【社説】静岡知事選も自民敗北 裏金やめねば逆風も続く

 おととい投開票された静岡県知事選で、自民党は4月の衆院3補選に続く敗北を喫した。地方選挙でも、党への逆風が吹いていることが改めて示された。

 支持率低迷の続く岸田政権には手痛い打撃と言えよう。秋の自民党総裁選に向け、党内では「岸田おろし」の動きが活発化しかねない。

 ただ、忘れてもらっては困る。自民党には真っ先にやるべきことがある。逆風はもともと、派閥の政治資金パーティーを巡る裏金事件が発端となって強まった。党が主導して、この問題を解決しない限り、決して収まることはない。肝に銘じる必要がある。

 今回の知事選は、前任の川勝平太氏が職業差別とも取れる発言をして、任期途中で辞職したのがきっかけとなった。立憲民主、国民民主両党が推薦した元浜松市長の鈴木康友氏が、自民党推薦の元副知事、大村慎一氏ら合わせて5人の新人を破った。

 注目されていたのは、リニア新幹線への対応だろう。川勝氏が長年、関連工事による水資源への影響を懸念して、着工を認めてこなかったからだ。そういう川勝流をどう引き継ぐのか―。鈴木、大村両氏とも、環境重視の姿勢を強調しつつ、工事推進を掲げた。両氏の姿勢に、さほど差はなかった。

 目立ったのはむしろ、地域間対立だった。鈴木氏は、市長を務めていた浜松市とその周辺の県西部で票を大幅に上積みしてリード。対する大村氏は、出身地の静岡市をはじめ県中部と東部で差を詰めたが、及ばなかった。ただ、全体の得票率で見ると、差は5%程度。序盤で予想されていたほど、差は開かなかったと言えるのではないか。

 大村氏を担いだ自民党への逆風が大きな影響を与えた。「自民色」を薄めようと党幹部の投入を控えたが、有権者に見透かされたようだ。

 何より、裏金事件が大きかった。地元の自民党衆院議員のトラブルが続いたことも響いている。裏金事件の牙城となった安倍派で座長を務めていた塩谷立氏は党の勧告を受け、離党した。宮沢博行氏は女性問題で議員を辞職した。

 国民の怒りを買い、不信感を増幅させた。まずは裏金を一掃できるよう政治資金規正法を改正するのが筋だろう。にもかかわらず、自民党はいまだに後ろ向きで、自浄能力はうかがえない。

 連立を組む公明党からは、規正法改正案で距離を置かれている。「同じ穴のむじな」と見られたくないとしたら、当然である。知事選でも自主投票にとどまり、自民党が勝てなかった一因になった。

 自民党への逆風は、同じ日に投開票された他の選挙でも示された。東京都議補選の目黒区選挙区(2人)は、立憲民主党の元職は当選したものの、自民党新人は苦杯をなめた。岸田文雄首相のお膝元、広島県府中町長選でも与党推薦候補が倍近い差で敗れた。

 自民党が国民の信頼を回復したいなら、民意を重く受け止めるべきである。裏金根絶に向けて、本気で取り組む以外に道はない。

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