KMNZ再始動、にじさんじ・鈴鹿詩子の卒業……大きな去就が続くVTuber業界

■KMNZが3匹になって帰ってきた にじさんじ・鈴鹿詩子は卒業へ

なつかしい名前が帰ってきた。バーチャルガールズユニット「KMNZ(ケモノズ)」より、ひさしぶりの新曲発表だ。

「KMNZ」は、2018年よりLITAとLIZの2人組で活動してきた、バーチャルアーティストの先駆けともいえるユニットだ。しかし、昨年12月にLIZが活動を終了、しばらくはLITAのみが活動していた。そこから5月に入ると、新たにTINAとNEROの2名を加えた3人組ユニットとしての再始動が発表。5月25日にリリースされた新曲「VERSE」とともに、新たな門出を迎えた。

同日には、KMNZも属するRK Musicのオンライン音楽フェスにも出演。新顔も含め、3Dモデルもお披露目された。犬猫のデュオから、犬トリオへ。形を少し変え、“新生KMNZ”が駆け出す。

大きな去就の話としては、にじさんじ・鈴鹿詩子の卒業が挙げられる。こちらも、にじさんじの旧2期生として2018年より活動してきた古株であり、公式で「特異なキャラクターや言葉選び」という紹介を受けるほどに、強烈なパーソナリティが人気を博した逸材だった。

当初はいつまで続くかもわからなかった初期のにじさんじを思えば、実に6年近くも配信活動を続けた末の卒業は、「やりきった」と評しても過言ではないだろう。元1期生の勇気ちひろも今年1月に活動終了に至っており、いまや大御所事務所となったにじさんじの古株にも、ピリオドを見定める動きが出ているのかもしれない。

このほかにも、ななしいんくの紫水キキが活動終了、V声優事務所・ぼいそーれの閉鎖、RIOT MUSICの「化けドルプロジェクト」終了など、活動/プロジェクトの終了報告が相次いでいる。

一方で、本家ヒップホップ文脈の流れを汲む株式会社VOLVE CREATIVEによるバーチャルガールズラップユニット・AKAGIMI始動や、RK MusicやNIJISANJI ENの新人デビュー、またPalette Projectでは研究生がデビューするなど、新たな参入の流れも続いている。

■『ホロアース』にもオシャレの芽生え ホロライブは新たなメディアミックス展開も

ホロライブプロダクションは引き続き多角化が続いている。まずはメタバースプロジェクト『ホロアース』に大きなアップデートが届いた。『hololive SUPER EXPO 2024』でも告知されていた、新エリア「オルタナティブ・シティ」の実装である。

アップデート内容を平たく言えば、アバターの容姿に関する新要素の追加だ。服屋で服を買い、サロンで全身の再エディットができる。服の入手にはサービス内通貨の購入が必要となり、わかりやすい「課金要素」と言えるだろう。興味深いのは、全ての衣装に「流通数」の概念があることだろうか。少し前に流行ったNFTよりも堅実な方法で「デジタルアイテムの希少性」を表現しているようにも見える。

未だベータ版ではあるものの、少しずつメタバースとしての形が組み上がっている『ホロアース』。大きな特徴であるサンドボックスシステムが解禁されれば、独自性のあるプラットフォームとして立ち上がる可能性はあるだろう。

その一方で、同じくホロライブからメディアミックスプロジェクト「魔法少女ホロウィッチ!」が突如始動した。「ホロライブ」タレントが同名キャラクターとして、いわば俳優のように出演するコンテンツを展開するようだ。タレントとキャラクターの中間存在のように振る舞うこともある、ホロライブならではの派生展開と言えるかもしれない。

■ECサービスの設立が活発化 世界も注目する日本のバーチャルカルチャー

ファッションが芽生えつつある『ホロアース』に対し、『VRChat』周辺では新規ECの動きが活発だ。

5月20日、オカムラによる3Dデータ販売サイト『RoomieTale』がサービスインした。「企業公式のローポリゴン3Dモデル」に特化したECで、空間制作に役立つ、高品質かつ軽量な家具などの3Dモデルを、高い信頼性とともに展開していくことをねらう。現時点ではオカムラ製チェアの3Dモデルのみが販売中だが、ラインナップは今後拡充予定だという。

北米向けに日本クリエイター製の3Dアバターを販売するマーケットプレイス・Avatownは、にわかに公式ワールドを『VRChat』に開設した。国内のメタバース特化クリエイター事務所「メタバースクリエイターズ」が手掛けた、この空間の最大の特徴は「アバター画像作成」だ。

全身を三方向から写した三面図や、表情差分などを並べた画像など、自分のアバターを使って汎用画像素材を出力できるのだ。自身のアバターに愛着が強い『VRChat』ユーザーにとって、こうした画像素材をワールドに行くだけで作成できるのは魅力だ。公開から1日程度で訪問数が1万人を超えているところからも、注目度の高さがうかがえる。ワールドを活用したPRとしては、効果的な施策だったと言えるだろう。

また、英国のレインダンス映画祭のXR部門『Raindance Immersive』から、今年のノミネート作品が発表された。驚くべきことに、今回は10以上ものノミネート作品が、日本の『VRChat』コミュニティ由来のものだ。

特に、「BEST LIVE SHOW」部門は全てが日本VRChatコミュニティ発のもの。つまり、今回確実に日本からアワード受賞が出てくるということになる。いまや、日本の『VRChat』カルチャーは、メタバース業界において世界をリードするものになっているといえるだろう。

(文=浅田カズラ)

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