JTB 24年3月期決算、売上高が4年ぶり1兆円超 成長から飛躍を見据えた攻めの増収減益

JTBが5月24日に発表した2024年3月期連結決算(23年4月1日~24年3月31日)の連結純利益は、前年を約117億円下回る(前期比38.9%減)183億1600万円だった。一方、国内旅行や訪日旅行が回復するなどさまざまな契機を捉え、デジタル投資・海外での人財獲得・サステナビリティ経営の実装基盤構築も進めた結果、売上高は19年度以来の4年振りに1兆円を超えて増収減益となった。同日に開かれた決算会見で山北栄二郎社長は、「アフターコロナにおける企業イベントや出張需要を捉えるほか、国内外での国際イベントの活発化をJTBの強みでサポートしてきた。世界的に人流が復活し、第三国間のグローバル事業も大きく回復した」と話した。24年度は成長から飛躍を見据えた攻めの戦略を継続して展開し、売上高が前期比7.5%増の1兆1620億円、営業利益が53.5%減の116億円を予測している。

売上高は、前期比10.5%増の1兆809億5000万円、営業利益は同25.9%減の249億4100万円、経常利益は同27.3%減の288億9900万円だった。旅行事業の売上高は、国内旅行が前期比18.7%増の4592億円、海外旅行が同289.4%増の1592億円)、訪日旅行が同269.8%増の545億円、グローバル旅行が同165.1%増の880億円。旅行以外は、同36.3%減の3200億円だった。

売上総利益は、旅行ビジネスは全セグメントが増収。国内旅行が8億円、海外旅行が312億円、訪日旅行が98億円、グローバル旅行が108億円だった。コロナ関連を除くMICEは堅調に推移するも38億円の赤字だった。商事や広告、出版、地域交流などのその他は404億円の赤字となった。JTBの強みである付加価値の高い旅行外ビジネスをさらに強化した。グローバル旅行では、全海外地域統括会社(欧州、北南米、アジアパシフィック)の最終利益が黒字化した。旅行外ビジネスの売上総利益率は19年度比6.9ポイント上昇の30.6%へと上昇している。

営業経費は、成長投資を加速して「攻め」の経費を増加して前期費7.8%増に。販売費は50億円、人件費が69億円、管理費が52億円増加した。固定費は、構造改革の効果から2018億円となり、19年度から389億円減少した。売上総利益は19年度から191億円の減少となったが、営業利益は19年度の14億円を上回る249億円となった。旅行外事業強化の効果も表れ、売り上げ総利益率も19年度比2ポイント増の24%に上昇した。損益分岐点は、19年度から25%低下し、1兆2812億円から9621億円となった。山北社長は、「構造改革で損益分岐点は大きく下がったがこれを維持しながら、今後の成長と飛躍に向けた投資も加重していく。さらに、マーケティングを強化することで、顧客の実感価値とブランドロイヤリティの向上にも取り組む」と話す。22年度にはリブランディングを行っており、さらにマーケットへの浸透を図る。

純資産は1283億円(19年度末は1572億円)、自己資本比率は18.2%(同24.3%)。22年度に319億円あった優先株は、全額早期償還した。手元流動性は2973億円(同2746億円)、有利子負債は105億円(同177億円、現在JTB単体は無借金)、DEレシオは0.1倍(同0.1倍)となっている。

連結対象会社は国内22社、海外74社、持分法適用会社18社の計114社(24年3月末現在)。従業員数は1万8993人(同)。

24年度は「海外旅行の回復」がキーワード、25年度に完全回復へ

決算を説明するJTBの山北社長

24年度は、現中期経営計画フェーズ3の成長から飛躍を見据える段階として、「未来から現在(いま)を創る~未来のためのビジネスモデル変革~」をテーマに掲げ、経営の根幹となる長期ビジョンを策定し、バックキャストで経営を推進する。各事業においては、既存にとどまらないビジネス変革による収益性の向上、事業領域の拡大を図る。

ツーリズムは、「海外旅行の回復」をキーワードに、プロモーションと目的型商品を強化する。需要喚起に向けてマスメディアのほか、政府観光局や航空会社と連携したプロモーションなどを強化する。また、ホスピタリティ・トラベルの音楽、文化イベントへの導入など、目的型、高付加価値体験プログラムを拡充する。海外旅行の売り上げについては、アジアや北米、ハワイなどが好調で前年比約3倍で推移している。このほか、インドネシアやベトナムなど東南アジアも人気となっている。海外旅行の完全回復に向けて、山北社長は「売上高の観点では、25年度には完全回復を目指す。24年度にはそれに近い水準を狙っていく」と展望を述べる。

エリアソリューションは、「地域との共生」をキーワードに、観光DXを軸としながら、オーバーツーリズム対策、エリア価値向上を図る。地域と旅行者・訪日旅行者を結ぶ新しい観光交流拠点を開設するほか、回遊促進などエリア・地域の課題解決と価値向上に取り組む。

ビジネスソリューションは、「企業エンゲージメント向上」をキーワードに、企業のアウター(顧客)と、インナー(従業員)の課題解決に取り組む。①従業員②顧客③地域・社会―の3つのエンゲージメントを強化するほか、顧客エンゲージメント醸成やサステナビリティ対応など、ビジネスイベントを通じて顧客の課題解決をし続ける。

このほか、事業基盤の強化としてコーポレートトランスフォーメーション(CX)を推進。DXや働き方改革で生産性向上と商品サービスの高付加価値化を進め、利益水準を引き上げる。生成AIの活用を加速し、ダイナミックプライシングのアルゴリズム化に向けた開発も加速する。また、イノベーション創発活動「nextender」を進め、イノベーティブな企業風土を実現する。

社会的有用性の高い企業への変革に向けては、コンプライアンスの徹底、サステナビリティへの貢献、DEIBを基本とした人的資本の強化、ステークホルダー(社員、株主、社会)への還元による好循環の創出に取り組む。

人材投資については、新卒社員を23年度は300人、24年度は480人を採用。今後は外部塵埃、専門人材の登用も活発化していく。

店舗については、海外旅行専門の店舗を設けるなど、店舗の役割を変更していく。店舗数は、コロナ禍で約480店舗を減少させ、現在は約265店舗となっているが、今後において減らす計画はない。

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