【韓国の個人旅行ガイド】ソウルの北朝鮮料理店、温麺の味は?物足りないけれど「たまに無性に食べたくなる」理由

南浦麵屋の温麺。写真でもインパクトがなさそうな気になる?

ウズベキスタン、カザフスタンといった中央アジアの国には、朝鮮系の人たちがいる。朝鮮半島が南北に分断される前に旧ソ連に渡った人たちの2世、3世といった人たちが多い。そんな人たちが店を構えているのが、バザールのキムチコーナーである。さまざまなキムチが売られているが、必ず、山型に積まれたニンジンキムチがある。中央アジアの人たちは、このニンジンキムチをよく食べる。

■北朝鮮料理店と中央アジアのバザールのキムチ、味の共通点は?

中央アジアの主食はパン。イスラム系の人たちが多く、羊肉をよく食べる。なかでも羊肉を太めの串に刺して焼くケバブは日常食。店頭で羊肉を焼いている光景はよく見かける。

それを頼むと、串刺しの肉塊と一緒にニンジンキムチが出されることが多い。パンと羊肉にこのニンジンキムチがよく合う。口のなかをさっぱりさせてくれる。

中央アジアのキムチは唐辛子が少ない。ほとんど辛くない。それを食べるとわかるのだが、それはもうサラダなのだ。保存が利くサラダといった感覚だ。

北朝鮮レストランやソウルの北朝鮮系の店と口にするキムチに近い。ソウルの乙支路1街にある南浦麵屋で白菜キムチを口にしたとき、中央アジアのニンジンキムチを思い出した。

サラダ──。たしかに中央アジアや北朝鮮系の店のキムチはサラダ感覚なのだが、ドレッシングをかけたりはしない。すでに味がついている。それがうま味というものなのかもしれない。知人はそれを中毒といったのだろうか。月に1回ぐらい、無性に食べたくなると……。

韓国にニンジンキムチがないわけではない。キムチ専門店ではあまり見かけないが、食堂に入ると、小皿にニンジンキムチが盛られて出てくるときがある。しかし辛い。赤い粉末唐辛子がまぶされている。ニンジンキムチのつくり方の動画を見ると、たしかにどッと唐辛子を投入している。この辛みは加わると、サラダ感覚が失われ、単体としてのキムチになっていく。しかしうま味は含まれている。つまり、まず辛さを味わい、その先にうま味が待っているという構造になる。

韓国の人たちは欲張りということなのかもしれない。キムチに辛みとうま味の両方を求めているということなのだろうか。

韓国キムチ。唐辛子が多いから、赤系の色が強くなる

■物足りない味だけど、食べ進めていくとなにかが変わる……

南浦麵屋では、知人にすすめられて温麺を頼んだ。しばらくすると、湯気をたてた温麺の丼がテーブルに置かれた。スープを飲み、麺を啜る。

「ん?」

味がしない? いや、味はする。しかしなんだかすごく頼りない……。

「でしょ? 僕も最初に食べたとき、そう思った。まずッという言葉が出てしまったほどでしたよ。でもね、食べ終わるとなにかが変わるんです。うまく口でいえないんだけど」

僕は知人の言葉を信じて食べつづけた。

なにかが変わる?

ほぼ麺がなくなりかけた頃、ひょっとしたらこれかも……という気になった。魚の干物を食べたときに、口のなかに残る味に近い。

キムチのうま味は発酵食品のうま味である。アミノ酸系のうま味で、グルタミン酸が突出して多いのだという。

温麺を食べ進めて口中に残る味は、キムチと同じようにアミノ酸系のうま味なのかもしれない……などと考えてみる。

温麺も中央アジアや北朝鮮系の店のキムチのように、最初に舌に到達する味が薄い。しかし食べ進めていくと、じんわりと伝わってくる。

現代の食べ物は、最初のひと口の味が人気を左右するといわれる。ひと口食べて、「おいしい」という印象を得られた食べ物がヒットしていくのだという。

韓国の食べ物は、キムチにしても、サムギョプサルにしても、そういった食べ物の近代化の洗礼を受けていまの味になったということなのだろう。だから人気の食べ物になっていった。

ということは、中央アジアのキムチや北朝鮮系の料理は、近代化に乗り遅れたということなのだろうか。だからキムチはサラダのように映り、料理は食べ進めないとおいしさに辿り着けない。しかしその味の記憶は脳裡の奥に残され、たまに顔をのぞかせる。「無性に食べたくなる」という食欲のからくりとはそういうものなのか。

北朝鮮系の料理は奥が深い。

南浦麵屋。乙支路1街の路地に面している。向かいは小さな公園

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