アル中予備軍にならないために!悪酔いしない飲み方のコツと飲酒に関する間違った常識

By @Living

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心身ともに健康への注目が年々高まるなか、2024年2月には厚生労働省が「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」を公表。飲酒に伴う社会的責任にも関心が集まっています。飲む人も飲まない人も、ともに理解を深めるための基礎知識をお届けしましょう。

『生涯お酒を楽しむ「操酒」のすすめ』(主婦と生活社)や『名医が教える飲酒の科学』(日経BP・日経新聞社)などの著書をもつ酒ジャーナリストの葉石かおりさんに、酔いに関する豆知識や、悪酔いしない飲み方のコツなどを教えていただきました。

おさらい。 「酔う」ってどういう状態?

まずあらためて押さえておきたいのが、お酒に“酔う”とはいったいどういう状態なのか、ということ。

飲んだお酒に含まれるアルコールの多くは肝臓で処理され、分解されるなかで悪酔いや頭痛、動悸の原因にもなる成分アセトアルデヒドに。そして、分解される成分のひとつである酢酸は血液を介して全身を巡り、水と炭酸ガスに分解。やがて汗や尿、呼気中に含まれて外へ排出されます。
参考=アサヒビール「人とお酒のイイ関係」

アルコールは血液に溶け込んで脳へも運ばれ、神経細胞に作用することで麻痺が起こります。これが“酔い”の正体。その程度は、脳内のアルコール血中濃度によって6段階に分けられます。

「血中濃度が0.02~0.04の『爽快期』から、0.41~0.50の『昏睡期』までの6段階ですね。なお、一般的には肝臓でアルコール代謝されるのですが『イッキ』などでガブ飲みすると、代謝が追いつかずに血中アルコール濃度が急激に上昇します。

すると『ほろ酔い期』や『酩酊期』を飛び越して、一気に『泥酔期』『昏睡期』の状態にまで進み、場合によっては意識不明や呼吸困難など危険な状態に。これが急性アルコール中毒と呼ばれる症状です」(酒ジャーナリスト・葉石かおりさん、以下同)

資料提供=キリンホールディングス

なお、人種の遺伝的な性質により、日本人を含むモンゴロイド系の人々は、ヨーロッパ系やアフリカ系に比べてお酒に弱いといわれています。日本人にフォーカスすれば、約4割はお酒に弱いとも。
参考=キリンホールディングス「適正飲酒のススメ」

さらに、アルコールを分解する酵素が十分働かない若年層はもちろん、代謝能力が低下する高齢者も酔いやすい体質。さらに体格やホルモンの影響により、女性は男性よりも血中アルコール濃度が高くなりやすい傾向があります。成人でも、それぞれが体質に応じた飲み方を守っていくことが大切だといえるでしょう。

最近よく聞く「適正飲酒」の定義とは?

今回のテーマ「適正飲酒」とは読んで字のごとく、適量で節度ある飲酒のこと。日本は冒頭で述べたガイドラインによって、生活習慣病のリスクを高める1日あたりの「純アルコール量」を男性で40グラム以上、女性で20グラム以上の摂取、と定義しました。

純アルコール量は、大手酒類メーカーを中心に2021年ごろから記載されるようになっている。写真はオリオンビールの缶体表記。
参考=キリンホールディングス「適正飲酒のススメ」

「適正飲酒」が声高に推奨されるようになった背景には、急性アルコール中毒を防止しようという意識の高まりに加え、アルコールの過度な摂取が生活習慣病のリスクを高めるという社会課題も関係しています。

事実、各省庁によると国内のアルコール消費量は減少しているものの、アルコール摂取を要因とする死亡率は悪化。2022年にアルコール性肝疾患で亡くなった人は6296人で、20年前の2002年の3327人と比べ2倍近くに増えたとか。

その背景には、一部の多量飲酒者が極端にアルコールを消費している状況があるとされ、そこで作成されたのがガイドラインです。2022年に行われた第1回から全5回の検討会を経て、2024年2月19日に公表されました。

こうした取り組みには、日本と諸外国を比べた際の、お酒を取り巻く環境や文化の違いもあると葉石さん。「実は、日本は飲酒の取り締まりがやさしい国なんです」と指摘します。

「例えば飲食店における『飲み放題』というメニューは、私の知る限り欧米では提供されていません。また、日本は公園やビーチなどの公共の場における飲酒に寛容ですが、アメリカなど法律で取り締まっている国もありますし、時間帯によってお酒を販売しない国も多いです」

そのうえで葉石さんは、各国が指標とする適正飲酒量についても言及。

「日本がガイドラインで定義した、男性40グラム、女性20グラムという純アルコール量ですが、これは世界的にみるとまだ多いほうです。純アルコールの量はあくまで目安ですが、海外事例も踏まえたうえで、各人がお酒の摂取量を意識するべきでしょう」

