驚くほど細かい上司の指導も、いまは感謝 20代女性社員を成長させた「上司力」のポイントは

上司の言葉がけひとつで、モチベーションが高まった経験はありませんか?

実際のエピソードや感動的なエピソードを取り上げ、人材育成支援企業FeelWorks代表の前川孝雄さんが「上司力」を発揮するヒントを解説していきます。

今回は、正社員に抜擢登用した若手部下を後継者へ厳しく育て上げた上司のエピソードです。

プロの実践力は「答え」を教えず、徹底して引き出す

「上司の指導が理解できない!」正社員登用の女性が悲鳴 その「ダメ出し」連続が意図したことは>の続きです。

「私の仕事って、いったい何?!」からスタートし、いまやPRプランナーとして見違えるほどに成長した20代女性のYさん。ここに至るまでには、Kさんの「上司力」が欠かせませんでした。

「Yさんは当初、タイムマネジメントが全くできませんでした。だから、目先の作業に追われ、それ以外のことまで手が回りませんでした。そこで、毎朝新聞を読む、日報を出すなど、一日のタスクを事細かに記した時間割を自分で作らせ、その通りに行動させました。加えて、ノートの使い方や目上の人に対する言葉使い、すぐやることと長期的にやることの仕分けなど、手取り足取り教え込みました」(Kさん)。

この、社会人の基礎力はしっかり教え込み、プロの実践力は「答え」を教えず、徹底して引き出す、Kさんの「二段階育成」は効果的でした。

Yさんは当時を振り返り語ります。

「とにかく仕事の基礎指導はとても細かく、厳しくて。でも、ここにいたら何でもできるようになるんじゃないかと思うほど。今は感謝しています」(Yさん)

こうした育成の甲斐あって、吸収力の高いYさんは、著しく成長していきました。

「働き始めたばかりの頃のYさんは、とにかく及び腰。『あなたは何がしたいの?』と尋ねても、答えに詰まる様子でした。でも、だんだん自信と自発性が身につき、自ら積極的に提案する企画も増えてきました。毎日、目前の作業に追われる状態から余裕が出て、プラスアルファの仕事ができるようになっていきました」(Kさん)

自社製品の機能より、込められた「想い」を伝えたい!

やがて、Yさんはあるアイディアを思いつきます。それは、自社の広報パンフレットを作成することでした。

「広報として、多くのメディアからの問い合わせに対応していたものの、振り返ると、その内容は通り一遍の機能説明ばかり。そこに関わる製品開発や製造の当事者たちの、完成までの工夫や熱い想いを伝えられていなかった。だから、もっと自社で働くプロたちのドラマを発信したい。『こういう"想い"や"魅力"を持った会社なんだ』と知ってもらえる内容にしたいと思いました」(Yさん)

思い立ったが吉日、Yさんが早速企画書を提出すると、何と、たった3日で企画が通ったのです。「作業」ではない、自分なりの意図を持った「仕事」の提案が評価されたのです。

「うれしかったですね。決まってからは、自ら社内の人にインタビューをしたり、見せ方にこだわったり。とにかく充実したパンフレットになるよう、がんばりました」(Yさん)

そこでKさんは、Yさんらしい人としての魅力をもっと仕事に生かすようアドバイスします。

「Yさんは親しみやすく、話しやすい雰囲気の持ち主。だから、社内メールや電話ではなく、とにかく現場に行って、直接人と会って話をしなさいと言いました」
「広報は、社内のさまざまな人から情報をもらい発信する役割ですが、なかには情報をすんなり開示してくれない人もいます。でもYさんなら、本人が自己開示していくことで相手も警戒心を解き、円滑に仕事が進められます」(Kさん)

「昔、金髪でした(笑)」過去の恥ずかしい写真も公開

Kさんの狙いはさらに功を奏します。

YさんはKさんから社内報の編集担当を引き継ぐことになりました。

これを機会に、さらに他部署にも頻繁に足を運び、顔と名前を売っていきました。行く先々で話を聞き出し、得た情報を社内報に反映させるのです。

「積極的に人と会うことはもちろん、昔、金髪にしていた頃があったんですけど、そんなちょっと恥ずかしい写真を思い切って社内報で公開しました。自分がどんな人物なのかを、なるべく多くの人に知ってもらう努力をしました。すると、社内報への情報出しを協力してくれる人が増えたと同時に、普段の仕事でも私の意見に耳を傾けてくれる人が増えたんです」(Yさん)

こうした進展を目の当たりにしたKさんは、こう話します。

「広報が他部署から認められてきたという証拠です。広報は『この人に頼めば何でも精一杯やってくれる』と思われることが大切。そのためには、社内メールには誰よりも早く返信するように言って聞かせました」(Kさん)

Yさんが作る広報物は、その後、社内でも社外でも大ブレイクしていきます。

このエピソードは5月27日公開の<上司の役割は部下に「作業」でなく「仕事」をさせること 根気よく「目的意識」を伝え続けよう>に続きます。

(紹介するエピソードは実際にあったものですが、プライバシー等に配慮し一部変更を加えています。)


【筆者プロフィール】
前川 孝雄(まえかわ・たかお):株式会社FeelWorks代表取締役。青山学院大学兼任講師、情報経営イノベーション専門職大学客員教授。人を育て活かす「上司力」提唱の第一人者。リクルートを経て、2008年に管理職・リーダー育成・研修企業のFeelWorks創業。「日本の上司を元気にする」をビジョンに掲げ、「上司力研修」「50代からの働き方研修」「新入社員のはたらく心得」などで、400社以上を支援。
近著に、『部下全員が活躍する上司力5つのステップ』(FeelWorks、2023年3月)、『部下を活かすマネジメント「新作法」』(労務行政、2023年9月)、『Z世代の早期離職は上司力で激減できる!』(FeelWorks、2024年4月)など。

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