【コラム・天風録】佐賀の書店で

 JR佐賀駅構内にあるその名も「佐賀之書店」を先日、訪れた。江戸の火消しに戦国の石垣造り職人…。ユニークな視座の歴史小説で知られる直木賞作家、今村翔吾さんが開いて半年近い。オーナーの数々の作品を並べる棚のほかは、ごく普通の品ぞろえ▲県庁所在地の駅なのに、通勤通学者が書店に立ち寄る普通の光景が水害のあおりで消えていた。京都生まれの人気作家が復活させたのは、佐賀の文学賞がデビューにつながった恩ゆえだ▲ここで買ったエッセー集によると小学生時代に池波正太郎の「真田太平記」全巻を母にねだり、読破したことが本屋通いの原点だそうだ。「本に出逢(あ)わなければ、今の私はなかった」と▲人と本が交錯する場所、と今村さんが言う書店。数は減り続け、ゼロの市町村が27%強になる。さすがにまずいと経済産業省は対策チームを立ち上げた。ただネット通販や電子書籍の波に正面からあらがうのも難しい▲今村さんが東京・神保町で次に挑むのは棚ごとに店主を募り、推す本を並べる「シェア型書店」。中国地方の過疎のまちでも書店再生へ踏ん張る人たちのニュースが相次ぐ。本との出合いの場をつくる熱意に、今こそエールを。

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