若葉竜也、民放連ドラ『アンメット』出演の背景と覚悟 杉咲花は「何よりも人間性が素敵」

今期連続ドラマの中でもっとも評価の高い作品と言っても過言ではない、カンテレ・フジテレビ系の月10ドラマ『アンメット ある脳外科医の日記』。主演の杉咲花と共にドラマの根幹となっているのが、脳外科医・三瓶役の若葉竜也だ。子役からキャリアをスタートし、ここ数年は“映画俳優”として数々の名監督とタッグを組んできた若葉は、なぜ今回久しぶりに地上波連続ドラマに出演しようと思ったのか。NHK連続テレビ小説『おちょやん』や映画『市子』などで共演を重ねてきた杉咲との信頼関係や、俳優としての自身のポリシーなどを語ってもらった。【インタビューの最後には、サイン入りチェキプレゼント企画あり】

ーー若葉さんが民放の連続ドラマに出演するのはかなり久々ですよね。まずは出演を決めたきっかけから教えていただけますか。

若葉竜也(以下、若葉):一番大きかったのは、プロデューサーの米田(孝)さんの作品に対する熱烈な思いです。そこに反応した、というのが出演を決めた理由でした。

ーー米田さんとは具体的にどういうやりとりを?

若葉:“こんな企画があるので一度お話をさせてください”というオファーを受けて、最初は正直「テレビか……どうしようかな」と思っていて。その後、米田さんは大阪に住んでいらっしゃるんですけど、新幹線に乗って僕の家の近くの喫茶店まで来てくれて、そこで話をしたんですよね。そこで『アンメット』をドラマにしたい理由や、やる意義を熱烈に話してくださったんです。その姿を見て、出演を決めました。

ーー熱烈な思いに感化されたと。

若葉:そうですね。ただ、やる上では条件もありました。自分が連続ドラマに出演するのであれば、こういう体制を整えてほしいというリクエストをして、その条件を呑んでいただけるのであればぜひ、と。

ーーその“条件”について、具体的に教えてもらってもいいですか?

若葉:まずは脚本ですよね。しっかり入り込める脚本を作ること。あとは現場を作業のように進めていかないということだったり、カメラひとつとっても、フレームレートまで細かくこだわりたいということを事前にお話しして、そういうところまで考えてもらいたいということをお伝えしました。従来の民放ドラマではたどり着けなかったようなところにタッチしたいという思いがあったので。

ーー実際に放送を拝見していても、そのこだわりは随所に感じられます。

若葉:役者陣の一挙手一投足やセリフの語尾ひとつまで、みんなで精査しながらやっています。上がってきた脚本を読んだ上で、“この人はなぜこの動きをしたのか”というように、それぞれの人物造形を含めて、ものすごく細かいところまで話し合っています。

ーー現場で変わっていくこともかなりありそうですね。

若葉:そうですね。本当にめんどくさいやり方をやっているなと思いますよ(笑)。非効率的だなと。

ーーその若葉さんのスタンスはどの作品でも同じなんですか?

若葉:数シーンしか出ないような役であれば、自分よりも遥かに携わっている方々が多いのでお任せしていますけど、自分が主演だったり責任あるポジションにいる場合は、基本的にそういうやり方をさせていただいています。

ーーそもそも若葉さんは子役からこのお仕事を始められていて、過去には連続ドラマにも多数出演されていましたよね。連続ドラマに出なくなったのにはどういう理由があったんですか?

若葉:テレビの作り方や役者として求められるものを考えた時に自分は向いてないなと。あとは単純に僕があまりドラマを観ないというのが大きいです。自分が普段観ていない媒体に出るのがすごく嫌だったんですよね。だから今回『アンメット』に出演するにあたって、1月クールのドラマはほぼ全部観ました。途中でやめたのもありましたけど(笑)、いくつかは最後まで観ましたね。

ーーどう感じられましたか?

若葉:楽しく見ましたよ。ただ、僕の個人的な意見ですけど、瞬間的な面白さはあるのかもしれない。でも、思い出すかどうか……。数年後に思い出せる作品がこれだけドラマが乱立している中で何本あるのか。

ーーあー、なるほど。

若葉:小学校とか中学校のときに観ていたドラマで、あるセリフが異様に頭に残っているドラマとかがあるんですけど、そういう作品がいまはあまりないなって。だから『アンメット』はそこにたどり着きたい。「『アンメット』って超いいドラマだったよね」という感想というより、誰かが何かを思い出す瞬間をワンシーンでも作れたらいいなという思いでつくっていて、そこにたどり着きたいと思っているんですよね。思い出し笑いみたいに時間が経ってからふと思い出してもらいたい。なんてタイトルだったかとか僕のことは忘れてくれていいので。

ーー三瓶を演じる上で、どのようなことを意識されているんですか?

