『マッドマックス:フュリオサ』初登場で北米1位 ハリウッドの夏商戦にWストライキの影

北米映画市場が、今年2度目となる「過去30年で最低」の数字を出してしまった。前回はスーパーボウルの週末(2月9日~11日)だったが(※)、今回は戦没将兵追悼記念日(メモリアル・デー)となった5月24日~27日の4日間。累計興行収入は1億2700万~3000万ドルで、1995年以来、実に29年ぶりの低調となった(コロナ禍の2021年・2021年を除く)。

もちろんメモリアル・デーに向けて、大手スタジオは話題作を準備していた。ワーナー・ブラザースは今夏の注目作『マッドマックス:フュリオサ』を、ソニー・ピクチャーズは人気キャラクター「ガーフィールド」の新作アニメーション映画『The Garfield Movie(原題)』を。しかしながら、どちらも期待以上の成績にはならなかったのである。

5月24日~26日、週末3日間のランキングでNo.1に輝いたのは、『マッドマックス:フュリオサ』の2550万ドルで、『The Garfield Movie』の2477万ドルをわずかに上回った。ところが、4日間の成績では順位が逆転し、『The Garfield Movie』が第1位となる見込み。それでも、3190万ドル(推定)という数字はメモリアル・デーの首位作品では『キャスパー』(1995年)の2250万ドルに次ぐ低成績だ。

ちなみに、ワーナーは『マッドマックス:フュリオサ』が4日間でも1位だと主張しているが、現時点で詳細な数字を出しておらず、勝算は低いとみられている。

『マッドマックス:フュリオサ』は、熱狂的支持を誇るアクション映画『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(2015年)の前日譚。シャーリーズ・セロンが演じたフュリオサの若き日を描いたストーリーで、主演にはアニャ・テイラー=ジョイ、共演にはクリス・ヘムズワースが起用された。

本作は4日間で4000万~4500万ドルを稼ぎ出すことが見込まれていたため、3000万ドル前後(推定)というスタートは予想を大きく下回るもの。前作『怒りのデス・ロード』は公開後3日間で4542万ドルを記録したが、前日譚映画は集客に苦戦するという傾向の通り、残念ながら遠く及ばなかった。海外76市場では3330万ドルを稼ぎ、世界累計興収は5880万ドル。製作費は1億6800万ドルとあって、黒字化のハードルは非常に高い。

Rotten Tomatoesでは批評家スコア90%・観客スコア90%と高評価。しかしながら現地の報道は、本作が『怒りのデス・ロード』ファン以外にアプローチしきれていない現状を示唆している。観客の男女比は男性72%・女性28%。出口調査によると、観客の半数以上が『マッドマックス』ファン、34%がジョージ・ミラー監督のファンだという。日本公開は5月31日、国内ではどんな反応となるか。

THE GARFIELD MOVIE - Official Trailer
また『The Garfield Movie』は、猫のガーフィールドを3DCGでアニメーション映画化し、クリス・プラットやサミュエル・L・ジャクソン、ニコラス・ホルトらが声優を担当。製作費は比較的抑えめの6000万ドルで、こちらの初動成績はスタジオの期待通りだという。海外市場では先行して上映が始まっており、世界興収は9817万ドル。Rotten Tomatoesでは批評家37%に対し観客83%と、一般観客の支持が大きい。日本公開は未定だ。

『マッドマックス:フュリオサ』に対する映画ファンの注目は大きかったが、残念ながら北米のサマーシーズンは、現時点で圧倒的な話題作を欠いたままのスタートとなっている。『ブルー きみは大丈夫』と『フォールガイ』は、ともに健闘こそしているものの期待には遥かに及ばず、ビジネスとしては非常に厳しい状況。『フォールガイ』は公開4週目ながら早くも有料配信がスタートしており、なりふりかまっていられない状態だ。

現状、初夏の公開作で気を吐いたのは『猿の惑星/キングダム』のみ。今週は第4位(公開3週目)で、北米興収は1億2280万ドル、世界興収は3億ドルが間近に迫った。こちらは黒字化確実とみられるが、それでもシリーズの過去作よりは数字がふるっていない。

