混雑状況を可視化!VACANで省人化と収益化ができる理由

「今空いているか」が1秒でわかる。AI、IoTを活用してリアルタイムの混雑状況を可視化するプラットフォーム「VACAN(バカン)」が展開を広げている。商業施設や百貨店の飲食店やトイレ、空港の保安検査場の混み具合を表示するサービスの提供から始まり、コロナ禍では行政機関の窓口や投票所、ワクチン接種予約受付会場での導入が進んだ。災害時には避難所の位置や混雑状況を確認できることから、安全な避難行動をサポートするインフラとしても期待されている。小売・流通業界においては、どのように活用できるだろうか。VACANを生み出し、提供するバカン(東京都)の河野剛進社長に話を聞いた。

自身が経験した商業施設の混雑が開発のきっかけに

家族と過ごす時間をムダにしたくない--

VACAN開発のきっかけは、河野社長がそう考えたことだった。商業施設に妻子と出掛け、ランチの店選びをしていたもののどこも満席。幼い子が待ちきれず泣き出すことが一度ならずあったという。同じような出来事がたびたび繰り返されると、外出すること自体が嫌になってくる。近所の公園に遊びに行くにしろ、出掛ける前に混雑状況が分かれば助かる。それが2016年6月のバカン設立につながった。

提供するプラットフォームと社名の由来は「空いている」を意味する「Vacant」だ。あらゆる場所の空き状況を見える化するのがコンセプト。まずは羽田空港の保安検査場の待ち時間、成田空港のトイレの空き状況を示すサービスを提供。全国の空港、駅、商業施設、駅に広がり、旅館・ホテル、レストラン・カフェ、駐車場、公共施設、オフィスなどでも導入されるようになった。

新型コロナウイルスの流行時は密を避けるのに有効な打ち手として注目を集め、行政窓口やワクチン接種の会場などで活用された。災害時に避難所の状況を把握するのに役立つとして全国の300以上の自治体に導入。全国1万ヵ所以上の避難所の混雑度合いがリアルタイムでわかり、安全な避難行動をサポートするインフラとして期待されている。

このVACANを支えているのが、独自開発した統合型IoTフレームワーク「vCore」だ。データの一括管理機能でAIの情報処理速度を上げている。データの保存機能で過去の事例をストックし新規導入時においても緻密なシミュレーションを可能にしている。そしてデータの分析機能で、常にAIの質を向上させて情報精度を高めている。この3つの機能を備えたvCoreが、あらゆる場所に対応するサービスを提供できる秘密だ。

バカンの河野剛進氏

「混雑解析に特化した解析基盤として作り込んだvCoreが、センサー、画像を問わず、データをリアルタイムでさばいて、必要な情報を解析する。必要に応じて予測も行う。その結果をスマーフォン、パソコン、デジタルサイネージに配信する」(河野社長)

例えば、1脚のいす。それだけを見れば1人分の座席だが、4つが並べられて1つのテーブルとなっている場合もある。そういった異なる階層をvCoreはグルーピングできるため、VACANでは、いす、テーブル、コーナー、室内、フロア、建物、敷地と階層を変えた「混雑の見える化」が可能になっている。

河野社長は東京工業大学大学院でMOT(Management of Technology=技術経営修士号)の学位を修め、三菱総合研究所の研究員としてアルゴトレード(アルゴリズム取引)、HFT(High Frequency Trading=高頻度取引)を手掛けていた。そのキャリアが大量のセンサーのデータ、画像データをリアルタイムで解析する上で活かされているという。

省人化と収益増を同時に実現

百貨店やショッピングモールなどに設置されるサイネージ。施設内の飲食店や小売店の混雑状況が一目でわかる

商業施設の運営事業者から導入の相談を受けることが多いのがトイレ、フードコートの混雑、駐車場の空き状況の可視化という。

ある百貨店では1階にトイレがなく、2階の女子トイレが大混雑を起こしていた。その対処法として同じフロアにある男子トイレをなくして女子トイレを増設する議論も行われた。しかしVACANのデータを見ると、実は2階の男子トイレは利用率が高く、3階以上の女子トイレは使う人が少なかった。それで女性客に3階以上のトイレ利用を促すことによって課題を解決。結果的にトイレ増設の費用をかけずに利用者の不満を解消できて、コスト面でも感謝されたという。

