【5月28日付編集日記】根本良一さん

 道楽が過ぎ、親に勘当された綱五郎。姿を数年くらました後、許しを得たのはいいが、何日かして「もう一度、勘当してはもらえないか」と言い出した

 ▼浄瑠璃「糸桜本町育」の一節。「乞食(こじき)は三日やったらやめられぬとの例えもあるが、自分には商売の仕事が気詰まりで仕方がない」と、綱五郎は訳を話す。仕事が合う合わないという悩みは、今も昔も同じらしい

 ▼「合併しない宣言」で知られた元矢祭町長、根本良一さんが逝った。ある事件で首長多選の弊害が話題になっていた頃、6期目終盤の根本さんがこんなことを言っていた。「町長にあるのはやりがいと権限。金じゃない。町長と何とかは三日やったらやめられない」

 ▼東日本大震災後には「公務員は『大過なく』の意識が強く、想定外の事態に不向き」と厳しめの言葉も聞いた。ただ、その後に「それでも避難者とじかに接する市町村は動かざるを得ない」と加えて、奮闘に期待を寄せるのを忘れなかった

 ▼新聞記者はやめられないと感じるのは、こうした誰かに読んでもらいたい本音に出合えたとき。根本さんの現役当時よりも、これらの言葉を届けたい政治家や役人が増えている。できればもう一度、話が聞きたかった。

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