【コラム・天風録】ホタルと水

 「あっちのみーずは苦いぞ/こっちのみーずは甘いぞ」。あの童謡の歌詞がなぜ水なのか、気になる人もいるのでは。実はホタルの生態をよく表している。成虫は餌を全く食べないのだ。はけのような口で水を吸うだけらしい▲幼虫時に巻き貝を食べて蓄えた栄養を頼りに、成虫として生きられるのは1、2週間。子孫を残すことに専念する。初夏の光の舞は、最後の力を振り絞って恋の相手を探しているところだろう。飛ぶ速さは、散る桜と同じという。なんともはかない▲せめてきれいな水で潤してやりたいところだが、気になる問題がある。最近の調査で、一部の川や井戸の水に有機フッ素化合物(PFAS)が含まれていることが分かった。自然で分解できず「永遠の化学物質」と呼ばれる▲高濃度の地には、蛍狩りの名所近くもある。PFASは目に見えず生物への影響が不明な点が、不安を募らせる。苦いか甘いかは知らないが、「ほーたる来い」と自信を持って誘えない▲山口市でホタルが舞い始めたとの記事が本紙に載った。ぜひ多くの人に古来の風流を楽しんでもらいたい。「永遠」と形容するのは化学物質でなく、ホタル舞う古里の景色であってほしい。

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