<日中韓首脳会議>FTA交渉再開で合意=日中は建設的な関係構築目指す―「北朝鮮」でも意見交換

日中韓3カ国の首脳は27日、ソウルで4年半ぶりとなる会談を約1時間半開催。中断している自由貿易協定の交渉再開で合意した。(出典:内閣府 https://www.kantei.go.jp/)

日中韓3カ国の首脳は27日、ソウルで4年半ぶりとなる会談を約1時間半開催。中断している自由貿易協定(FTA)の交渉再開で合意した。人的交流や相互投資を拡充し、「未来志向」の協力関係を築くと確認した。台湾や北朝鮮を含む東アジアの安全保障問題についても協議した。

岸田文雄首相、中国の李強首相、韓国の尹錫悦大統領が会談に臨み、経済や安保を巡る摩擦を回避して協力することで一致した。

首脳会談後に公表した共同宣言に「自由で公正な質の高い互恵的な日中韓FTAの実現に向け、交渉を加速していくための議論を続ける」とうたった。

日本は中国に過剰生産を招く補助金政策や国有企業の優遇、自由なデータ流通を阻害する電子商取引の行き過ぎた規制などに歯止めをかけるよう求めた。

安保問題では北朝鮮を中心に東アジア情勢が話題になり、北朝鮮が27日未明に「人工衛星」の発射を予告したことを取り上げた。

尹氏は共同記者発表で「北朝鮮が国際社会の警告にもかかわらず発射を敢行する場合、断固として対応すべきだ。北朝鮮の非核化に向けて努力することが重要だ」と訴えた。

岸田首相も衛星発射の中止を強く求めると主張した。「北朝鮮の非核化と朝鮮半島の安定が3カ国共通利益である点を改めて確認した」とも説明した。日本人拉致問題の即時解決に向けて中韓の支持を求め、理解を得たと強調した。

李氏は「朝鮮半島の平和と安定を守るためのプロセスを推進してきた。各方面が自制を保ち、複雑化を避けるよう望む」と指摘した。

李氏は「行き違いを善処して『核心的利益』に配慮し、共に東北アジアの安全と安定を保ちたい」と強調した。

日中韓首脳会談は2008年に発足。東アジアの経済や安保を巡る課題を話し合う枠組みで、19年12月に中国・成都で開いて以降は新型コロナウイルスの感染拡大などにより途絶えていた。

日韓両国にとって中国は貿易総額の約2割を占める最大の貿易相手国。中国からみても日本は2位、韓国も3位と重要だ。中国は米国が最大の貿易相手で、日本は2位が米国、3位がオーストラリアと続く。韓国も2位が米国で、3位ベトナム、4位日本の順。

3カ国は相互依存が強く経済協力が不可欠であり、今回の日中韓サミットでも連帯を申し合わせた。

日中韓は、22年に発効し東アジアに世界経済の3割を占める自由貿易圏を生み出した地域的な包括的経済連携(RCEP)に加わっており、日中韓3カ国による自由貿易協定の早期妥結は東アジア地域の一層の発展と安定につながると期待されている。

共同宣言には(1)来年から2年間を日中韓の文化交流年とするなど、人的交流を促進すること(2)少子高齢化対策など、共通の課題に連携して取り組むこと――などが盛り込まれた。

処理水問題、事務レベルでの協議を加速

この日中韓首脳会議に先立つ26日、岸田文雄首相はソウルで中国の李強首相と個別に会談。岸田首相は東京電力福島第一原発の処理水放出を受けた日本産水産物の禁輸措置の即時撤廃を求め、処理水問題を巡る日中間の事務レベル協議を加速することで合意。外相らのハイレベル経済対話や人的交流の拡大による関係強化も確認した。

岸田首相は会談後、記者団に「戦略的互恵関係の包括的な推進と、建設的かつ安定的な関係の構築という大きな方向性に沿い、さまざまな課題や懸案について進展を図ることを確認した。有意義な会談となった」と述べた。処理水問題は昨年11月、岸田首相と習近平国家主席の会談で「協議と対話を通じた解決」で合意し、日中の専門担当者による協議が続いている。

岸田首相は会談で、尖閣諸島周辺などでの中国の軍事活動の活発化に「深刻な懸念」を表明し、中国が日本の排他的経済水域(EEZ)に設置したブイの撤去を要求。中国軍が台湾周辺で大規模な軍事演習を行ったことを念頭に「最近の軍事情勢を含む動向を注視している」と伝えた上で、「台湾海峡の平和と安定は極めて重要」と指摘した。中国当局に拘束された邦人の早期解放も求めた。

一方で経済や人的・文化交流に関する対話を通じ、協力や交流の拡大に取り組む方針を強調。日本産牛肉の輸入再開、精米の輸出拡大に向けた調整を図る考えも伝えた。

中国の習政権は日本との対話を重視しつつある。中国共産党の外交を担う中央対外連絡部(中連部)トップが月末にも日本を訪れ、与野党幹部らと会う見通しだ。

防衛分野では16日に防衛省・自衛隊と中国人民解放軍の中堅幹部らによる交流行事を都内で開いた。20日には金杉憲治・駐中国大使が中国安徽省合肥市で王清憲省長と会い、日系企業の円滑な事業運営や邦人の安全確保を要請した。

笹川平和財団は16日、来日している中国軍中堅幹部の歓迎行事を東京都内で開いた。日中防衛交流事業の一環で、防衛省から約20人が出席。訪問団を率いる張保群少将はあいさつで「両国関係発展のために土台を築く」と述べ、関係改善に期待を示した。訪問団は佐官級ら約20人で、14日に来日した。

隣り合う日中韓3カ国トップの意思疎通は東アジアと世界全体の平和と経済発展に大きく寄与することになろう。

■筆者プロフィール:八牧浩行

1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役、編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。著著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」など。 ジャーナリストとして、取材・執筆・講演等も行っている。

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