「何度もテイクを重ねて…」 原作者とプロデューサーが語るドラマ「アンメット」の裏側

ドラマ「アンメット ある脳外科医の日記」の主人公・川内ミヤビ役の杉咲花さん【写真提供:カンテレ】

五感や体を動かすほか、生命活動を司るうえで欠かせない機能を多く持ち、知識や大切な思い出を記憶している脳。まだ解明されていないことも多いといわれる、脳と記憶をテーマにしたドラマ「アンメット ある脳外科医の日記」が話題になっています。「Hint-Pot」編集部では前後編にて、原作者で元脳外科医の子鹿ゆずる先生と、ドラマを手がける関西テレビ(以下、カンテレ)のプロデューサー・米田孝さんに、お話を聞きました。

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「脳に障害を負った当事者やご家族が、納得してご覧になれる」

週刊漫画雑誌「モーニング」(講談社)で連載中の同名コミック原作者である子鹿先生は、元脳外科医。それだけに、臨床や医局での会話、実際の症状や後遺症について、リアルな作品にすることを大切にしています。

「漫画原作のスタートを機に、SNSで医療的な説明の補足を発信しています。脳に障害を負った当事者やご家族から、周囲の理解を得る助けになるといった声も多いです。ドラマも、そうした方たちが納得してご覧になれるもの。綿密に、テーマや実際の状況を訴えられるものになっていると思います」

実は複数の実写化オファーがあったそう。今回、ドラマ化が実現した理由を子鹿先生は「米田プロデューサーの本気度と、ミヤビを主人公にしたいという要望をいただいた点も大きい」と話します。

「漫画の主人公は、天才外科医の三瓶友治です。今作がデビュー作で、うまくミヤビを描き切れない面を感じていました。人物設定からすると、ミヤビは主人公になり得るキャラクター。ドラマとして自由に描いていただくようゆだね、お任せしたいと感じました」

杉咲花さんが演じるドラマの主人公は、漫画の主要な登場人物の川内ミヤビ。不慮の事故で脳に損傷を負い、後遺症で過去2年間の記憶を失ったうえ、朝には前日までの記憶がリセットされてしまう脳外科医です。

プロデューサーの米田さんは、2021年に単行本コミックスで作品と出合い、当初からミヤビを主人公にした実写化をイメージしていたのだとか。

「ドラマでは客観視点も大事ですが、視聴者が想像力を働かせることができる、登場人物の心情を体感できる作り方が大切です。その人物視点は誰なのか? とイメージしたとき、すぐにミヤビを主人公にしたいと考えました」

1話では脳梗塞による後遺症を抱える患者の“主観映像”も【写真提供:カンテレ】

脳に損傷を負った人が見ている世界を再現

ドラマの中では後遺症を持つミヤビが、毎朝リセットされる記憶を補うため日記をつけ、出勤前に読んで一日をスタートさせるシーン。そのほか、各話に登場する患者が直面する、症状や後遺症が描かれています。

そうした状況を象徴する場面が、1話に脳梗塞による後遺症を抱える患者の“主観映像”にありました。まず客観的な世界では、言語聴覚士が患者に指示を出しています。それに応えて患者は対応しようとしますが、うまくできません。

続いて、患者が見ている世界が映し出されると、とても集中しているのに、言語聴覚士の声は途切れ途切れで歪んでいて、何を指示されているのかよくわからない状態です。

米田さんは「あの場面は、患者さんには実際どう見えているのか? どう聞こえているのか? 子鹿先生や監修の臨床医の先生に教えていただき、何度もテイクを重ねて制作しました」と話し、慎重に撮影したことがうかがえます。

脳に障害を負うことによって、それまで当たり前にできていたことができなくなる。知識として知っていても、理解しきれないことが、その映像でダイレクトに伝わったと感じた人も多いシーンです。

原作漫画でも描かれていますが、実写ドラマだからこそ、よりリアルな描写になっています。こだわって撮影されたと感じられる映像に、作品の誠実さを感じた人が少なくなかったようです。

