海賊版グッズ、生成AIを使ったものがネットオークションに氾濫 商品名の“〇〇風”には要注意

■生成AIを使った海賊版が氾濫

抱き枕カバーにタペストリー、アクリルスタンド……ネットオークションやフリマサイトに、アニメや漫画の人気キャラクターによく似たイラストをあしらったグッズが、多数出品されている。髪型や髪の色、衣装などを見てもどう考えても“あのキャラ”にしか見えないのだが、具体的な作品名などはない。もしくは、プリキュア“風”のように曖昧な表記で販売されていたりする。

これらのグッズは、生成AIを使って出力したイラストをグッズ化したものだ。商品説明には生成AIを使ったという記述はないものの、絵柄、手や背景など細部の表現が奇妙な点などから総合的に判断すると、生成AIの絵と考えてほぼ間違いない。最近の生成AIの進化は著しく、例えば京都アニメーション“風”の絵柄を出力するよう指定すれば、それっぽい絵柄が出てくるのである。

こうした生成AIによって出力されたイラストが、海賊版の温床になっているという指摘がある。一昔前の海賊版といえば、『ビックリマン』のパチシールや、『ウルトラマン』のパチソフビのように、必死にコピーしようとしているのにどこか変という、ネタとして笑えるレベルのものが多かった。しかし、生成AIを使えば、ファンでも騙されるような偽物のイラストが、いとも簡単に生み出せてしまうのである。

しかも、あくまでもその作品名を謳っているわけではなく、“〇〇風”のイラストなのである。公式のイラストを無断使用した物であれば問題であるが、絵柄を模倣しているだけであれば、著作権的には限りなくグレーではあるものの取り締まることが難しい。近年、個人でもこうした抱き枕カバーなどのグッズが、安く、しかも高品質で製作できるようになったことで、出品例が急増しているのだという。

■二次創作とどう区分するのか

日本には同人誌即売会やファンアートなどで知られる二次創作の文化もある。それらは著作権的には限りなくグレーなのだが、あくまでもファン活動の一環として著作権者が黙認しているため、基本的には問題にはならない(もちろん問題になった例もある)。しかし、ファン活動という建前がある一方で、二次創作の同人誌やグッズを同人誌ショップの流通にのせる行為は普通に行われている。

それらのほとんどは著作権者の許可を取っているわけではないし、もちろん著作権者に何らかの支払いがあるわけではない。そのため、いわゆる“AI絵師”の中には、「なぜ二次創作が許されて生成AIはダメなのか」と主張する人もいるのだ。

二次創作のイラストも、著作権者からすれば海賊版であるという指摘は以前からもあったが、本格的な議論がなされることは少なかった。生成AIはいわばパンドラの箱を開けたと言っていい。ネット上では、生成AIについてある程度規制を設けるのであれば、それまでグレーゾーンだった二次創作についても、一定のルールを設けるための議論がなされるべきという見解が出ている。

90年代頃まで、二次創作のグッズといえば“同人便箋”のようなものが主流で、業者と個人が作る品物ではクオリティに明確な差があった。しかし、最近では印刷技術やグッズ製造の技術も進化し、ライセンス料を払って業者が作るグッズとクオリティが寸分違わないグッズを個人が販売できるようになってしまった。このような状態に、昔からの二次創作や即売会のルールを適用するのはおかしいという声もある。

生成AIについての議論は、過渡期ということもあってか賛否両論である。「創作者にダメージを与える」として一定の規制を設けるべきだとする意見がある一方で、「日本の産業の発展を阻害する」といった経済界の意見もあるし、クリエイターの間でも「問題がクリアされたら使えるべきものは使いたい」という意見もある。既に紹介したような、AI絵師の意見もある。様々な立場から議論がなされるべきであろう。

(文=山内貴範)

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