例えばアメリカは男性28グラム、女性14グラム。スウェーデン、シンガポール、台湾は男性20グラム、女性10グラム 。なお、爽快期から昏睡期までの目安を知る、血中アルコール濃度は、=[飲酒量(ml)×アルコール度数(%)]÷[833×体重(kg)]という計算式で導き出せるので、ぜひ自身でもご確認を。

お酒を飲むなら実践したい! 悪酔いしないコツ

葉石さん『生涯お酒を楽しむ「操酒」のすすめ』は、最新医学を踏まえた健康的な嗜み方が満載の一書。あらためて、悪酔いしないコツを教えていただきました。

・飲む前に食べておく

「空腹状態で飲酒すると、胃で多少とどまるはずのアルコールが一気に小腸へ。すると、血中アルコール濃度も早く上がってしまうため、悪酔いしやすくなります。オススメは、消化が遅くて胃のなかに長くとどまってくれる、油分が多い食べ物。例えばチーズや、ドレッシングで味わうサラダ、カルパッチョなどがいいでしょう」

・油分以外にオススメな食べ物

「油のほかに胃を守ってくれる成分のひとつがビタミンU(キャベジン)。キャベツやブロッコリーに多く含まれていますが、水溶性で熱に弱いため、生で食べましょう。肝臓の解毒作用やアルコール代謝を促進するアミノ酸に分解されるのが、たんぱく質。特にオススメなのは、ヘルシーかつ粘りが胃を保護してくれる納豆です。また、消化されずに大腸まで届く、きんぴらや切り干し大根といった食物繊維が豊富な料理。悪酔い防止には、肝臓での代謝を助けるタウリンや、ゴマなどに含まれるセサミンが効果的です」

・水を挟みながら飲酒する

「水には、胃腸内のアルコール濃度を薄める効果があります。また、アルコールには利尿作用があり、尿量が増えて脱水症状になりやすいため、それを防ぐためにも水を飲むことがオススメ。日本酒造組合中央会によれば、摂取する水は酒と同量程度を推奨しています」

・二日酔い対策にはオレンジジュース

「二日酔いは、酒を飲んだ翌日にも体内にアルコールが残っていたり、アルコール代謝が原因で体調不良を起こしたりする症状。飲み過ぎないことが前提ですが、もしつらいときはオレンジジュースがオススメです。それは、糖のなかでも特に吸収の早い果糖が豊富で、同時に水分も取れるから。また、アセトアルデヒドの分解を促進するビタミンCや、利尿効果を持つカリウムも豊富なのがオレンジです」

飲酒中・飲酒後のNG行為と間違った“常識”

悪酔いしないコツを実践したい一方で、NG行為もあります。飲酒運転や飲酒の強要はもってのほか、不安や不眠解消のための飲酒や療養中や投薬後の飲酒もNG。また妊娠中・授乳中の飲酒も避けたほうがいいでしょう。ただ、ほかに良かれと思って実践していた行為がNGだった、ということもあるようです。

・汗をかくとアルコールが抜ける?

→間違い。

「脱水症状となるため逆効果。汗をかいてもアルコールは抜けません。酔った状態で行う運動は、心臓に過度な負担がかかるとともに、発汗作用によって脱水症状になる危険性もあります。また、酔ったままの入浴も危険です。血圧が上昇して納所中や心臓発作の危険性があるほか、湯船のなかで寝てしまい溺死するリスクもあります」

・“ちゃんぽん”(さまざまな種類のお酒を飲む)は悪酔いする?

→避けるべきだが、理由が異なる。

「お酒の種類は関係なく、あくまでも酔いは摂取したアルコールの総量で決まるもの。ちゃんぽんが悪いのは、種類が変わることで純アルコール量(自分がどれだけ飲んだか)があいまいになるからです」

・牛乳を飲むと胃に膜ができて酔いにくくなる?

→もっと適切な対策を。

「完全なる間違いではない(乳脂肪やたんぱく質が含まれるため)ですが、であれば固形のチーズを食べるほうが効果的でしょう」

誤解に惑わされず、正しい知識で楽しく飲みたいものです。

新たな価値観「ソバーキュアリアス」って?

