50周年『花とゆめ』 記念展には出ていない「隠れた名作」たち 擬人化4コマに平安ファンタジーも

50周年を迎える雑誌『花とゆめ』創刊号表紙 (C)こやのかずこ/白泉社

少女漫画雑誌『花とゆめ』(白泉社)が、2024年5月で創刊50周年を迎えた。それを記念して、2024年5月24日から東京六本木の東京シティビューにて『創刊50周年記念 花とゆめ展』が開催されている。

会場には、美内すずえさんの『ガラスの仮面』、和田慎二さんの『スケバン刑事』、魔夜峰央さんの『パタリロ!』など大御所から現在連載中の人気作家まで、総勢74名もの作家たちの原画約200点が展示される。

50年間の『花とゆめ』からは数えきれないほど多くの名作漫画が生まれており、それぞれの時代で読者の好きな作品も違うだろう。公式サイトに掲載された「出展作家一覧」を見て、そこには載せられていない名作漫画に思いを馳せた『花ゆめ』読者も多いのではないだろうか。そこで今回は、花とゆめ展には出ていない「隠れた名作」をふり返りたい。

■冷蔵庫の中で繰り広げられる食材たちの楽しく切ないウラ事情…『冷蔵庫物語』

戦艦や日本刀など、2000年代から続く擬人化ブームは息の長いジャンルだが、1993年に連載されていた、ぷろとんさんの『冷蔵庫物語』も間違いなく“擬人化”作品だ。

本作は、のんびり屋な冷蔵庫くんの庫内に収納されている、個性豊かな食材たちが繰り広げる4コマ漫画。基本ギャグではあるものの、料理してもらう気満々だったとれたてキャベツが冷蔵庫でひからびて捨てられたり、マツタケが変なキノコだとしいたけからイジメられてしまったりなど、何とも言えない切ない描写がおもしろかった。

また、食材でありながら人妻のプリンやかけおち中のかきもちなど、現実に置き換えてしまうと思わず食べるのに躊躇しそうなモノまでいる。とはいえ、長い大根や丸ごとのスイカが冷蔵庫に入らないといった問題や、凍らせたらダメになる食材をうっかり冷凍室に入れてしまうといった、私たちの生活に身近な話題を扱った“あるあるネタ”も楽しめる作品だ。

本作が掲載されていた1990年代後半には、加藤四季さんの『高校天使』、杉原涼子さんの『あめのち晴れ』などの“4コマ”作品が当時の読者を楽しませてくれた。

■暗殺者として育てられた少女が活躍する平安ファンタジー…『緋桜白拍子』

少女漫画のストーリー物といえば、緻密な描写と細やかな時代設定などで読者を引き込むが、藤丞めぐるさんの『緋桜白拍子(ひおうしらびょうし)』もそんな作品のひとつだ。

1998年より『花とゆめ』および『別冊花とゆめ』で連載され、単行本は全12巻刊行。平安時代を舞台に、刺客育成組織で暗殺者として育てられた少女・梓が、斬鋼糸を操る緋桜の白拍子としてさまざまな陰謀と戦うアクション・ファンタジーだ。梓に思いを寄せる、兵衛督(罪人を捕まえる要職)である子安時迅との切ない恋愛模様にもキュンとした。

政治的な策略や“暗殺者”という暗いテーマを扱っているものの、明るい絵柄と所々に散りばめられたギャグもあるため読みやすい。さらに、紫式部の『源氏物語』を知っているのなら、女性の役職や肩書に「おっ!」と気付く人もいるだろう。

本作の続編となる『新 緋桜白拍子』は、『まんがグリム童話』(ぶんか社)にて現在も連載中だ。前作では少女だった梓が、続編では美しい大人の女性となって活躍している。

■主人公は関西弁を喋るケンカ好きな女子高生!…『ショート寸前!』

最後に紹介したいのが、桜井雪(さくらい すすぎ)さんの『ショート寸前!』。関西の女子高生・黒川さつきはケンカっぱやいが、そんな彼女に思いを寄せるのが一匹狼のような少年・千堂章。互いに好き合いながらも、恋愛はからっきしなさつきと一途な千堂の関係が描かれる。うまく噛み合わない、今でいう「じれじれ」した様子がたまらない作品だ。

当初は読み切りとしてスタートしたが、読者の好評を得てコミックス5巻が刊行。コミックスにはタイトルをパロディにした描き下ろし『消灯寸前』や、桜井さんが以前描いた短編が併録されている。

50年の歴史の中で数多くの名作が生まれた『花とゆめ』の漫画たち。開催中の『花とゆめ展』で、その豊かな世界観に浸ってみてはいかがだろう。

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