トイレでのさらなるVACANの活用法としては、トイレットペーパーの残量検知、利用者数に応じた清掃管理が考えられ、人員配置を効率化する実証実験が行われている。利用者以上にオペレーション側への導入メリットが大きな例には、タクシー乗り場の空き状況をドライバーに知らせて、配車に役立てている施設があるという。これまではタクシー会社の配車センターが担っていた業務をVACANが自動化して人の負担をなくしているわけだ。

飲食業界の事例としては、常に混雑しているカフェで、テーブルの空き状況を見える化するとともに、タブレットで席の取り置きができるようにした。予約の電話を受け付けたり、予約札を置いたりするマンパワーのゆとりがない中でも、お客を逃すことなく、店の回転率を上げることに成功した。

加えて顧客の属性データを収集してマーケティングに活かせるメリットが生じたほか、席予約の料金を課金する機能を追加してプラスアルファの収益を得られるようになったという。

VACAN Qticketの操作画面

この順番待ちと席の取り置きを受け付けるデジタル整理券システムは「VACAN Qticket」として、東京駅の駅ナカ商業施設・グランスタ東京にも導入されている。飲食や小売の店舗に限らず、サービス業、ホテルや免税店、イベント会場などでの活用も見込まれる。

海外進出したラーメンチェーンの店舗向けには、待ち時間に応じてポイントを付与し、貯めたポイントを無料ドリンクや割引クーポンに交換できる機能を備えた「Fun to Wait」を開発。「待っている時間そのものを楽しめ、価値を持たせる試みにもチャレンジしている」(河野社長)という。

地域のにぎわい創出にVACANを活用

避難所情報の活用イメージ

Webブラウザで使用できるマップ型空き情報配信サービス「VACAN Maps」は、特に災害発生時の避難所の開設と混雑状況をリアルタイムで確認できることから行政での導入が進む。だが用途は災害時に限らず、埼玉県秩父市では観光施設のほか、地域の飲食店、土産店、レジャー施設の混み具合の情報を発信・提供している。

同様の取り組みは神奈川県藤沢市の江の島でも行われている。また、佐野ラーメンが有名な栃木県佐野市では2023年春、約90店のラーメン店と観光地27ヵ所を対象に、待ち時間の短縮と地域活性化を目指すプロジェクトの実証実験を行った。

「行政と連携して公共の利益となる取り組みを進めていくことはもちろん、民間でも使われて、日常だけでなく災害時のような非日常にも役立つフェーズフリーのサービスとして広く提供していけることが理想」(河野社長)

2024年2月、バカンは長崎県佐世保市に本社を置くジャパネットホールディングスのほか、足利銀行、山梨中央銀行といった地方銀行が出資するファンドを引受先とする第三者割当増資による資金調達を実施した。

「地元の信用を獲得していくのに、地銀とつながりを持てることは、すごくありがたい。一緒に地域を盛り上げていきたい」(河野社長)

VACAN Mapsの操作画面(イメージ)

VACAN Mapsは直感的な操作ができるUIで、2021年度のグッドデザイン賞、さらには国際的に権威のあるドイツのデザインアワード・iF DESIGN AWARD 2023を受賞した。UXの面でも、スマートフォン1つあればアプリをダウンロードすることなく利用でき、世代、言語を問わず使い勝手が良い。

「目的地の状況がわからないと、例えば災害時のようなケースにおいては、特に集団心理が働いて同じ場所を目指して一極集中を生んでしまう。そうではなく、地図上で混雑の度合いを確かめた上で、どこに行くか決められる」(河野社長)

混雑状況がリアルタイムでわかることで、消費者は臨機応変な行動ができる。事業者にはビジネスチャンスが生まれる。双方にメリットをもたらすVACAN。混雑の見える化を軸に、付加価値を提供するサービスも次々と生み出されている。リアル消費のプラットフォームとして、にぎわいの創出にも一役買い、より広く深く世の中に浸透していきそうだ。

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