【漫画×論評 TODAI COMINTARY】にぎやかな夜のヒューマン・ミーツ・バンパイア 盆ノ木至『吸血鬼すぐ死ぬ』

今や日本が世界に誇る文化となった漫画。東大新聞編集部員がぜひ読んでほしいとおすすめする漫画作品(Comics)を、独自の視点を交え、論評(Commentary)という形(Comintary)でお届けする本企画。今回は、『吸血鬼すぐ死ぬ』(盆ノ木至)を取り上げます。

にぎやかな夜のヒューマン・ミーツ・バンパイア

吸血鬼の跋扈(ばっこ)する魔都・新横浜。吸血鬼退治人(バンパイアハンター)・ロナルドは、真祖にして無敵とうわさされる吸血鬼・ドラルクと対峙(たいじ)する。ところがドラルクは、ロナルドが開け放ったドアに挟まれ死んでしまったのだった!

ひょんなことから同居を始めた短気な退治人とすぐ死んでは生き返る吸血鬼の2人を中心に、続々登場するおかしな吸血鬼たちと、やっぱりくせ者ぞろいの人間たちがドタバタな日常を繰り広げる。

12 ページで1話完結が基本の本作は、1ページにギャグをいくつも詰め込むハイテンポさが心地よい。勢い任せのボケがあるかと思えば、読者の虚を突くようなひねった笑わせ方もあって飽きない。

本作の魅力は、ギャグを背後から支える世界観の厚みだ。たった一つのボケのために出てきたかに見えるキャラクターが、再度登場して別の一面を見せる。意外なキャラクターたちが意気投合し、またいがみ合う。いつしか新横浜は、多種多様なキャラクターたちの織りなす群像劇で彩られていく。

例えば5巻に登場する吸血鬼「下半身透明」のエピソード。文字通り己の下半身を透明にする能力の持ち主で、幽霊の格好をしては廃病院で人間を驚かせて遊んでいる。ところが廃病院をさまよう本物のお化けに出くわしてしまう。異様なお化けを目の当たりにした彼は泣き出し、暗転。そこで終わりと思いきや、一体どんなやりとりがあったのか、次のページで彼はお化けと共に廃病院をお化け屋敷にして商売を始めている。読み進めていくと、やがてお化けは「あっちゃん」と呼ばれ出し、彼のかわいい妹分として家族だんらんに加わってしまうのだった。

新横浜の群像劇に共通するのは、異種族や異文化、チグハグな者同士が出会って生まれるときめきだ。愛する吸血鬼を追って南米から海を渡るアルマジロ。世界征服をたくらむ猫の正体に気付かずとりこになる無敵の編集者。もちろん、吸血鬼と人間の出会いもたくさん描かれる。愛し合って夫婦になったり、宿敵から親友になったり、はたまた復讐(ふくしゅう)に燃え執着したりと、三者三様のヒューマン・ミーツ・バンパイアだ。

人間模様(吸血鬼模様?)を見ていると、彼らの暮らす魔都・新横浜が実在するような気分になってくる。疲れた夜は、本作を開いて新横浜を訪れてみてほしい。にぎやかに騒ぐ吸血鬼や人間たちが、きっとあなたを歓迎してくれる。【広】

盆ノ木至『吸血鬼すぐ死ぬ 第1巻』秋田書店、税込み528円。

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