サマーシーズンの華々しい幕開けとなるはずの5月が、なぜこれほど寂しい結果となったのか。現地報道ではっきりと指摘されているのは、2023年に実施された全米脚本家組合&全米映画俳優組合によるストライキの影響だ。長期の製作中断で多くの話題作が公開延期となったことは、今夏の映画興行に大きなダメージをもたらした。メモリアル・デーの週末成績は前年比およそ64%にとどまったのだ。前年の第1位は、実写版『リトル・マーメイド』(2023年)の1億1800万ドル。今年のトップ2とは数字を比べるまでもないだろう。

また、2023年の年間興行成績はコロナ禍からの回復傾向を強調する結果に終わったが、今年の累計成績を前年同時期と比較すると約78%にとどまり、その傾向は完全に止まったというほかない。昨年の下半期はPR活動が十分に行えず、『バービー』や『オッペンハイマー』といった例外はあったが、映画館から全体的に客足が遠のいた。いくつかの話題作を除き、その影響は――あるいはコロナ禍からの影響は――今でも変わらず続いていると見たほうがいい。

2023年のWストライキは、映画業界や労働環境の改善という点では大きな意義があった。そのことは疑うべくもないが、しかしながら映画産業に大きなダメージを与えたこともまた確かだ。映画をつくって宣伝するにはコストがかかり、そのコストを回収できなければビジネスとしては縮小せざるをえなくなる(現にハリウッドのスタジオ各社は「小さいコストで小さく稼ぐ」スタイルをほとんど隠さなくなった)。このことがつづけば、ストライキで求めていた十分な報酬と待遇を得られる労働者も結果的に少なくなりかねない。理想を妄信的に支持するだけではどうにもならない問題だ。

ストライキの影響は今後も数年スパンで続くだろうが、ひとまず映画業界・映画館業界はこの夏をどう乗り切るか。『インサイド・ヘッド2』や、その後の『怪盗グルー』第4作と『デッドプール&ウルヴァリン』が、現在のムードをぶち壊してくれることに期待をかけるしかない。

北米映画興行ランキング(5月24日~5月26日)
1.『マッドマックス:フュリオサ』(初登場)
2550万ドル/3804館/累計2550万ドル/1週/ワーナー

2.『The Garfield Movie(原題)』(初登場)
2477万ドル/4035館/累計2477万ドル/1週/ソニー

3.『ブルー きみは大丈夫』(↓前週1位)
1610万ドル(-52.2%)/4068館(+27館)/累計5866万ドル/2週/パラマウント

4.『猿の惑星/キングダム』(↓前週2位)
1335万ドル(-47.5%)/3550館(-525館)/累計1億2280万ドル/3週/20世紀スタジオ

5.『フォールガイ』(↓前週4位)
592万ドル(-29.1%)/2955館(-890館)/累計7221万ドル/4週/ユニバーサル

6.『The Strangers: Chapter 1(原題)』(↓前週3位)
561万ドル(-52.6%)/2856館(変動なし)/累計2134万ドル/2週/ライオンズゲート

7.『Sight(原題)』(初登場)
269万ドル/2100館/累計269万ドル/1週/Angel Studios

8.『チャレンジャーズ』(↓前週5位)
138万ドル(-51.9%)/1089館(-849館)/累計4647万ドル/5週/Amazon・MGM

9.『Back to Black(原題)』(↓前週6位)
110万ドル(-61.2%)/2013館(+3館)/累計499万ドル/2週/Focus Features

10.『Babes(原題)』(↑前週18位)
106万ドル(+549.8%)/590館(+578館)/累計128万ドル/2週/NEON

(※Box Office Mojo、Deadline調べ。データは2024年5月27日未明時点の速報値であり、最終確定値とは誤差が生じることがあります)

参照
※ https://realsound.jp/movie/2024/02/post-1571416.html
https://www.boxofficemojo.com/weekend/2024W21/
https://www.hollywoodreporter.com/movies/movie-news/furiosa-box-office-garfield-worst-memorial-day-1235909084/
https://variety.com/2024/film/box-office/box-office-shocker-furiosa-garfield-movie-tie-first-place-bleak-memorial-day-weekend-1236016762/
https://deadline.com/2024/05/box-office-garfield-furiosa-1235941424/
https://deadline.com/2024/05/indie-film-box-office-babes-neon-blasts-off-1235941513/
(文=稲垣貴俊)

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