2022年から続く「1ドル=150円」超え…今後の「円安の行方」はどうなる?→国際金融アナリストの回答

(※画像はイメージです/PIXTA)

2022年から3年連続で「1ドル=150円」を超え、長期化する円安。しかし、円安の主因に着目すると、2022年と2024年とでは異なる可能性が高い、とマネックス証券・チーフFXコンサルタントの吉田恒氏は言います。当面の円安の行方を読み解くうえで、焦点となる考え方について、詳しく見ていきましょう。

当面の「円安の行方」を考える焦点とは

〈ポイント〉
・2022年から3年連続で1米ドル=150円を超える円安となったが、その主因は変わってきている。「歴史的円安」の理由は、経常収支の構造的悪化か、金利差拡大か。
・2024年に入ってからの円安は、以前に比べ、投機主導の構図が強まった。ただし、投機的円売りも過去最大規模に拡大するなど、行き過ぎの懸念が強くなりつつある。
・当面の円安の行方を考える焦点は、投機的円売りの今後の動き次第か。

3年連続で150円超の円安…理由はすべて異なっていた

2022年に米ドル/円は、1990年以来約32年ぶりで150円まで上昇、「歴史的円安」と呼ばれました。この「歴史的円安」の背景として、一部には経常収支の悪化を注目する見方もありました。たしかに、2022年度の日本の経常収支は黒字が9兆円と、前年度から半減しました(図表1参照)。

[図表1]日本の経常収支と米ドル/円(2000年~) 出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券作成

経常黒字急減の主因は、過去最大を記録した貿易赤字。円安でも貿易収支が改善しない、または新たな「デジタル赤字」などの出現による、経常収支の構造的悪化が「歴史的円安」の大きな要因との見方もありました。

ただ、その経常収支は、2023年度に大きく改善しました。2023年度の経常黒字は、25兆円と過去最大となりました。ところが、この2023年も前年に続き、150円を超える円安となったわけです。経常黒字が記録的に拡大したにもかかわらず、「歴史的円安」が再現した理由とは何だったのでしょうか?

2022年から始まった、約40年ぶりの歴史的インフレ対策としての米国の大幅利上げ。それを受け、米金利も大幅に上昇したものの、2023年7~9月期の米実質GDP伸び率は前期比でほぼ5%といった、異例の高い数値となるなど、予想以上に強い米景気が続きました。それにより、米長期金利、10年債利回りは、一時2007年以来の5%まで上昇しました。

この米金利の上昇を受けた日米金利差の「米ドル優位・円劣位」の拡大が、日本の経常黒字が急拡大したにもかかわらず、2年連続で150円を超える「歴史的円安」の再現を招いた主因といえます。そもそも2022年も、日本の経常黒字急減は、150円超の「歴史的円安」が起こった一因にすぎず、より大きく影響したのは、すでに見てきたように、歴史的インフレ対策で米国が大幅利上げに動いたことによる、日米金利差の米ドル優位・円劣位が急拡大したことだったのではないでしょうか(図表2参照)。

[図表2]米ドル/円と日米10年債利回り差(2022年1月~) 出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券作成

日米金利差が円安の「主因」ではない、といえるワケ

ところで、日米金利差の「米ドル優位・円劣位」は、2024年に入り今に至るまで、2023年までのピークを下回っています。にもかかわらず、米ドル/円は、過去2年のピークとなった151円を大きく上回り、一時160円まで上昇しました。金利差で説明できる範囲を大きく超えた「米ドル高・円安」が起こった理由とは何だったのでしょうか?

2023年までの円安との顕著な変化の1つに、「投機的円売り」の急増がありました。ヘッジファンドの取引を反映するCFTC(米商品先物取引委員会)統計の投機筋の円売り越し(米ドル買い越し)は、4月下旬には約18万枚と、2007年に記録した過去最高値と、ほぼ肩を並べるところまで拡大しました(図表3参照)。

[図表3]CFTC統計の投機筋の円ポジション(2022年1月~) 出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券作成

すでに見てきたように、日米金利差の米ドル優位・円劣位は、むしろ2023年までのピークを下回っていました。にもかかわらず、投機円売りはなぜ、2024年に入って急増したのでしょうか?

CFTC統計の投機筋の円売り越しが、過去最大規模に拡大した今回と2007年に共通しているのは、日米金利差の大幅な「米ドル優位・円劣位」の長期化といえます(図表4参照)。日米金利差の米ドル優位・円劣位は、投機筋や短期売買筋にとっては、「円売り」に有利な一方で、「円買い」には極めて不利です。そのような状況が長期化するなかで、円売りが急増したと考えられます。

[図表4]日米政策金利差とCFTC統計の投機筋の円ポジション(2005年~) 出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券作成

以上より、日米金利差の米ドル優位・円劣位のピークは、2023年を下回っているものの、大幅な日米金利差の「円劣位」が長期化するなかで、投機円売りが2024年に入って一段と拡大し、150円超の「歴史的円安」に繋がった可能性が高いです。

これまで見てきたことから考えると、一時160円まで達した「歴史的円安」は、構造的な経常収支の悪化が主因ではなかったといえます。そして、強すぎる米景気による日米金利差の「米ドル優位・円劣位」の拡大も、2024年に入ってからの円一段安を説明できるものではなかったようです。足下の円安の主導役が、投機円売りの拡大であるとすると、この歴史的円安の行方は、目先的には投機円売りがいつまで続くか次第となるでしょう。

投機円売りも、前出のCFTC統計などを見るかぎりでは、過去最高規模に達しています。つまり、過去には投機円売りが拡大したことのないところまで達したといえます。投機円売りが、目先的に過去最高をどれだけ更新できるか、それが歴史的円安の行方を決める一番の目安と考えられます。

吉田 恒

マネックス証券

チーフ・FXコンサルタント兼マネックス・ユニバーシティFX学長

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