調査官「故人の趣味は?」→「ギャンブルです」で“多額の追徴課税”を回避…遺産3憶円を相続した79歳女性、夫の“変なクセ”に感謝したワケ【税理士の助言】

(※写真はイメージです/PIXTA)

会社員や主婦などの個人であっても、税務署に狙われやすくなるタイミングがあります。それは、「多額の遺産を相続してからの数年間」です。もしも自分が税務調査の対象になった場合、どのように対応すればよいのでしょうか。多賀谷会計事務所の宮路幸人税理士が具体例を交えて解説します。

税務署から狙われやすい「多額の遺産」を相続した個人

相続税調査は、一般的に“相続財産が多ければ多いほど”対象になりやすいといわれます。税務署としても、おなじ手間をかけるのであれば、より多くの追徴税がとれそうな相手を選びたいということでしょう。

では、税務署から突然「相続税調査に伺いたい」と言われた場合、どのような点に気をつければいいのか……それは主に「余計なことをしゃべらない」「聞かれたことだけ正直に答える(覚えていなければ素直に「覚えていない」と伝える)」という2点です。

開業医の夫から約3億円の遺産を相続した79歳の女性Aさんも、相続税調査を受けた際「正直に回答した」ことで追徴税を課されずに済んだのでした。

引退後、ギャンブルにハマった元開業医の夫

Aさんは、10歳年上の夫Bさんを2年前に亡くし、いまはひとりで暮らしています。

Bさんは開業医で複数のクリニックを経営していたことから、現役時代の年収は1億円を超えていました。75歳でクリニックの経営を長男に譲ってからは、これまで忙しかった分を取り戻すかのように、趣味のゴルフや旅行を楽しんでいたそうです。

引退後、「ひまだ」「刺激がない」としきりにつぶやいていたBさんでしたが、Aさんが70歳、Bさんが80歳のころに行った韓国でカジノに出会って以降、ギャンブルにドハマり。年に1度の海外旅行ではカジノが恒例になり、たった数日間で数千万円負けることもあったそうです。またBさんは、日本でも競馬をはじめとした公営ギャンブルに多額のお金をつぎ込むようになりました。

Bさんの散財ぶりに呆れかえっていたAさんでしたが、「夫が稼いだお金だから」と強く止めることはせず「とにかく借金だけはしないでください」と伝えるにとどめていたそうです。結局、Bさんがギャンブルにハマってから亡くなるまでの7年間で、総資産は半分以下にまで減ってしまいました。

Bさんが亡くなった際の遺産分割協議では、長男から「俺は親父から引き継いだ病院があるから、遺産はすべて母さんが相続してよ。親父のギャンブル癖のせいで苦労しただろうし、これからはゆっくり気ままに楽しんで」と、自宅と約3億円の現預金を相続したAさん。なんの不自由もない生活を送っていました。

夫の死から約2年が経ち、すっかり一人暮らしに慣れていたAさんのもとに、税務署から1本の電話が。聞くと、「相続税調査に伺いたい」とのことでした。

ありのままに申告したのに、何か問題でもあったのかしら……と不思議に思いつつ、調査の日。なごやかな雑談のもと調査が始まり安心したもつかの間、Aさんは調査官から“ある意味当然”の追求を受けました。

Aさんの“正直な回答”に調査官は唖然

調査官「旦那さんの相続税の申告書に記載されている財産額について、病院を経営されていたころの確定申告の収入と所得から考えると、明らかに少なすぎますね。これは何故ですか?」

Aさん「それは……夫は仕事を息子に譲ってからというもの、ギャンブルにはまってしまったんです……」

調査官「いやいや、それにしてもあまりに少なすぎませんか。開業医の旦那さまがギャンブルでここまで資産を減らすとは、正直信じられません。なにか証明できるものはありますか?」

Aさん「こちら、主人がつけていたノ-トです。主人には変なクセがあって、ギャンブルの勝ち負けをすべて記録していたんですよ。このノ-トにすべて記載されていると思います」

調査官「まさかそんな……ありがとうございます。お借りします」

もともと几帳面だった夫は、自分のギャンブル戦績をすべて記録してあったのでした。調査官が急ぎ調査した結果、ノ-トにあるギャンブルの収支と口座のお金の流れがおおむね一致したため調査は終了。追徴課税は発生しませんでした。

当然だが…「ギャンブルで負けた=免罪符」ではない

一定以上の所得や財産がある場合、確定申告書とあわせて「財産債務調書」を税務署に提出する必要があります。そのため、税務署は「財産債務調書」を提出していたAさんの夫の資産状況を把握していたと考えられます。

この把握していた財産と、提出された相続税申告書に記載された財産が大きく異なっていたため、申告漏れがあるのではないかと勘ぐられ、税務調査の対象として選ばれることになってしまったのでしょう。

今回のケースでは、Aさんの夫は几帳面にギャンブルで負けた額の記録をつけており、実際にギャンブルで負けたことが証明できたので、なんとか認めてもらうことが出来ました。

ただし、ギャンブルで負けたと言えばなんでもかんでも認められるわけではありません。実際は違うのに、ギャンブルで負けたと言ってしまい、のちに相続財産の申告漏れを指摘された場合、仮装、隠蔽しごまかそうとしたと判断され、本税に対し35%~40%の重加算税という思いペナルティを課せられる可能性があります。調査官もそのように答えられた場合、裏付けがない場合は認められないこととなります。

相続税の申告の際は、過去の収入額や所得額と照らし合わせ、実際の相続財産が少ない時は、税務調査に備え、その理由を把握しておくと良いでしょう。

宮路 幸人

多賀谷会計事務所

税理士/CFP

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