トトロは本当の名前じゃなかった…『となりのトトロ』に隠された驚きの“最初の設定”

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スタジオジブリ作品の『となりのトトロ』は、不思議なキャラクターのトトロと、サツキとメイ、幼い姉妹の心温まる交流を描いた名作映画だ。公開から36年たった今もその人気は健在だが、意外と知られていない設定があるのをご存じだろうか。今回はそんな知られざる『となりのトトロ』の“最初の設定”をご紹介していこう。

■トトロは本当の名前じゃない? 設定資料では「ミミンズク」

「トトロ」と呼ばれ親しまれている『となりのトトロ』のメインキャラクター。大きくてふわふわの体と、愛らしい表情がチャーミングなトトロは、一番大きなものを「大トトロ」とし、そのあとは大きさによって「中トトロ」、「小トトロ」と呼ばれることが多い。

しかし、「THE ART OF となりのトトロ」(徳間書店)で紹介されている初期のイメージボードでは、「大トトロ」は「ミミンズク」と名づけられているのだ。「中トトロ」は「ズク」、「小トトロ」は「ミン」とそれぞれ名前があったことも判明している。

そして彼らの年齢についても記載があり、「ミミンズク」は1302歳で、「ズク」は679歳、「ミン」は109歳なのだそうだ。

本編を見ていると、トトロたちは森の精や神様のような存在だとは思っていたが、これほどまでに長生きをしているとは驚きだ。

また彼らについて、「大トトロ」は「おおとうさん」、「中トトロ」は「とうさん」とも書かれているので、家族のような関係性なのかもしれない?

■草壁家が引っ越してきたのは療養用の別荘だった!?

本作で印象的なのは、草壁家が越してきた赤い三角屋根の家だ。「お化け屋敷みたい」なんてはしゃぐサツキとメイの姿からもわかるように、とても雰囲気のある建物である。そんな草壁家の新居だが、もともとは結核患者を療養させるための別荘なのだという。

「ロマンアルバム となりのトトロ 」(徳間書店)に収録されている宮崎駿監督へのインタビューのなかで明かされた裏設定で、赤い屋根と白い壁が印象的な洋風の建物は、「結核患者の人のための離れ」だと話していた宮崎監督。庭や建物自体もまだ未完成で、家の完成を待たずして前の住人である病人は亡くなってしまったそうだ。

作中に登場する草壁家のお母さんは、長期間病院に入院している。そんな彼女が退院してきたあとに、空気のいい場所で過ごせるようにと引っ越してきた草壁家。もともと療養用に建てられた家なのだから、離れは日当たり抜群でお母さんがゆったりと体を休めるにはもってこいの家だったというわけだ。

そしてこの家を管理していたおばあちゃんが、田舎に住むお年寄りにしては物言いがハキハキとしていたのも、宮崎監督によると「あの家に女中奉公してた」からだという。本編に登場しない裏設定にもしっかりとした物語があるところもまた、宮崎監督の作品らしく、ファンとしてはこうした裏の物語を知れるのは嬉しい限りだ。

■主人公はサツキとメイじゃない!? ポスターに描かれた女の子

劇場公開時のポスターをよく見ると、トトロの隣に1人の女の子が立っている。赤い傘をさし、2つに髪の毛も結んだ少女は、サツキでもメイでもない女の子だった。この子は誰なのかと、たびたびファンの間では話題にのぼっている。

本作の主人公といえば、サツキとメイの姉妹だ。小学生だけどしっかり者の姉・サツキと、まだまだ母親に甘えたい盛りの妹・メイのやりとりもまた本作の見どころの1つだと言える。

実は「ジブリの教科書3 となりのトトロ」(文春ジブリ文庫)のなかで、プロデューサーの鈴木敏夫さんは、主人公は1人の女の子だったことを明かしている。しかし、同時に上映する映画『火垂るの墓』(高畑勲監督)の上映時間が延びたことで、宮崎監督は対抗心を燃やしたのだとか。そして「映画を長くするいい方法」として思いついたのが、主人公を姉妹にすることだったそうだ。

実際にサツキとメイが喧嘩をしてメイが迷子になってしまうくだりは、本作のなかで重要な部分だった。もし主人公が1人だったら、迷子になったメイを探してトトロに会いに行ったり、ネコバスに乗ったりというワクワクするような展開はなかったのかもしれない。

負けず嫌いとして知られる宮崎監督らしいエピソードで、結果的にサツキとメイという魅力的なキャラクターが生まれ、子どもだけでなく大人も楽しめる物語に仕上がっているのだから、さすがと言わざるをえない。

■衝撃の事実!トトロは人間と戦って敗れた「トトロ族」の末裔

トトロがかつて人間と敵対していた「トトロ族」だったという驚きの設定が明かされたのは、2016年に配信された「LINE LIVE」でのことだった。

鈴木さんと、映画監督の押井守さん、そしてドワンゴ創業者の川上量生さんが作品について語り合うなかで、鈴木さんが宮崎監督から一番はじめに聞いていたトトロの設定について明かしている。

その内容というのが、トトロが太古の昔、人間と戦っていた「トトロ族」であったこと。そして、人間のほうが優れていたことでトトロ族が敗れてしまったという衝撃の事実だった。

そしてトトロ族には生き残りがいて、彼らは移りゆく時代のなかで時々ひょっこりと顔を出すのだそうだ。それが、「もののけ」と呼ばれたり、「おばけ」と呼ばれたりとさまざまな捉え方をされる……こういった設定が、物語の真髄にあったようだ。

そして、このトトロ族の末裔が現代の所沢を舞台にひょっこり顔を出したのが、『となりのトトロ』の物語だと宮崎監督のエピソードを明かす鈴木プロデューサー。あまりに違いすぎるストーリーにスタジオでは笑いが起こるほどだった。

壮大なスケールの物語を生み出し続けている宮崎監督らしい裏話だが、今ではすっかり“かわいいキャラクター”として愛されているトトロ。トトロ族として人間と命をかけて戦ったトトロの物語に興味がわいてしまったのは筆者だけではないだろう。

設定資料や制作スタッフのインタビューなどで明かされる、スタジオジブリの裏設定や裏話。壮大な設定のうえで成り立つ物語だからこそ、細部までこだわり抜かれた作品になるのだろう。

私たちが目にする本編の裏にある“知られざる物語”は宮崎監督しか知りえないものだが、宮崎監督の頭のなかに存在する壮大なイメージの片鱗に触れることができたような気がする筆者だった。

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