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納品したのち、クライアントからの修正に対応しなければならないときもあるでしょう。とはいえ際限なく修正を求めてくるクライアントには、どう対応すべきなのでしょうか。本記事では、クリエイティブ分野に特化したリーガルサポートを行っている弁護士の宇根駿人氏・田島佑規氏による著書『クリエイター六法 受注から制作、納品までに潜むトラブル対策55』(翔泳社)から一部抜粋して、度重なる修正・無償でのやり直し等のトラブルを回避する契約上のコツについて解説します。
何度も何度もやり直しをさせられている
類似のケース
●納期が延びて案件が終了しない
●納品完了後に修正を求められている
相談事例
いつまで修正対応しないといけないの!?
イラストレーターのXさんは、普段からSNSで、クマのイラストを制作して発信していました。ある日、衣料品メーカーY社から「Y社が新商品として企画しているTシャツにワンポイントであしらうため、クマのイラスト制作を依頼したい」と問い合わせがありました。
Y社からの問い合わせには「普段からSNSを拝見しており、Xさんのイラストのファンで、ぜひXさんにお願いしたいと思いご連絡しました。性別・年齢問わず着用できるようなTシャツにしたいので、かわいらしいけどもかわいらしすぎないイラストの制作をお願いできればと思っています」とありました。Xさんは、自分のファンということもあり、受注することとしました。
XさんとY社は、発注書のやりとりを行い、「①クマのイラスト制作1点」「②制作費用5万円(消費税別)」「③納期は別途Y社が指示した日時」という条件で合意しました。
2週間後、Xさんはラフ案を3案提出しました。Y社からは、「2番目の案がかわいらしくていい。その案をベースに制作してほしい」と連絡がありました。2週間後、Xさんは2番目の案をベースに納品物を制作し、提出しました。しかし、Y社から「社内でかわいすぎるという意見が出たので、もう少し修正をお願いしたい」と連絡がありました。
Xさんは、この連絡を受けて、修正を行い再度提出しました。すると、Y社から「社長に報告したところ、1番目の案の方がよかったという話になった。1番目の案で改めて制作してもらえないか?」と連絡がありました。
「2番目の案で進めることになり、一度修正も行ったあとに、今さら別の案を指定するなんて……」と思いましたが、「納期はY社が指定する日時となっており、Y社が納品として認めない以上は、要望に応じ続けなければいけないのかな?」とXさんは迷っています。
対応策
業務が完了した前提で交渉してみる
度重なる修正をさせられない、または、やり直しするとしても別途の有償対応とするためには、まず、受注した作業が完了しているかどうかがポイントとなります。
今回の件でいうと、受注した作業は「クマのイラスト制作1点」ですが、仮にクマのイラストを1点制作し納品が完了したといえるのであれば、受注した作業は完了しているため、それ以上の修正には応じる義務はないと判断できるでしょう。
ありえないでしょうが、例えば、間違ってネコのイラストを制作・納品していた場合などは受注した作業が完了しているとはいえません。
今回のケースでのポイントでは、「納期は別途Y社が指示した日時と定められているので、いつどの作業が完了したら納品が完了したといえるのか、納品までに何回修正に応じる必要があるのかなど、曖昧な状況である」という点です。
そのため、修正に応じる義務があると判断されるおそれがあります。もっとも、今回の件では、2番目の案で制作合意がなされ、さらに一度、修正依頼に応じて提出が完了している以上、この時点で納品が完了したと評価できる可能性もあります。
このように曖昧な状況なので、対応策としては、「受注した作業はひとまず完了し納品しているため、1番目の案への変更や、さらなる修正依頼をいただく場合には、別途、費用を頂戴します」と交渉してみることが1つ考えられるでしょう。
予防策
納品までの作業工程を合意しておく
度重なる修正を防ぐには、受注時に、納品までの作業工程をきちんと確認しておくことが重要です。例えば、いつデザイン案を提出するのか、デザイン案提出後から納品時まで何回修正を受け付けるのか、といった制作スケジュールをきちんと合意しておくのです。
また併せて、所定の修正回数を超えた場合には、別途費用が必要である旨を見積書などに記載しておくことも重要です([図表1])。
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[図表1]見積書の例
こうすることにより、合意した回数を超える修正は別途、有償対応となることが交渉しやすくなりますし、スケジュール通りに作業を行えば受注した作業が完了したということが客観的にわかりやすくなります。
なお、次回以降の受注を見据えて合意した回数以上の修正をサービスで行う分には問題ありませんが、その場合も「今回はサービスで無償で対応している」ということを伝えておくのがよいでしょう。
■ワンポイントアドバイス
Webサイトの制作の場合は、納品後に不具合が発覚することもあると思うので、納品後の修正対応(無償で修正対応する事象と有償対応とする事象の区別など)についても合意しておくのが特に望ましいでしょう。また、Webサイトの制作の場合は、納品後の運用・保守業務を誰が行うかについて、クライアントと齟齬が生じやすい事項でもあるので、その点もきちんと合意しておくことがおすすめです。
宇根 駿人
大道寺法律事務所
弁護士
田島 佑規
骨董通り法律事務所
弁護士