中国銘茶、鉄観音の産地、福建省珍山村を訪ね、香りと味わい、人情を堪能

台湾の対岸に位置する中国福建省の厦門(アモイ)。そこから車で3時間弱、内陸部に160キロほど走り、中国銘茶・鉄観音の産地、珍山村を目指した。標高1500メートルの村に近づくと、次第に山肌にはお茶の木が目立つようになり、さらに進むと中国茶独特の香りが漂ってくる。

山に分け入り、時を忘れて茶摘みを体験

訪れた5月初旬は、ちょうど鉄観音の摘み取りからお茶の生産の最盛期だったこともあり、道路にシートを広げ、茶葉を干す作業が行われていたからだ。また、夜遅くまで機械で茶葉を乾燥せる音が響いていた。

お茶農家の夫人、詹藤英さんの淹れるお茶を味わう

今回の訪問は中国茶ソムリエで、中国茶芸師である筆者の呼びかけに応じてくれた日本人グループが同行した。茶畑見学と茶摘み体験から、実際にお茶が作られる工程に立ち会い、自分たちで作った鉄観音を飲んでみる旅だった。

茶畑は珍山村の中心から車で20分ほど行き、さらに山道を歩いた山中に広がっていた。すでに手慣れた農家の人たちがお茶の葉摘みに精を出していた。私たちもさっそく茶葉の摘み取りを始めた。葉に触れたときシルクのようなしなやかな感触があるものを選ぶのがコツだという。1時間ほどで買い物に使うようなビニール袋いっぱいに摘んだ。それをお茶農家の作業場に持ち込み、天井から吊るした大きなザルに入れユサユサと揺らす。

童心に帰る茶葉揺らしにも挑戦、寝かすことで増す香り

この作業は2時間に1度、計3回行う必要があるので、夕食を挟んで夜までかかった。揺らすことで、茶葉が上下左右にバサバサと動き、揺らして寝かすと香りが増すと言う。ただ揺らすのなら簡単だが、茶葉がまんべんなく空気に触れるようにするのはコツがあり、慣れるまで時間がかかった。参加者は童心に帰って実に楽しそう。次はお茶を布袋にいれ、揉む。これは力技だ。

天井から吊るした大ざるに入れた茶葉を揺らす。最初はコツがつかめず茶葉が零れ落ち大騒ぎ

その後、この茶葉を乾燥させ、翌日には普段飲むお茶の原型のような形に仕上がる。ここから不要な茎などを取り除く。ビニール袋にいっぱいに積んだ茶葉が乾燥後はほんの一握り程度の大きさになり、「えっ、こんなに少しになってしまうの」と、ちょっとがっかり。

一連の作業のなかでも、力仕事となるお茶を揉む主人の陳春強さん## 作法に則りお茶をいただく。味わい深く何杯も飲める

お茶をいただく機会もたくさんあった。鉄観音を堪能するには、作法と飲み方がある。まず茶葉を茶碗に入れ、そこに100度の熱湯を注ぐ。それを茶葉が混じらないよう別の容器に移し替える。熱湯で熱くなった茶碗を持ち、移し替えるのは慣れないとなかなか難しい。茶碗の蓋を取って香りを嗅ぐと、なんともふくよかな鉄観音独特の香りがする。口に含むとまったりするような味わいだ。目分量でおよそ8グラム。4、5人分にお茶を振る舞える。この村の高級鉄観音なら、10回程度注いても、味と香りは落ちない。

また、自分の小さな器にお茶を注いでもらう時、いちいち「ありがとう=謝々」と言わず、中指と人差し指でトントンとテーブルを叩けばよい。小さな器なので、お茶の種類を変えて、何杯も飲むことができる。香りが優れたお茶、味に自慢のお茶、様々なお茶を味わう幸せなひとときだった。

何杯飲んでも飽きがこない鉄観音## 帰国後もお茶を飲むたび思い出す茶畑と村の人々

福建省は冒頭にも記した通り、台湾の対岸に位置するため、日本に比べ暖かい。しかし、珍山村は標高が高いため、寒暖差があり美味しいお茶が栽培できるのだ。今回お世話になった生産農家の主人、陳春強さんは、この地で代々続くお茶農家の当主で、もっぱらお茶栽培の技術面を担当し、茶摘みの季節には昼夜を問わず働く。一方、奥様の詹藤英さんは経営営業面を担当し、アモイ市内でお茶の販売店を担っている。その店でも作法に乗っ取って、何度もお茶をご馳走になった。帰国してからも、お茶を口に含むと、馥郁(ふくいく)とした香りと味が広がり、珍山村の茶畑と純朴で優しい人々との交流を思い出さずにいられない。(撮影 井岡今日子)

寄稿者 井岡今日子(いおか・きょうこ)写真家

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