Red Hot Chili Peppers、1年ぶりのカムバックは最高の仕上がりに 東京ドームを掌握した圧倒的パワー

レッド・ホット・チリ・ペッパーズ・アー・バック! 前回の来日からわずか1年とちょっと。まさかこんなに早く、また彼らのライブが観られるとは思っていなかった。何せ前回の日本での単独公演はじつに16年ぶりだったのだ。今回の来日公演は2022年から始まった、ほぼ世界を2周するような規模のグローバル・スタジアム・ツアーの一環で、そういう意味では昨年の来日公演の続きなのだが、この『Unlimited Love Tour』と銘打たれたタームでのアジア公演は東京のみ(前回はシンガポールでもライブをしていた)。それだけ彼らが日本のファンを大事に思っていてくれているということだし、日本という国に愛着を感じてくれているということで(フリーはInstagramで日本へのリスペクトを込めたメッセージをアップしてくれていた)非常に嬉しいことなのだが、それ以上に、そのライブ自体がとんでもなく感動的なものだった。

何が感動的って、前回2023年2月の来日公演と比しても、バンドとしての一体感や熱量がぐっと高まっていることが客席から見ていてもわかったからだ。巨大な東京ドームのステージの真ん中にぎゅっと集まって音を鳴らしているバンドの姿を見ていると、年齢とかキャリアとか関係なく、彼らがとても音楽的な集団として密に結びついていることが伝わってきて嬉しくなった。去年の時点ではジョン・フルシアンテ(Gt)が10年の時を経てバンドに復帰したことが大きなトピックで、「またあの4人のレッチリが観られる!」というのが大きな喜びだったが、そこからさらにフェーズが進んで、もう一度4人で始まったレッチリのストーリーが非常に充実したものになっている今を実感することができたのだ。

さて、筆者が目撃した2日目、つまり5月20日のショーの模様をレポートする。壮大なオーケストラのオープニングSEが鳴り止み、ステージにふらっと現れたチャド・スミス(Dr)、フリー(Ba)、そしてジョン。その3人による濃密なジャムセッションから幕を開けたライブは、メッシュのTシャツに白いショートパンツという出立ちのアンソニー・キーディス(Vo)が舞台袖から飛び出してきて「Around the World」を歌い始めた瞬間からいきなり最高潮の盛り上がりを見せた。悲鳴のような大歓声、そしてドーム中にこだまするシンガロング。さらに「Dani California」でも当然のようにシンガロングが起きる。歩いたり激しく腰を折ったりしながらベースを叩き弾くフリー、アウトロでのジョンのギター。曲を終えてフリーが「I love you, Japan!」と叫ぶ頃には、痺れるようなクライマックス感が訪れていた。

だがもちろんライブはまだ始まったばかり。ここから東京ドームはさらなる熱狂へと突入していく。ジョン不在期にグッと高まったアンソニーの歌のパワーを実感できる美メロソング「The Zephyr Song」に、アルバム『Unlimited Love』からの「Here Ever After」、ジョンのアルペジオから美しく始まった名曲「Snow (Hey Oh)」。とにかくオーディエンスも歌いっぱなし、今回の来日公演の特設サイトには「ヒット曲満載」と書かれていたが、そのとおりの超ストロングスタイルのセットリストだ。しかも、どの曲も演奏がとてもフレッシュで生々しいし、何よりステージ上の4人がこのバンドで演奏することを心から楽しんでいる感じにワクワクする。もちろん映像演出もあるのだが、スクリーンに映ったクロースアップのソロショットよりも、ステージ上でめちゃくちゃ近い距離で音による会話を繰り広げている4人を見ているほうが何百倍もおもしろい。

曲間にMCらしいMCもほとんどなく、ちょっと時間が空けばフリーが導き役となってジャムセッションが始まる。フリーの自由自在なベースラインにチャドがリズムを合わせ、そこにジョンのギターがスッと入ってくる。アンソニーはそれにときどきちょっかいを出したりしながら見ている。スタジアムなのに、キャリア40年のレジェンドなのに、まるで家のガレージで音を鳴らしているような親密さ。この屈託のなさこそレッチリである。隣のロック好きの兄ちゃん感がいつまでもあり続けている。というか、ジョンが戻ってきてその感じもまた盛り上がっている気がする。ジョシュ・クリングホッファーがいた期間のレッチリももちろんよかったけれど、気心の知れた、という意味ではやはりこの4人でしか出せないムードというのはあるのだと、改めて痛感する。そんなロック好き兄ちゃんによるリスペクトと愛が詰め込まれた「Eddie」(いうまでもなく、2020年にこの世を去ったエディ・ヴァン・ヘイレンに捧げられた曲)のジョンによる速弾きギターソロがとてもエモーショナルに響く。

中盤のハイライトは「I Like Dirt」と「Parallel Universe」の『Californication』コンボ。前回の来日公演では東京でも大阪でも演奏されていなかったので、これは嬉しい。当然イントロが鳴った瞬間にドームは割れんばかりの歓声に包まれ、オーディエンスは狂喜乱舞。〈I’m a California King〉――アンソニーの熱唱にシンガロングが重なる。そしてその「Parallel Universe」のあと、おもむろにフリーが茶目っ気たっぷりに歌い出した「トーキョードーム~、トーキョードーム~」という歌。なぜそのチョイスなのか、季節外れのクリスマス・キャロル「もみの木」の替え歌だ。気持ちよく歌って興が乗ったのか、続く「Reach Out」での暴れっぷりも最高だった。アンソニーも着ていたシャツを脱ぎ去って、いよいよライブはラストスパートに突入していった。

結果的にこの後のアンコールへの狼煙となった『Blood Sugar Sex Magic』からの「Suck My Kiss」から、長い長いジャムセッションを経て「Californication」へ。そしてフリーがレイカーズカラーのジャズベースに持ち替え、洗練されたアンサンブルが印象的な「Black Summer」を披露すると、ジョンのギターとフリーのベースがあのリズムを刻み出す。瞬時に察したオーディエンスが歌い始める。「By the Way」だ。音源以上の情感を醸し出すアンソニーの歌、それとチェイスするように炸裂するビートとベースライン。たまらなくスリリングでエモーショナルだ。その「By the Way」が本編のラストチューン。ここまで14曲。密度の高いセットは、終わってみれば一瞬だった。

その後のアンコール、戻ってきた4人(アンソニーは白いベースボールキャップを後ろ向きに被っていた)は「Under the Bridge」を披露。ドーム中でスマートフォンのライトが揺れ、美しい合唱が広がる。さんざんアグレッシブなライブを展開してきながら、ここに来て泣かせるというのは本当にズルい。語りかけるようなアンソニーの歌がとても美しく響いた。そして本当に本当のラストソングは、これがなければ終われない、「Give It Away」である。最後に爆発的な盛り上がりを生み出し、今回の来日公演はフィナーレを迎えた。

演奏のスリル、メンバーのキャラクター、そして歴史的スーパーバンドにもかかわらず瑞々しさを失わない4人の情熱。この日の東京ドームには明らかに若いファンも大勢詰めかけていたが、ベテラン洋楽バンドのライブとしては異質ともいえるそんな会場の空気は、このバンドの得難い魅力を雄弁に物語っていた。この後バンドはアメリカに戻りツアーの最後のタームを駆け抜けることになる。その後はきっとしばらくツアーはないだろうが、そうした新たなファンのためにも、またいつか必ず日本に戻ってきてくれることを、心から願っている。
(文=小川智宏)

© 株式会社blueprint