突然告げられた10年ぶりの主将復帰 35歳リーチ、戸惑いから鬼に変わった日本一までの改革【ラグビー・リーグワン】

リーグワンプレーオフ決勝、優勝カップを持つ東京のリーチ・マイケル(中央)【写真:矢口亨】

リーグワンプレーオフ決勝

ラグビー・リーグワンプレーオフ決勝は26日、東京・国立競技場で行われ、レギュラーシーズン2位の東芝ブレイブルーパス東京(BL東京)が14季ぶり6度目の優勝(前日のトップリーグを含む)を果たした。同1位・埼玉パナソニックワイルドナイツ(埼玉)と激闘の末、24-20の勝利。NO8リーチ・マイケルは10季ぶりの主将に戸惑いもあったが、最後に改革を結実させた。(文=THE ANSWER編集部・浜田 洋平)

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相手を思い、派手に喜ばないのがリーチらしい。

リーグ史上最多5万6486人が熱狂した国立競技場。ノーサイドの瞬間、35歳の主将は埼玉のHO堀江翔太のもとへ真っ先に歩み寄った。2011年からワールドカップ(W杯)で4大会も一緒に日の丸を背負い、今季限りで引退する戦友。そっとタッチを交わした右手に敬意を込めた。

「勝った瞬間は寂しさ半分、喜び半分。もっと『ヨッシャ!』って感じが出ると思ったけど、堀江さんの最後の試合。最後の最後まで同じピッチに立てて複雑な思いもある。帰ってからしっかり喜びたい」

昨季は5位。プレーオフにすら進めなかった。トッド・ブラックアダー・ヘッドコーチ(HC)は選手に投げかけた。「もし、自分たちがチャンピオンになった時、どういう変化をしたのか言えるようにしよう」。改革へ下した決断は、リーチの主将復帰だった。

リーチが告げられたのは昨年10月。W杯を戦ったフランスから帰国したばかりだった。「自分のことに集中するつもりだった」。突然の打診に戸惑いはあったが、2011年に加入以降は優勝なし。ラグビー人生を通しても、ニュージーランドから留学した北海道・札幌山の手高、東海大で「日本一」になったことはなかった。

覚悟を決めて引き受けたキャプテン。「チームのダメなところを変えた」。心を鬼にし、練習でも試合でも小言のように課題を指摘した。英語でコーチ陣との橋渡し役に。世界No.1のSOと称されるニュージーランド代表のリッチー・モウンガが新たに加わっても、チームバランスが崩れなかったのはリーチがいたからだ。

胴上げで直立不動だったリーチ【写真:矢口亨】

若手が証言「リーチさんの頑張っている姿しか見たことがない」

25歳のHO原田衛は言う。「リーチさんは頑張っている姿しか見たことがない」。泥臭い背中についてきた若手は、チームの中核を担うまでに成長。リーチも「(今の若手は)試合に出たいだけじゃなく、日本代表になりたい、スーパーラグビーでプレーしたいという意欲がある。練習量が素晴らしい」と向上心をもらい、燃料にした。

14勝1敗1分でレギュラーシーズン2位通過。8季ぶりに決勝までたどり着いた。相手はスター軍団の埼玉。0-3の前半10分、自陣残り数センチでリーチが渾身のディフェンスタックルを決めた。その後はトライの応酬でシーソーゲーム。リーチは仲間を、敵を観察した。

「相手の表情も試合中に暗くなっていく。こっちは明るくなって、それに気づいた。でも、今度はペナルティーをもらって相手が元気になって、自分たちが暗くなって。そこから相手が勢いづいてトライを獲られたり」

仲間には必ず名前を呼んでから声を掛けた。「よくやったぞ」「いいジャンプ」「ナイススクラム」。無骨な顔に気持ちを乗せた。山場は17-20と逆転された後半30分。「勝手なことをしない。自分たちのラグビーをしよう」。緊迫した土壇場こそ規律が乱れ、1人が前に出ると隙を突かれる。意思統一させ、同34分の逆転トライに繋げた。

3度宙を舞った人生初の胴上げ。慣れておらず、189センチ、113キロの巨体は空中で直立不動だった。「しっかり体幹を決めました」。ファンへの挨拶で場内一周中もヘッドギアを着けたまま。「失くさないように」。素朴な語り口に会見場は笑いに包まれた。「今日は帰ってビールを飲んで一晩を過ごしたい」

日本代表は6月22日のイングランド戦(国立競技場)でエディー・ジョーンズHCの初陣を迎える。「選ばれたら行きますよ。まだまだトップでやれる自信もある」。日本ラグビーにリーチ・マイケルあり。35歳の凄みを示すシーズンになった。

THE ANSWER編集部・浜田 洋平 / Yohei Hamada

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