若葉:より人間的であろうという意識はあって。こういう役をやるにあたって、やってはいけない方法っていうのが自分の中にいくつかあるのですが、それはことごとく潰しています。「三瓶だったらこれはやらないかも」と思うことは極力排除していますね。自分が「三瓶はこんな顔しないだろうな」と思うことこそやっているというか。

ーー原作では三瓶が主人公ですよね。ミヤビが主人公になることによって変わるところもあるのでしょうか?

若葉:構築はより繊細になりますよね。でも、まぁ主演の杉咲さんがなんとかしてくれると思います(笑)。

ーー(笑)。

若葉:僕の同級生にお医者さんがいて、彼は原作の『アンメット』を読んでいるんですけど、三瓶という人間は、どのお医者さんも20%くらいは持っている感覚を具現化したような人だと言っていて。お医者さんからも人気なキャラクターらしいんですよ。だから「失敗したら超叩かれるね」って言われました(笑)。

ーーすごいプレッシャーですね(笑)。主演の杉咲花さんについても聞かせてください。これまでお2人は数々の作品でご一緒されていますが、若葉さんは杉咲さんのどういうところを信頼されているのでしょうか?

若葉:女優としてももちろんですし、ものを見るセンスも素晴らしいなと思うんですけど、何よりもあの人の人間性が素敵だなと思っていて。彼女の背中を見て手を抜ける人っていないと思うんです。なぜかと言うと、同じ現場にいたらわかるんですが、誰にも見えないところで血の滲むような努力をしているから。だから現場の士気も上がるし、自分の背筋も伸びるんですよね。そういう彼女の姿勢が信頼できる理由なんだと思います。

ーーお2人の作品に対する並々ならぬ思いは観ているこちらにも伝わってきます。一方で、ドラマの公式SNSにアップされているオフショットには癒されるところもあって……(笑)。

若葉:ははは(笑)。そんなに真面目な話をすることってないんですよ。何か問題が起きたときとか、やっていて何か引っかかったことがあったときにはそういう話をしますけど、8割方くらいはたわいもない日常会話ですよ。

ーー最初に共演されたのは『おちょやん』ですよね。あれから約4年経ちますが、当時の杉咲さんと現在の杉咲さんを比較して、何か印象が変わったところはありますか?

若葉:大切にしているものは変わってないと思います。でも、昔はもうちょっと肩肘を張っていた印象があるので、よりフラットになった気はします。それは人に対してもそうで、先輩や後輩、アシスタントさんとか技術さんとか関係なく、人と向き合う姿勢がより開かれたというか。

ーー杉咲さんにも何度か取材をさせていただいたことがあるのですが、それはすごくよくわかります。

若葉:取材でもとても緊張されるみたいですよ。何を話せば伝わるのか、どうすれば伝えられるのか、どんな言葉で伝えられるのか。シュチュエーションを考えるみたいです。

ーーそうなんですか!? それは驚きです……。

若葉:そんな人なかなかいないですから(笑)。映画の撮影だろうとドラマの撮影だろうとCMだろうと取材だろうと、彼女は全部とてつもないレベルでやってしまうということなんですよね。「そりゃ常人にはたどり着けないわ」と思いますよね。

ーー今回、若葉さんにとっては久しぶりの連続ドラマ出演ということで、世間的により注目を浴びるようになると思います。『アンメット』以降の連続ドラマへの出演の可能性はどうなんでしょうか?

若葉:うーん……どうかな。僕は決して仕事ファーストな人間ではないので、そもそも俳優をこの先続けるのかどうか(笑)。俳優を続けるにしても自分が本当に面白いと思うものとかやりたいと思うものだけをやっていない未来は、ちょっと想像したくないですよね。自分が面白いと思うものに対して真摯に向き合っていれば、きっと自分が「この俳優いいな」と思える俳優像になっていると思うんです。逆にそこがブレてしまうと、“こうはなりたくなかった俳優像”になってしまうので、そこは突き詰めていきたいですね。

ーー自分が面白いと思えるかどうかが重要だと。

若葉:僕はあるときから、不必要なことは全てやめよう、自分が共鳴できない作品に参加するのはやめようと決意したんです。自分が適任だと思えないことを無理してやって辛くなる必要性なんかないなって。自分にはそれがあってる。この期間では準備しきれないというスケジュール的な面でお断りするものもあったりして。でもその結果、いまこうやって面白い作品にたくさんめぐり会えているので、このスタンスは変わらず続けていきたいですね。

(取材・文=宮川翔)

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