WurtS、熱狂的なステージに垣間見えた内面性 豪華編成で迎えた初のホールツアーファイナル

WurtSが東名阪ホールツアー『WurtS CONCERT HALL TOUR I』のファイナル公演を昭和女子大学 人見記念講堂にて開催した。チケットはソールドアウト、YouTubeでの生配信も行われるなど大盛況となり、ホーンセクションやキーボードも取り入れた特別な編成で行われたWurtS初となるホールツアーのラストを、2,000人以上の観客が見届けた。

この日のライブは「FOUR PAST MIDNIGHT」からスタートし、続けて「ユートピア」「BORDER」と新旧織り交ぜた曲たちをドロップして、開始早々に熱いステージを作り出していった。

「寝相」を華麗なギターソロで締めくくると、盛大な拍手と歓声が上がる。WurtSが「ファイナル来てくれてありがとう!」と挨拶し、「東京以外から来た人もいるんですか?」と問うと、客席では多くの手が上がっていた。全国各地からファンが集まっていることを目にすることで、彼の人気の高さを改めて実感する。

エレクトロなサウンドが流れた後に披露されたのは「タイムラグ!」。ギター、ベース、ドラム、DJという編成にキーボードが加わったバンドサウンドに乗せて、歌声が届けられていく。アタックに合わせて光る照明も印象的で、音だけでなく視覚的にもオーディエンスの気持ちを高揚させてくれた。人気曲「ブルーベリーハニー」を投下した後は「コズミック」へ。メロディアスなキーボードが心地よいダンサブルな1曲で、オーディエンスもノリノリで拳を掲げ、会場のボルテージが上がっていることが伝わってきた。

MCでは、もともと東京に憧れていたが、いざ上京してみると窮屈に感じたり虚無感に襲われることもあったと語った。上京してSFの世界に来た感覚がありつつも、アナログな部分があることにも気づく。様々なものがミックスされた街である東京をダークに歌った曲だと話し、新曲「SF東京」を披露。耳に残る浮遊感あふれるメロディと近未来感のある世界観で、オーディエンスの目と耳を惹きつけた。

また、中盤には大学を無事に卒業したことも報告。学業と仕事の両立ができた環境への感謝を述べると、「ここからまだまだ楽しい仕掛けがあるんですけど、みなさん大丈夫ですか?」と後半戦開始の合図を下す。ギアをグッと入れて「SWAM」「オブリビエイト」「リトルダンサー」を畳みかけ、一気にフロアを踊らせた。オーディエンスが大きく手を振ったり、クラップを鳴らしたり、DJのウサギがエアギアーを弾いたりしている姿を見ていると、こちらまで思わず身体を揺らしたくなった。

「昔書いた曲を今やるの、すごくいいかなと思ってるんですけどどうですか!?」と前置きして披露したのは「マイティーマイノリティ」。ストレートなバンドサウンドを会場いっぱいに響かせた。本編ラストパートに披露した「MOONRAKER」や「メルト」にはサックス、トランペット、トロンボーンのホーン隊もイン。壮大なサウンドとミラーボールなどの演出で、いつもよりドラマチックな仕上がりに。そしてラストは代表曲「Talking Box (Dirty Pop Remix)」で本編を締めた。

もはやお馴染みとなった、アンコールを求める「分かってないよ」コールに応え、WurtSとサポートメンバーが再登場。ウサギの物販紹介の後に披露したのは、もちろん「分かってないよ」だ。サビではフロアにマイクを向け、オーディエンスたちの合唱を会場中に響かせた。そして最後に10月の日本武道館公演の開催を発表し、ステージを後にした。

音楽知識のなかった大学生が実験的にSNSで楽曲を発表し、コロナ禍を含む5年間でいくつものヒット曲を生み出し、ホールツアーを完走して、武道館公演まで開催するトップミュージシャンになった。元々はSNSという媒体を通じて一方的に楽曲を届けていたが、ライブではオーディエンスと共にライブ空間を作り上げ、互いにエネルギーを与え合っている。マーケティング研究の一環として楽曲を届け始めたことや、ライブでも素顔を明かさない……という情報だけ聞くと無機質なアーティストに思われるかもしれないが、楽曲やMCには温かみのある人間性があふれ出ており、約90分のライブの中でオーディエンスの心の深いところまで音楽の面白さをしっかりと植えつけた。楽曲のリリースやライブという実験を経て、WurtSは今後どのように変化していくのか。引き続き注目したい。

(文=伊藤美咲)

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