「旦那と別れたのはあなたのせい」W不倫した女性が口止め料要求 応じるほかない?

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不倫関係にあった女性から「口止め料」を請求されて困っている──。こんな相談が弁護士ドットコムに寄せられました。

不倫関係がはじまった当初はお互い既婚者のW不倫でしたが、その後しばらくして音信不通となり、その間に女性は離婚。数年後に再び数回会ったものの、またもや疎遠となってた中で、突然口止め料を求めるメールが届いたようです。

「旦那と別れたのはあなたのせい」「SNSの投稿を見て、楽しそうにしているあなたが許せない」などと言われ、口止め料を支払わなければ、相談者の妻や勤務先に不倫をバラすことをほのめかされました。

「便利な関係だった」と振り返り、口止め料を支払うつもりの相談者ですが、出す金額に悩んでいるようです。どの程度の額が相場なのでしょうか。また、そもそも口止め料の請求に応じるのは妥当なのでしょうか。澤藤亮介弁護士に聞きました。

●口止め料「支払う義務は一切ない」

──口止め料を支払う必要があるのでしょうか。

相手方に対して何らかの法的な義務(本件では女性に対して口止め料を支払う義務)が生じる主な根拠としては、当事者間の契約に基づく場合や、請求されている側の不法行為に基づく場合などが考えられます。

本件のような口止め料はいずれにも該当せず、そもそも法的な意味合いでの支払義務自体が認められないため、仮に相手方(本件では女性)が裁判で訴えてきたとしても、裁判所がその請求を認めることはまずないと言えるでしょう。

それに加え、相手方が行っていることは、相談者に対して不利益なこと(本件では「相談者の妻や勤務先に不倫をバラす」)を告知して口止め料という金銭を請求していることから、刑法上の恐喝罪が成立する可能性さえある行為と言えます。

よく言われることではありますが、この種の脅しに屈して一度でも支払ってしまうと、その後も弱みを握られて追加で請求される(たかられる)リスクを抱えてしまうことにもなりかねません。

つい、「配偶者や勤務先に知られたくない」との気持ちが先走り、いくばくかの口止め料を支払って済ませてしまいたいという発想になってしまうかもしれませんが、法的な見地やその後のリスクも考慮致しますと、弁護士視点からはお勧めすることができない解決方法だと思われます(平たく言えば、「運がよければそれで済むかも」といった類の解決方法になるかと思います)。

●刑事事件化もありうる「要求されたら警察や弁護士に相談を」

──口止め料を支払わないとして、何か対処法はあるのでしょうか。

本件のような状況に陥った場合にどのような解決手段を選ぶべきかについては、一般的には、(1)捜査機関(警察)に相談する、(2)弁護士に相談する、のいずれかがよいかと思われます。

(1)捜査機関(警察)に相談する場合は、刑事事件として相談する形をとることになります。具体的には恐喝罪(あるいは脅迫罪や強要罪などになる場合もあります)になり得る行為を受けていると相談する方法です。

警察から、その後の対応についてのアドバイスをしてもらえたり、状況次第では警察から相手方に対する連絡や警告をしてもらえたりなどの具体的な行為が期待でき、その結果、相手方からの不当な要求が止まる可能性があります。また、警察に対する費用は当然発生しないため、費用負担がない方法と言えます。

他方、警察が刑事事件として扱ってくれずに思うように動いてくれない場合がありますし、逆に、相手方が逮捕され、さらに報道されてしまうなど事件としておおごとになった結果、配偶者や勤務先に結果として知られてしまうという可能性もゼロではありません。

──弁護士に相談した場合はどのように対応してもらえるのでしょうか。

(2)弁護士に相談する方法は、通常、民事事件(あるいは刑事事件の被害者側の事件)として相談、依頼する形になるかと思われます。

先述のとおり、相手方からの口止め料は法的根拠がないと言えますが、弁護士が受任する場合は、交際相手間のトラブルとして、相談者の代理人に就任した上で相手方との間で和解に向けた交渉を行ったり、相手方に対して犯罪になり得るような不当な請求を行わないよう警告を行ったりするなどして、紛争の解決を図ります。

さらに、交渉では、金銭面についての協議を行ったり(実務上、紛争の早期かつ円満な解決のための和解金や示談金として支払いが生じることはあり得ます)、不倫交際について口外を禁止する条項(いわゆる秘密保持条項)などの条項についての協議を行ったりするなどして、相手方との現在の紛争の解決に加え、合意後における紛争蒸し返しが極力ないよう配慮して進めることも可能です。

警察への相談と異なり、相談料、着手金、報酬金などの弁護士費用が発生することになります。他方、弁護士を介しての交渉によれば、秘密保持を含む法的に有効な合意をすることが十分に期待できますので、そのような形で相手方との紛争を解決したい場合や、警察に相談すること自体を迷っている場合などは、弁護士に一度相談してみてはいかがでしょうか。

本件のような口止め料の請求は、人の弱みなどにつけ込み、「他人に知られず内々に事を収めたい」という心理を巧みに利用して金銭を払わせようとする行為に他なりません。

そのため、どうしても一定の勇気や覚悟が必要になってくるかと思われますが、警察や弁護士などのしかるべき第三者に相談することによって、その「囲われた状態」から脱しようと発想することがとても重要だといえます。

【取材協力弁護士】
澤藤 亮介(さわふじ・りょうすけ)弁護士
東京弁護士会所属。2003年弁護士登録。2010年に新宿(東京)キーウェスト法律事務所を設立後、離婚、男女問題、相続などを中心に取り扱い、2024年2月から現在の法律事務所でパートナー弁護士として勤務。自身がApple製品全般を好きなこともあり、ITをフル活用し業務の効率化を図っている。日経BP社『iPadで行こう!』などにも寄稿。
事務所名:向陽法律事務所
事務所URL:https://www.keywest-law.com

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