの存在であり、天才肌のジョッキーでもある。落ちぶれて荒んだ生活をしていたが、競馬への情熱を取り戻してアルフィーの全弟でもあるアルフィーセカンドの主戦となる。しかし、優馬がボムクレイジーでダービーを手にしたあと、次のレースで落馬して死亡してしまうのだが……。そんなハラハラさせられる展開にも夢中になった。

さて、本作では実名馬が複数登場する。仮名の競走馬でも血統は実在馬がモデルとなっている馬が多く、競馬ファンなら思わずニヤリとしてしまうこと間違いない。競馬ゲームの『ダービースタリオン』や『ウイニングポスト』で、アルフィーを再現しようと頑張ったものである。

■「白い稲妻」が宿命のライバルとしのぎを削る!競馬ドラマに涙してしまう『風のシルフィード』

1989年から1993年まで『週刊少年マガジン』(講談社)で連載されたのが、『風のシルフィード』(原作:本島幸久さん)だ。「白い稲妻」と称されるシルフィードが主人公で若手ジョッキーの森川駿とともに、数多のライバルたちとしのぎを削りながら栄光を手にしていく感動作である。

本作はちょうどオグリキャップが現役の頃にスタートした作品で、第二次競馬ブームの真っ只中にあった。「白い稲妻」というニックネームは、オグリの先輩でライバルだったタマモクロスの異名でもあり、漫画同様に後方一気の末脚が魅力的だった。

シルフィードは生まれて間もなく母馬が死亡し、駿も母親を亡くしている。駿はデビュー前からシルフィードを世話しており、両者は固い絆で結ばれていた。

そんなシルフィードのライバルといえば、マキシマムだ。ダービーでも惜敗してしまい、当初、世代の頂点にはマキシマムが立っていた。

しかしその後シルフィードは菊花賞でマキシマムを倒し、翌年には凱旋門賞へ挑戦、見事勝利を飾って世界の頂点に立つこととなる。

この当時、日本調教馬が海外GIに勝利するなんて夢の世界であり、ましてや世界最高峰の凱旋門賞へ挑戦するのも大変なことであった。2023年までに数多くの日本馬が海外GIを勝利しているが、いまだに凱旋門賞は勝利したことがない。漫画とはいえ、シルフィードの功績は素晴らしいものといえるだろう。

そして、本作も悲しいドラマが多かった。その最たるはやはり、引退後のシルフィードが事故で死亡するシーンだろうか。あれはやるせなかった。種牡馬として残った産駒はわずか1頭となってしまうが、続編の『蒼き神話マルス』に登場する“白の一族”として、その血統がライバルとして登場するのは胸熱の展開だったものだ。

さて、競馬漫画には人馬一体となって感動するシーンが多い。まだまだ盛り上がりを見せるGIだが、ダービー前にもう一度感動する競馬漫画をおさらいしておきたいものだ。

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