高橋一生の“子供”のような表情に息を呑む 『6秒間の軌跡』が問う「全力で生きているか」

「花火師失格だ」

星太郎(高橋一生)の心を見透した上で、敢えて厳しい言葉を投げかけた航(橋爪功)の威厳。その瞬間、まるで小さな子供に帰ったかのような星太郎の心もとない表情に、思わず息を呑んだ。

『6秒間の軌跡~花火師・望月星太郎の2番目の憂鬱』(テレビ朝日系)第7話では、星太郎が恐れていた事態が起きる。

幽霊の航が再び現れたのは、未来で何か良くないことが起きようとしているのを伝えるためではないかと疑う星太郎。元々、思い込みが激しいタイプの星太郎は何度も見る細長い穴に落ちる夢や、なぜか望月家になつく野良猫などと結びつけて確信を強めていき、ついには何かあった時のために大量の備蓄を購入する。そんな中、望月煙火店に花火競技会へのオファーが舞い込んだ。

競技会は主催者に選ばれた約20社の花火屋がその技術を競う大会のこと。星太郎は当初、花火に順位がつくのは嫌だと出場を拒んでいたが、ひかり(本田翼)やふみか(宮本茉由)の後押しでしぶしぶ了承する。

そして競技会に向けて花火作りに精を出す一同のもとに、今度は星太郎の幼なじみ・田中(小久保寿人)が仕事の話を持って来訪。なんと、星太郎を“イケメン花火師”としてネットでバズらせたインフルエンサー・オマツリサワギ(落合陽平)の正体が小学校の同級生で、その彼が花火を依頼したいというのだ。オマツリサワギのせいで不本意な持ち上げられ方をしたこともあり、これもまた星太郎は拒否するが、ひかりとふみかが例のごとくその背中を押す。

熟考しなければ動き出せない星太郎にとって、大事な機会を逃さないようにお尻を叩いてくれる2人は今や必要不可欠な存在。だが、その方法は対照的だ。ひかりはどちらかといえば放任主義で、基本的にはいじけたり、屁理屈をこねる星太郎を呆れながら見守っている。だけど、煽りが抜群に上手で、それに乗せられた星太郎が半ば逆ギレで動き出すこともしばしば。そんな思春期の子供と母親のようなやりとりも、シーズン2に突入してすっかり板についてきた。

対して、ふみかは結構強引。とはいっても、無理やりというよりは彼女自身の花火にかける熱量が星太郎を動かすエンジンとなっている。花火師の娘だけあって知識やスキルも豊富で、星太郎が作る花火の魅力を誰よりも理解しているふみか。彼女がくれるプロ目線の評価に星太郎も悪い気はしないのだろう。少しずつ“師匠”としての自覚が芽生え始めているような気がした。

オマツリサワギの親が経営するワイン会社の創立記念日に立体的なワイングラスの花火を上げた星太郎。打ち上げは見事に成功し、献身的にサポートしてくれたふみかをついに星太郎は部外者立ち入り禁止の火薬の配合場所に招き入れる。ふみかは心から嬉しそうな顔をしていたが、後日配合のレシピとともに姿を消した。

星太郎が作る花火の“紅”に惚れ込んだとして、弟子入りを志願したふみか。代々受け継がれてきた望月煙火店が出す紅の色は特別で、試行錯誤の末に編み出されてきた配合のレシピは門外不出だ。それを分かった上でふみかは外に持ち出した。もしそれが他の花火師の手に渡れば、競技会で望月煙火店は不利になるかもしれない。競技会には、ふみかの実家である昨年の優勝者・野口煙火店もエントリーしているという。これまでの彼女を見ていたら俄かに信じがたいことではあるが、最初からふみかは望月煙火店と競わせた上で野口煙火店を勝たせるために星太郎に近づいたのだろうか。

異変に気づいた星太郎は、こうなることがわかっていたんじゃないかと航に詰め寄る。それに一切動じることなく航が呟くのは、星太郎がイケメン花火師特集の取材を迫るマスコミに啖呵を切った時に吐いた台詞だ。花火は上げてみるまでわからない。どんなに技術や思いを込めても、思った通りの花火が上がるとは限らない。それでも全力でやるのが花火師であり、コントロールしようとするのはおこがましい……星太郎はそう言った。だけど、今の彼はどうだろう。花火と同じように、不確定な未来に躍らされて今を見失っている。航から事前に何が起きるかを聞き出して、未来をコントロールしようとしている。

「花火、作ってるけど作ってねぇよな。玉に何にも込めちゃいねぇもん。そんな花火、上げられるのか? お客さんに」

星太郎だけではなく、航の問いかけが胸に刺さった視聴者も多いのではないだろうか。未来の出来事は予想不可能なものであり、その時が来るまで誰にも分からない。それなのに私たちは“最悪”を考えて不安に怯え、つい今を疎かにしてしまうことがある。航の星太郎に対する問いかけは、そんな私たちへの「今を全力で生きているか?」という問いかけだ。星太郎は何も答えられなかった。そして、航は星太郎に「花火師失格」の烙印を押す。星太郎の父であり、花火師の師匠でもある航の言葉はあまりに重いが、彼なりの叱咤激励なのだろう。星太郎にとっての大事な成長ポイントが再びやってきた。

(文=苫とり子)

© 株式会社blueprint