米田プロデューサーが、役ではなく「三瓶として現場にいる」という若葉さん【写真提供:カンテレ】

制作陣だけでなく キャストからのアイデアも

米田さんが語るドラマのテーマは、1話の最後にミヤビが日記に綴る「わたしの今日は、明日に繋がる」。大きな後遺症があり、記憶がリセットされるにもかかわらず、ミヤビが明るく前向きに、今日の自分の努力が明日につながることを信じる姿が魅力的です。

そんなミヤビのキャラクターは、劇中でたびたび出てくる食事のシーンにも表れています。大きな口を開けて、食べ物を頬張る姿に屈託のない人柄が。そうした制作陣による演出に加え、米田さんによると杉咲さんが「ミヤビなら、こうする」と提案するなど、俳優陣がアイデアを出すことも多いそうです。

「2話の病院を抜け出した患者・亮介がサッカーの練習を諦めようとすると、ミヤビが『やめないよ』と言うのは、杉咲さんが『ミヤビならこう言う』と。スーパードクターではない、ミヤビの患者の向き合い方を体現していると思います。杉咲さんだけでなく、脚本について日々ディスカッションしながら撮影していて、小さいことから大きなことまで、みんなで作り上げている現場です」

もうひとりの中心的なキャスト、変わり者の脳外科医・三瓶を演じる若葉竜也さんについて、米田さんは「すさまじい俳優」と評します。

「3話で手術を成功させたミヤビを、みんなが居酒屋でねぎらうシーン。三瓶がミヤビをとても優しい表情で見ていました。カットがかかり、そのことを指摘したら、若葉さんは『そうでしたか?』と覚えていないんです(笑)。三瓶としてミヤビを見ていて、自然にそういう表情になっていた……。セリフについても『三瓶なら、どう思う?』と、若葉さんにではなく、三瓶としての意見を聞くような相談をする感じですね」

人気キャラクター・星前宏太役の千葉雄大さん【写真提供:カンテレ】

また、脇を固めるキャストでは、救急部長と脳外科を兼務する星前宏太役の千葉雄大さんも、かなり目を引きます。子鹿先生によると「包容力があるのが魅力ですよね。実は連載当初のファン投票で、星前が1位になったほど」という人気キャラクターです。

米田さんはドラマのうえで「実は第3の登場人物は重要」と語り、撮影前の千葉さんとのディスカッションを明かしてくれました。

「しんどい話が多いなか、“出てくるだけで明るくなる人”と思い、千葉さんにお願いした際、『明るいも、いろいろありますよね?』と言われたんです。星前はコミカルな役ですが、ミヤビや三瓶に伴走し続ける人でもあります。そうした星前の存在感を引き出しの多い千葉さんが、すごく魅力的に作ってくれている。コメディもシリアスもできるオールラウンダーで、短いくだりでも、すごく満足度の高いシーンを作り上げています」

そのほかにも、厳しいけれど温かい看護師長・津幡玲子役の吉瀬美智子さん、姉御肌な麻酔科医・成増貴子役の野呂佳代さんなど、魅力的なキャラクターがたくさん。物語が終盤へと盛り上がるなか、どんな演技が見られるのか楽しみです。

後編では、ミヤビの状況を例にしながら、脳と記憶について子鹿先生に解説してもらいます。

◇ドラマ「アンメット ある脳外科医の日記」番組概要
原作:子鹿ゆずる(原作)・大槻閑人(漫画)「アンメット-ある脳外科医の日記-」(講談社「モーニング」連載)
出演:杉咲花、若葉竜也、岡山天音、生田絵梨花、山谷花純、尾崎匠海(INI)、中村里帆、安井順平、野呂佳代、千葉雄大、小市慢太郎、酒向芳、吉瀬美智子、井浦新
放送日時:カンテレ・フジテレビ系列 毎週月曜日22:00~22:54
配信:カンテレドーガ、TVerにて最新話を無料配信。FOD、ネットフリックスにて最新話まで全話配信
制作著作:カンテレ
制作協力:MMJ

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