移民大国、金利上昇、スタートアップ誘致、ジャニーズ性加害…スイスのメディアが報じた日本のニュース

2023年4月、ジャニー喜多川氏による性被害を公表した歌手のカウアン・オカモトさん (AP Photo/Eugene Hoshiko, File)

スイスの主要報道機関が先週(5月21日〜26日)伝えた日本関連のニュースから、4件をピックアップ。要約して紹介します。

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今回ご紹介するのは①移民を呼び込みたい日本②金利上昇は投資家にとって何を意味するのか?③スタートアップ引き寄せる東京④日本の#MeToo、985件の4本です。

移民を呼び込みたい日本

ジョー・バイデン米大統領が今月初め、日本は「外国人嫌い」だと発言し、物議を醸しました。ドイツ語圏の日刊紙NZZのマルティン・ケリング記者はバイデン発言を検証し、日本は労働力不足を補うため国境開放を進めていると解説しました。

記事によると、人口に占める外国人の割合は日本全国ではわずか2.4%ですが、首都東京の中心部・新宿では37%に達しています。スーパーやコンビニでも、顔や名札で外国人と分かる従業員が増えています。「これは、日本の保守政府が外国人に対してさらに国境を開放したいと考えていることを示す兆候だ」

急速な人口減少を補うため、政府は厳格だった移民規制の改革を進めています。2023年には外国人労働者の数が初めて200万人の大台を突破しました。1986年から日本に住む経済学者イェスパー・コール氏は同紙に、「2030年までに労働力の1割が外国人になる。日本は移民の国になるだろう」と語りました。

1980年代のバブル期に起こった労働力不足では、政府は日系ブラジル人の呼び込みに乗り出しました。しかし移民の統合は失敗し、1993年に創設された研修生制度は米国の人身売買報告書で批判されたと紹介しました。

直近では長期滞在・永住許可の取得を緩和する改革が進んでいます。スタートアップ創業者や「デジタルノマド」のビザ取得を簡素化し、優秀な人材は家族の呼び寄せが可能なビザも取得できるように。

そんな日本の目下の課題としてNZZが挙げたのは円安です。「日本の平均賃金が他国に比べて低下しているため、円安で日本企業の外国人雇用はさらに困難になっている」。アジア新興国での賃金格差が縮小するだけでなく、故国への仕送りも目減りすると指摘しました。

一方で「移民の増加に対する国民の抗議活動は減ってきている」。反外国人感情が消えたわけではないものの、経済界からは「労働力不足を軽減するためにあらゆる可能性を活用するよう、政府や社会に訴える」声が上がっていると説明しました。(出典:NZZ/ドイツ語)

金利上昇は投資家にとって何を意味するのか?

日本の長期金利(新発10年物国債利回り)が24日、11年ぶりに1%の大台に上昇しました。NZZのケリング記者は表題の記事で、金利上昇が日本経済・金融にどのような影響を与えるかをQ&A形式で解説しました。

記事は「投資家にとって今の大きな関心事は、金利上昇が円安、ひいては株式市場の記録更新に終止符を打つことができるかどうかだ」と指摘します。金利が上昇したとはいえ、インフレ率を差し引いた実質金利は今もマイナス圏。住宅ローンは短期金利に連動する変動型が大半を占めるため、実質経済にはあまり影響がないとしています。

日本の金利上昇で日米金利差が縮小すれば円高に振れる可能性もありますが、記事は根強いインフレを抱える米国が早急に利下げに転じるとは想定しにくく、円相場は低水準で安定するとの専門家の見方を紹介しています。また物価上昇に伴って名目国内総生産(GDP)の成長が続き、資産価格の押し上げを通じて株高が続くとの見方も挙げています。(出典:NZZ/ドイツ語)

スタートアップ引き寄せる東京

NZZのケリング記者はさらに、5月26日まで東京ビッグサイトなどで約1カ月開かれた「SusHi Tech Tokyo2024」の取材レポートを執筆。「日本の首都は『最もスタートアップに優しい都市』であることをアピールしようとしている」と伝えました。

イベントには47カ国から400社以上のスタートアップ企業が出展。スイスからも「swisstech」を看板にしたブースに12社が出展、日本語で書かれた冊子で100社を紹介しました。スイス団を率いる科学領事館Swissnex(スイスネックス)のフェリックス・メスナー在大阪領事はNZZに「日本への注目はどんどん高まっている」と語りました。「(日本の)大企業は多額の資金を蓄えているが、パイプライン(製品開発に至るまでのプロセス)をイノベーションで満たす必要がある」

記事は「日本と東京はスタートアップ誘致を(こうしたイベントでの)マッチングだけに頼っているわけではない」と指摘。「ワーキングホリデー」ビザ(査証)の条件緩和やスタートアップ創業者向けビザの簡素化、会社設立支援といった取り組みも紹介しました。(出典:NZZ/ドイツ語)

日本の#MeToo、985件

「かつてないほど揺れるJ-Pop」――フランス語圏の地域紙トリビューン・ド・ジュネーブは旧ジャニーズ事務所の創業者・故ジャニー喜多川氏による性加害報道から1年。フランス語圏の地域紙トリビューン・ド・ジュネーブは「かつてないほど揺れるJ-Pop」との見出しで、日本の芸能界、さらに文化業界全体が揺れている現状を解説しました。

記事は喜多川氏が日本エンタメ業界の「巨匠」に上りつめるなかで985人以上の少年たちに性的暴行を加えた経緯を紹介。「ジャニー喜多川は3つの日本文化のタブーを利用した」として、①個人は常に集団の一部として生きることが求められ、一人称で話すことが難しい②性的暴行に関しては被害者の4分の3が誰にも話さず、告訴するのは1割以下③家父長制の強い日本では、性的暴行の被害者になった男性は男らしさの欠如を卑下されるか、同性愛者ではないかと疑われる―と説明しました。

しかし「国民感情は明確ではない」と続け、SNS上では無数のジャニーズファンがスキャンダルを「古い歴史」として葬ろうとしていると伝えています。性被害を証言したことで「国内の音楽産業に損害を与えた」と嫌がらせを受ける告発者も数えきれないほどいる、と指摘しました。(出典:トリビューン・ド・ジュネーブ/フランス語)

【スイスで報道されたその他のトピック】

話題になったスイスのニュース

先週、最も注目されたスイスのニュースは「スイス、国立大留学生の学費を3倍に引き上げへ 下院委員会が可決」(記事/日本語)でした。他に「スイスのインスタ映えスポット、観光入場料の導入検討」(記事/日本語)、「スイス裁判所、メキシコ食料品『Bimbo』を人種差別的として商標登録却下」(記事/英語)も良く読まれました。

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次回の「スイスで報じられた日本のニュース」は6月3日(月)に掲載予定です。

要約:ムートゥ朋子、校閲:大野瑠衣子

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