『アンメット』が描く“儚くも美しい時間” 生田絵梨花演じる麻衣が今後の鍵を握る?

朝起きて、昨日の夜に食べたものを覚えている。仲間と思い切り笑ったことも、はやく忘れてしまいたいなぁと思うような苦しい出来事も、全部心に残っていて、その“記憶”とともに生きていく。今までは、当たり前だと思っていたことが、誰かにとってはかけがえのない奇跡なんだと知った『アンメット ある脳外科医の日記』(カンテレ・フジテレビ系)第6話。

抗てんかん薬を増やしたことで、断片的ではあるものの、前日のことを覚えていられるようになったミヤビ(杉咲花)。「覚えてたんです。昨日の晩ごはんの豚足!」とミヤビが言ったときの、同僚たちの姿。まるで自分のことのように彼女の苦しみを背負い、ともに考えて戦ってきたからこその、あの喜びよう。やっぱり、『アンメット』は尊い。そう再確認した瞬間だった。

それにしても、ミヤビはこれまで、どんな気持ちで眠りについていたのだろう。目覚ましをセットするとき、布団に入るとき、目を閉じるとき。喜びも悲しみも明日には持っていけないことに、どれだけの絶望を感じていたのだろう。記憶障害を患ってから初めて担当した手術を成功させた日、「忘れたくないなぁ」とつぶやいていたミヤビの表情から察するに、とてつもない絶望感を抱きながら、1日を終わらせていたのだと思う。

『アンメット』は、大きな奇跡は描かない。“光”の後ろには、必ず“影”ができる。ミヤビの記憶障害は改善されつつあるが、きっとまた別の問題が起きてしまうのだろう。人生は、満たされない(=アンメット)気持ちの連続で、すべてが満たされる瞬間などない。でも、だからこそ、わたしたちは生きていく。心が満たされたときの嬉しい気持ちをギュッと冷凍保存し、ときにそれを解凍して心をほぐす。そうすれば、また満たされない寂しさと戦っていくことができるのだ。

第7話からは、作品のタイトルでもある“アンメット”が論点となってくるはずだ。全員の心を満たすことができる選択など、この世には存在しない。それなら、より多くの人にとって最善を尽くそうと考える大迫(井浦新)と麻衣(生田絵梨花)。すべての人を救えないもどかしさと戦う三瓶(若葉竜也)に、どっちつかずになっている綾野(岡山天音)。そしてミヤビは、誰かを救ったことで影ができたとしても、寄り添えばその影を消すことができると考えている。

ミヤビのこの考えは、脳外科医としての働き方にも生かされているように思う。脳の病気というのは、治療をしたとしても後遺症が残ることが多い。これまでミヤビは、運び込まれてきた患者の命を救い、その後ろにできた影(=後遺症)に寄り添う努力をしてきた。影を照らすのではなく、そっと寄り添う。とくに、第2話で泥まみれになりながら患者とサッカーをしていたシーンなんかは、その生き様が如実に反映されていたような気がする。

また、恋愛面でも成就する人がいれば、満たされない想いを感じる人が出てくる。とくに、綾野を奪われたくなくて、ミヤビが記憶を取り戻すのを阻止しようとしている麻衣は、今後の鍵を握る人物になってくるだろう。合理的な選択を取ってきた綾野が、ミヤビへの“情”を優先させるようになっていることを悟ってしまった麻衣は、何をしでかすか分からない。

ミヤビが記憶障害にならざるを得なかった理由に、情のもつれ、さらには、三瓶の本当の気持ちまで、まだまだ謎が残されている『アンメット』。後半戦も、儚くも美しい時間を心の奥底に刻みつけたいと思う。
(文=菜本かな)

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