舞台『千と千尋の神隠し』大ヒット『進撃の巨人』海外公演決定ーー注目の2.5次元舞台は?

■ロンドンで上演された舞台『千と千尋の神隠し』が大ヒット、次なるヒットは?

宮﨑駿監督による大ヒットアニメーション映画『千と千尋の神隠し』が舞台化され、英ロンドンで上演中だ。主人公の千尋役を橋本環奈、上白石萌音、川栄李奈、福地桃子が交互に演じるこの作品は、2022年に初の舞台化。23年の再演を経て、24年3月からは全国ツアーも並行して行っている。日本のカンパニーが渡英して、日本語による上演を行うのは、日本演劇史上初の試みだ。しかも、4カ月に渡るロングラン公演で、観客動員は約30万人を見込んでいるという。まさに快挙といえる出来事だが、実は、これまでにも海外公演を行った日本の演劇・ミュージカル作品は多い。

中でも、漫画やアニメ、ゲームを原作とした2.5次元舞台は、原作の海外ファンが多いことも相まって、海外公演を成功に導きやすい。そこで、これまでに行われた2.5次元舞台の海外公演を紐解いていこう。さらに、今後、海外での上演が期待される注目の2.5次元舞台も紹介したい。

■これまでに上演された2.5次元舞台は?

数多くの2.5次元舞台が制作され、そのジャンルを確立させた2015年から2020年頃、日本のカンパニーをそっくりそのまま海外へ持っていく、『千と千尋の神隠し』と同様のスタイルの海外公演も積極的に行われていた。ちょうど、内閣府が2020年の東京オリンピックに向けて、クールジャパンを推し進めていた時期でもあったことから、海外向けのイベントや海外でのクールジャパン関連のイベントが多かったという背景もあるのかもしれない。そうした作品の中でも一際、存在感を発揮していた作品をいくつか挙げたい。

ライブ・スペクタクル『NARUTO‐ナルト‐』

2015年3月21日から東京公演を皮切りに、福岡、大阪、宮城、東京凱旋公演を行ったのち、マカオ、マレーシア、シンガポールとワールドツアーを行った『NARUTO‐ナルト‐』。16年の再演では中国6都市とマレーシア、19年の「暁の調べ」の再演では中国2都市も成功させているなど、海外からも高い評価を得ている舞台だ。

岸本斉史による原作を舞台化した本作は、主人公のうずまきナルトが里1番の忍である火影を目指して成長していく物語。原作は、全世界で単行本の累計発行部数は2億5000万部を突破する大人気作だ。15年に初めて舞台化されて以降、シリーズを重ね、23年10月の「忍の生きる道」でついに完結、原作漫画本編の物語を描き切った。原作から抜け出てきたかのようなキャラクターと、プロジェクションマッピングや多様なアクションで忍術をステージ上に再現したステージは圧巻。2.5次元舞台を海外で広く知らしめた作品でもあると思う。コロナ禍以降は、海外公演が難しい状況にあったが、完結編の「忍の生きる道」まで海外へのライブ配信も行っていた。

ミュージカル『美少女戦士セーラームーン』

ライブ・スペクタクル『NARUTO‐ナルト‐』とともに海外で2.5次元舞台を広めた立役者となったのがミュージカル『セーラームーン』だ。“セラミュ”と呼ばれるこの作品は、武内直子の大ヒット漫画を原作としたミュージカル。18年、19年、24年には乃木坂46のメンバーが主要キャラを演じた「乃木坂46版」も上演され注目を集めたが、実は最初にミュージカル化されたのは93年まで遡る。以降、主催を変えて上演が続いてきた。海外公演は、15年にネルケプランニング主催による「美少女戦士セーラームーン-Petite Étrangère-」、19年には乃木坂46版 ミュージカル「美少女戦士セーラームーン 2019」を中国・上海で上演した。そのほか、17年にはアメリカテキサス州ヒューストン市で行われたアニメイベント「Anime Matsurri 2017」に出演し、ミニ・ミュージカルを上演するなど、海外のアニメファンからも根強い人気がある。

ミュージカル『刀剣乱舞』

2.5次元舞台を人気コンテンツに押し上げた作品の一つともいえる『刀剣乱舞』。ネルケプランニングが主催するミュージカル『刀剣乱舞』もまた、海外公演でも注目された作品だ。ミュージカル『刀剣乱舞』は、名だたる刀剣が戦士の姿になった刀剣男士を収集・育成・強化し、歴史改変を目論む敵を討伐する、大人気PCブラウザ・スマホアプリゲーム「刀剣乱舞ONLINE」(DMM GAMES/NITRO PLUS)を原案としたミュージカルシリーズ。刀剣を使った激しい殺陣、日本の歴史に根付いた心に迫るストーリーで人気を誇る。さらに、第1部は本編(芝居)、第2部はライブという2部制になっていることも特徴だ。

