子どもたちが相続でモメるかどうかは、親が孫のいない家庭や、事業を引き継がない子どもに対しても平等に扱うことが重要になります。今から実践できる子どもたちへの適切な配慮について見ていきましょう。「税理士法人レガシィ」代表税理士の天野大輔氏の著書『相続でモメる人、モメない人』(日刊現代)より、贈与税で見落としがちなルールとあわせて、詳しく解説します。
子どものいない家庭には配慮が必要
60代になると孫ができる人も増えるでしょう。そのとき、どうお祝いをするかで、将来、自分が亡くなったとき、子どもたちが相続でモメるかどうかが決まります。
子どもたちがモメないようにするには、孫のお祝いをするにしてもきょうだい間で差をつけないことが大事です。とくに、子どもがいない家庭がある場合に、配慮せずにお祝いをしてしまうと、その家庭は差をつけられた気持ちがして、後にモメやすくなります。
子どもがいない家庭には、結婚記念日にお祝いをするなど、別のイベントでお祝いをしてバランスをとるといいでしょう。
こうした配慮は父親よりも母親のほうが気づきやすい傾向にあります。孫のお祝いをするときには、夫婦でよく相談してからにすることをお勧めします。
子や孫への教育資金贈与は1,500万円まで非課税
孫へ教育資金の贈与を考えている人もいるのではないでしょうか。子や孫に教育資金を贈与する場合、子・孫1人につき1,500万円まで非課税になる特例があります。期間限定の特例でしたが2023年度の税制改正でも延長され、2026年3月末までの贈与が対象となっています。
この特例を利用すると、祖父母や父母から30歳未満の子や孫に教育資金を贈与した場合、1人当たり1,500万円まで贈与税はかかりません。たとえば、孫が4人いれば、「1,500万円×4人」で6,000万円まで非課税で贈与が可能になるのです。
実際に利用するには、信託銀行などに専用の口座をつくり、そこに贈与金額を一括で拠出します。贈与を受けた人は教育資金として使ったことがわかる領収書を金融機関に提出すると、その金額が教育資金の贈与額となります。
ただし、2023年度の税制改正で、2023年4月1日以後の教育資金贈与について使いきれなかった残高に対して課税が強化されました。
教育資金を使っている途中で贈与した人(祖父母など)が亡くなった場合、贈与した人の相続税の課税価格の合計が5億円を超えるときは、教育資金として贈与された額のうち、未使用の額に相続税が課税されます。
また、贈与した人が生存している場合には、贈与を受けた人が30歳に達した時点で未使用の額について一般税率による贈与税が課税されます。
事業を子どもに引き継ぐ場合の注意点
事業を営んでいる場合には、子どもに継いでもらいたいと考えるのが親心です。しかし、事業を引き継ぐのは大変なことです。そのため、後継者ばかりに気を配り、他の子どもへの配慮がおろそかになりがちです。
たとえば、兄、妹の2人の子どもがいる場合に、長男が後継者として父親から経営について学んでいる姿を見ていると妹は「なぜ、兄ばかり……」と不満を抱きます。事業を継がない人には、贈与をするなどしてバランスをとるのが有効です。
この場合も父親よりも母親のほうが気づきやすいので、母親目線が大切になります。母親が事業に関わっていないとしても、子どもたちにどう配慮するかは夫婦で話し合ったほうがいいでしょう。
実際に事業を引き継ぐ場合には、会社の株式(自社株)を相続することになります。上場している株式の場合は、証券取引所を通じて売買されていますから、時価をベースに相続税評価額を計算できます。しかし、非上場の会社の株式の場合には、時価がありません。そこで評価する方法が主に4つあります。
①類似業種比準方式
②類似業種比準方式と純資産価額方式の併用
③純資産価額方式
④配当還元方式
どの方式を使うかは、非上場の株式を取得する人が同族株主かどうかで決まります。詳しい説明は省きますが、父親がオーナーであれば、通常は①~③の方法で評価します。①~③のどの方式を利用するかは、会社が財産評価基本通達で決められている大会社、中会社、小会社のどれに区分されるかによって決まります。
事業を営んでいる以上、自社株を売却することは容易にはできません。一方で自社株の評価額が高額になることも少なくありません。そのため、自社株対策を怠ると多額の相続税がかかってしまいます。
オーナー経営者の場合、個人名義の財産は自宅のみで、他の財産のほとんどは会社名義のような場合も多いでしょう。その場合、自社株対策をしていないと、多額の相続税が課せられても納税資金がないという状態になってしまい会社の経営にも影響が出てしまいます。
天野 大輔
税理士
税理士法人レガシィ