『虎に翼』月曜日から悲しみの始まり 受け継がれた「俺には分かる」の切なさと優しさ

「俺には分かる」という時の自信満々な笑顔が忘れられない。疎開していた寅子(伊藤沙莉)と花江(森田望智)の元に悪い知らせが届いた『虎に翼』(NHK総合)第41話。

直言(岡部たかし)が「直道が……」と言った途端、花江が堰を切ったように咽び泣く。花江の愛する夫であり、猪爪家のムードメーカーだった寅子の兄・直道(上川周作)が戦死した。先週の予告である程度覚悟はしていたが、受け入れ難い事実に呆然とする。それからひと月も経たずして、日本は終戦を迎えた。

寅子たちが東京に戻ると、1945年3月の東京大空襲で街は焼け野原だった。登戸にいた直言とはる(石田ゆり子)は空襲を逃れたが、花江の両親が犠牲となった。寅子はよね(土居志央梨)と増野(平山祐介)が切り盛りする上野のカフェー「燈台」に立ち寄るが、近くにいた女性から店の人は空襲で亡くなったと告げられる。寅子は涙も出なかった。遺体もなく紙切れ一枚、伝聞一つで大切な人の死を告げられて、納得も実感もできるはずがない。

それからしばらくして、岡山にいた寅子の弟・直明(三山凌輝)が繰り上げで卒業資格を得て猪爪家に帰ってくる。悲しみに暮れていた家族にひと時、笑顔が戻った。帝国大学に行くため、岡山の進学校に通っていた直明。寅子はすぐに志願書を取りに行こうと誘うが、直明は大学には行かないという。

直道が亡くなり、優三(仲野太賀)も帰ってきていない今、猪爪家の働き手は直言しかいない。花江や寅子の子供たちがひもじい思いをしないように自分が働くのだと、直明は張り切っている。頼もしい申し出に直言やはるは泣いて感謝するが、寅子だけは複雑な表情を浮かべていた。幼い頃から成績優秀で、本当だったら勉強盛りの直明が進学を諦めなければならない状況を姉としてどう受け止めていいのかわからないのだろう。

子供が嫌が応にも大人にならなければならなかった時代。花江と直道の息子、直人(山田忠輝)と直治(二ノ宮陸登)も父親の死を告げられてからずっと気丈に振る舞っていた。けれど、はるに「よく頑張りましたね」と声をかけられた途端に二人の目からは我慢していた涙が溢れる。「もういいの。おばあちゃんの前では泣き虫、弱虫で弱音を吐いて」というはるの言葉が、早足で大人になろうとしていた彼らを子供に戻してくれた。すると、直人は疎開先でいじめに遭っていたことをはるに打ち明ける。どんなに辛くても、花江には決して弱音を吐かず、「お母さん頼んだよ」という直道の言葉を忠実に守ってきたのだ。

外で話を聞いていた寅子と直言は、直人の「僕には分かるんだ。トラちゃんに言うと面倒なことになるって」という言葉に思わず笑みが溢れる。全然当てにならなくて、だけど時に頼もしくもあった直道の口癖も、どんな時だって花江の気持ちを一番に考えていた優しさも、しっかりと受け継いだ直人と直治。微笑ましくもあり、切なくもあり、胸がキュッと締め付けられた。優三の行方や頻繁に咳き込む直言の体調など、まだまだ気がかりなことはあるが、猪爪家に溢れる家族愛が私たちの心にほっこりとした温かさをもたらしてくれる。
(文=苫とり子)

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