そんな本作の海外公演は、17年に「幕末天狼傳」を中国・上海、18年に「阿津賀志山異聞 2018 巴里」をフランス・パリ(「ジャポニズム 2018」公式企画として)で上演。19年には、俳優・佐藤流司が演じる加州清光によるソロライブ、ミュージカル『刀剣乱舞』加州清光 単騎出陣が、上海、バンコク、マカオ、そして東京を回るアジアツアーも開催している。

舞台『となりのトトロ』

『千と千尋の神隠し』と並んで、ロンドンで注目されているのが、舞台『となりのトトロ』だ。22年にロンドンのバービカン劇場で初演され、23年11月から24年3月まで再演されたこの舞台。イギリスの演劇界で最も権威のあるローレンス・オリビエ賞で演出賞など最多6冠を獲得するなど、高く評価されて話題となった。25年3月からは無期限でのロングラン上演も決定している。

この『となりのトトロ』は、ここまで紹介してきた2.5次元作品とは製作過程が大きく異なる。これまで紹介した作品は、日本の制作会社が製作し、日本人キャストで日本語で上演されてきたものだ。当然、メインとなるのは日本での公演となる。しかし、舞台『となりのトトロ』は映画音楽を手掛けた作曲家の久石譲が発案し、日本テレビとイギリスのロイヤル・シェイクスピア・カンパニーが共同製作した作品で、セリフは全編英語、現在まで日本での上演は一度もない。キャストも日本人の有名俳優が出演しているわけでもない。原作は確かに宮﨑駿監督の映画なのだが、最初からロンドンでの上演のために製作された舞台なのだ。舞台『千と千尋の神隠し』の成功とはまた違った意味で、大きな功績を作った作品といえる。

■海外での上演を期待したい2.5次元舞台

ここからは、まだ海外公演は実現していないものの、海外にも原作ファンが多く、その上演が期待される作品をいくつか挙げたい。

舞台『未来少年コナン』

『千と千尋の神隠し』『となりのトトロ』と同じく、宮﨑駿監督作品、『未来少年コナン』を原作とした舞台『未来少年コナン』が現在、東京芸術劇場 プレイハウスで上演中だ。最終戦争後の荒廃した地球を舞台に、恐れを知らない野生児コナンがなおも権力にしがみつく人間たちと戦う姿を描いた冒険アドベンチャーの本作で主演を務めるのは加藤清史郎。演出を、唯一無二の空間演出と卓越した身体表現で魅せるインバル・ピントとダビッド・マンブッフが務める。世界中に熱烈なファンを持つ宮﨑作品を原作としているだけに、海外での上演もぜひ実現してほしいところだ。

ミュージカル『ジョジョの奇妙な冒険 ファントムブラッド』

すでに公演は終わってしまったものの、海外ファンの多い『ジョジョの奇妙な冒険』にも触れておきたい。本作は、荒木飛呂彦の大人気コミック『ジョジョの奇妙な冒険』の中から、「第1部 ファントムブラッド」をベースに世界で初めて舞台化した作品。19世紀末のイギリスを舞台に、主人公ジョナサン・ジョースター(通称“ジョジョ”)と運命的な出会いを果たすディオ・ブランドーを中心に、〈謎の石仮面〉をめぐる熱き戦いと奇妙な因縁を描く。演出・振付の長谷川寧による、徹底的に考え抜かれた緻密な演出で原作の世界観を見事にステージに再現。さらに、“ジョジョ”を演じた松下優也と有澤樟太郎(Wキャスト)、ディオを演じた宮野真守をはじめとしたキャスト陣の熱演っぷりも凄まじく、「目の前で、漫画で見たあのシーンが再現されている!」という感動を味わえる作品に仕上がっていた。日本での再演とともに原作ファンの多い海外での公演も期待したい。

『進撃の巨人 ‐the Musical‐』

そして、このコラム執筆中に『進撃の巨人』‐the Musical‐の初の海外公演決定が発表された。23年に大阪、東京で上演された『進撃の巨人』‐the Musical‐は、諫山創による原作漫画をミュージカル化した作品。

岡宮来夢が主演、植木豪が演出を務めて上演された本作は、音楽とダンス、アクションを多用してその世界観を構築し、実現不可能と思われた巨人のいる世界を作り上げた。描かれているのは物語の序盤のみ。しかし、キャラクターの再現度もかなり高く、個人的にはエレンの「駆逐してやる」の叫びで「エレンが目の前にいる」と鳥肌が立ったほどだった。24年6月21日に韓国・大邱(テグ)で開催される「第18回大邱国際ミュージカルフェスティバル(DIMF)」にて舞台映像の上映が予定されている。

さらに、24年10月11日から13日にアメリカ・ニューヨークのNew York City Centerでの上演が決定。日本初演に引き続き、演出を植木、エレン・イェガー役を岡宮、ミカサ・アッカーマン役を高月彩良、アルミン・アルレルト役を小西詠斗、リヴァイ役を松田凌、エルヴィン・スミス役を大野拓朗が務める。日本初演は、そのクオリティの高さゆえ、開幕直後からSNS上で口コミが広がり、大盛況のまま幕を閉じた本作。ニューヨークではどのように受け取られるのか。開幕を楽しみに待ちたい。

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