最近は、「ソバーキュリアス」ということばをしばしば聞くようになってきました。こちらは「sober(しらふ)」と「curious(好奇心)」を組み合わせた造語で、お酒をあえて飲まない日を楽しむライフスタイル。欧米の1980年〜1990年代半ば頃に生まれたミレニアル世代から、こうしたトレンドが生まれたといわれています。

日本でもその価値観が広まり、大手メーカーを中心にノンアルコール、低・微アル飲料が増加。コンビニでも買えるようなメジャーな商品を中心に、特徴や味わいを紹介しましょう。

アサヒビール「アサヒ ゼロ」
オープン価格
一度ビールを醸造した後にアルコール分を取り除く「脱アルコール製法」により、アルコール度数0.00%でありながら本格的なビールらしい味と飲みごたえを実現。2023年に近畿エリアで先行発売していたが、好評につき今春より全国展開へ。
アルコール度数=0.00%

サッポロビール「サッポロ ザ・ドラフティ」
オープン価格
2021年の秋にデビューしたアルコール度数0.7%の微アル飲料で、2023年1月製造分からリニューアル。ホップを3分割添加し、さらに氷点下熟成させた麦芽100%生ビール原料を新たに採用したことで、よりビールに近いおいしさに。
アルコール度数=0.7%

ヤッホーブルーイング「正気のサタン」
235.44円(税込)
国内クラフトビール界のトップランナーが、2022年の夏に新発売。クラフトビールで特に人気のあるインディアペールエール(IPA)の味を追求し、柑橘系のアロマホップが芳しい香りに仕上げた。
アルコール度数=0.7%

宝酒造「タカラ 辛口ゼロボール」
141円(税込)
2022年10月にデビュー。ノンアルコールながら、下町の大衆酒場で愛される味わいを、タカラ「焼酎ハイボール」のおいしさを濃縮したエキスで実現。糖質、カロリー、プリン体、甘味料がゼロなのもうれしい。
アルコール度数=0.00%

月桂冠「月桂冠 スペシャルフリー」
オープン価格
日本酒のなかでも人気の高い大吟醸の香味をイメージして開発された、ノンアルコール飲料。ブランドは2014年9月に発売された「月桂冠フリー」が前身で、コクのある「スペシャルフリー」と淡麗な「スペシャルフリー辛口」がある。
アルコール度数=0.00%

アサヒビール「koyoi ブリリアントベリー」
1650円(税込)
2021年9月に誕生した、低アルコールのクラフトカクテル「koyoi」の人気フレーバー。ラズベリーと炭酸をベースに、バニラが上品に香る。全商品が保存料、着色料、人工甘味料不使用で、素材本来のおいしさを最大限に引き出しながら飲みやすく仕上げられている。
アルコール度数=3%

メーカーも自ら立ち上がった! 適正飲酒にどう取り組んでいる?

「適正飲酒」に関してはメーカーも以前から啓発活動を行ってきました。ここではとくに積極的な3社の取り組みを紹介します。

・アサヒビール

2020年12月より、お酒を飲む人も飲まない人も楽しめる「スマドリ(スマートドリンキング)」を提唱。2022年1月にはアサヒビールと電通デジタルでスマドリ株式会社を設立し、「SUMADORI-BAR SHIBUYA」もオープン。5月23日には、スマドリに共感する人が集うファンコミュニティ「SUMADORI-LAB .」も開設されました。

アサヒビール「人とお酒のイイ関係」
2022年にオープン、2024年にリニューアルされた「SUMADORI-BAR SHIBUYA」。

・オリオンビール

肝疾患による死亡率が男女ともに全国ワースト1で、アルコール性肝疾患の死亡率は全国平均の約2倍となっている沖縄県。このような背景も受け、地元のオリオンビールは2019年末にストロング系と呼ばれる高アルコール商品を廃止しました。また、純アルコール量の缶体表記は2021年7月より開始(公式サイトでの表示は同年4月より)。適正飲酒の取り組みに関して、実に先駆的なメーカーといえるでしょう。 オリオンビール

・キリンビール

お酒を飲むときに、その雰囲気や流れる時を楽しんでもらうという新しい飲み方「スロードリンク」を2019年から提唱し、適正飲酒の啓蒙活動もより積極的に実施。2024年5月からは、団体向けに正しいお酒との付き合い方を学ぶ「適正飲酒セミナー」の展開もスタートしています。

キリンビール「適正飲酒のススメ」

最後に……お酒はやっぱり楽しい!

アルコールの過剰摂取は心身ともにリスクが伴います。ただし、適正に飲むなら「お酒はコミュニケーションツールであり、日常のストレスから解放してくれるメリットも大きいものです」と、葉石さんはお酒の“効能”も力説します。

これからの「スマートなお酒の楽しみ方」は、自身の適正飲酒量を知り、無茶せず楽しむ程度に嗜むこと。より詳しく知りたい人は、葉石さんの各著書も参考に、いつまでもおいしくお酒を楽しみましょう。

Profile

酒ジャーナリスト / 葉石かおり

エッセイストでもあり、「酒と心身の健康」「酒と食のペアリング」を主軸に各メディアにコラム、コメントを寄せる。各企業にて酒の健康的な飲み方、アルコールハラスメントについての社内研修も行っている。代表作に、シリーズ累計18万5000部を超える『名医が教える飲酒の科学』『酒好き医師が教える最高の飲み方』(ともに日経BP)があり、新著は『生涯お酒を楽しむ「操酒」のすすめ』(主婦と生活社)
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